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創作BL小説ブログ
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「え……」
 一瞬、自分の耳を疑った。夏江を好きすぎて、とうとう夏江の言葉を自分の都合のいいように聞くことのできる特殊能力を身につけてしまったんだと思った。
「おれの耳、ヘンになった」
 夏江はちょっと困ったように眼鏡のブリッジを押し上げた。
「えっと……伝わらなかったか? おまえのことが大事だって言ったんだけど」
「……おれの幻聴じゃなくて?」
「間違いなく俺が言ったんだよ」
「夏江はおれが大事なの?」
「さっきからそう言ってる」
 あ、ちょっと怒った。でもおれだって俄かには信じがたいもん。大事ってどういう意味? 友だちとして? それとも……なんて訊けないし、訊いちゃってもしおれの望んだ答えじゃなかったらショックだ。だからあえて違う角度から攻めてみることにした。
「いつから?」
「いつからって……多分、大学の頃から」
「でも卒業のとき夏江はおれを切ったじゃん」
「そのことについては謝るよ」
「謝るんじゃなくて理由を教えて。前に夏江はおれのお守り役でいることが虚しくなったって言ってたけど本当にそれだけ?」
 おれが食い下がると、夏江は落ち着かない様子であたりをきょろきょろ見まわした。どうやらまわりの客もおれたちの様子がおかしいことに気づき始めたらしく、数人がちらちらと好奇の視線を送ってくる。
「場所を移そう」
 夏江はおれの手を引いて歩き出した。
「あっ、手を……」
 放して、なんて言ったところで夏江には届かない気がした。今日の夏江はいつもと違う。普段はお母さんみたいにやさしくて……いや、仕事のときは厳しいけど、でも成人男性に対してそれはどうよって思うくらいおれを甘やかしてくれるのに、今は強引で、自分本位で、おれの言うことを少しも聞いてくれない。
 でも、そんな夏江もステキ。すごくドキドキする。
 もう魚を鑑賞するどころじゃなかった。おれたちは順路に従ってどんどん先へ進んだ。新しく公開になった話題の水槽もマグロが回遊する巨大水槽もすっ飛ばして、とにかく大人の目を盗んで悪さのできる場所を求めて町中を彷徨う“したい盛り”の中学生のように、ふたりきりになれる場所を必死に探した。そうして辿り着いた先はクラゲの水槽だった。
 入口と出口以外をぐるっと黒い壁に囲まれ、周囲から完全に隔離された真っ暗なブースにそのクラゲの水槽はあった。漆黒に透き通った水の中を、青白く発光するクラゲたちがゆらゆらと漂っている。その幻想的な光景におれは一瞬で心を奪われた。
 きれいだ。
 ほんとにきれいで、儚くて、怖いくらい無意味だ。
 いや、無意味だなんて失礼だよね。クラゲだって生きてるんだから。でも、ただひたすら緩やかな水の流れに身を任せるだけのクラゲたちを見ていると、これが生物だなんて信じられない気がしてくる。なんかもっと別の、深海からのメッセージというか、思考そのものというか、すごくこう……哲学的な……。
「なんだろう。この子たちはなにを考えてるんだろう」
 水槽に鼻先が触れるほど近づいてクラゲに見入っていたおれの耳に、誰かのため息が聞こえてきた。
「俺にはおまえのほうが謎だよ」
 ふと気づくと、おれの繋がれていたほうの手はいつの間にか自由になっていた。多分、クラゲの水槽に駆け寄ったときにおれが振り解いたんだと思う。
「夏江……」
 恐る恐る振り返ると、夏江は太いパイプを1本横に渡してあるだけの簡易ベンチに浅く腰をかけ、腕組みをしておれを見ていた。
「ごめんなさい」
 おれは小さく謝って、叱られた飼い犬のように夏江の隣に戻った。ひと呼吸おいて夏江が口を開く。
「なんで大学を卒業するときにおまえから離れたか、だったな」
「うん」
 そうだった。その話をするためにほかのお客さんがいない場所を探してたんだっけ。「お願いします」と夏江のほうを向くと、夏江はおれじゃなくて真っ直ぐクラゲの水槽を見つめていた。
「正直に言うよ……といっても俺自身、最近になってようやく自覚したんだけど」
 そう前置きする夏江は、クラゲじゃなくてもっと遠くを見ているようだった。
「あのとき自分ではおまえのお守りに疲れたんだと思ってたんだ。もううんざりだと。けど違ってた。本当はおまえが次々と女と付き合っては振られて傷ついてるのが気に入らなかったんだ」
「振られても懲りずに夏江の彼女を奪ってたから?」
「そうじゃない。結局いつも最後には振られて泣くのに、そんなおまえの傍にいるのはいつだってこの俺なのに、なんで俺を好きにならないんだって思ったんだ。俺を好きにならないおまえの傍にいるのが辛くなったんだ」
「うそっ」
 それってまさか……。
「嘘や冗談でこんなこと言えるか」
 落胆したように夏江は大きなため息を吐き出した。おれは慌てて夏江の服にしがみついて訴える。
「夏江、ねえ聞いて。おれが夏江の彼女たちを奪ったのはなんでだと思う?」
「奪ったんじゃなくて、単に彼女たちが俺よりおまえを選んだってだけだろ」
 ああ、夏江は本当にいい人だね。それに比べておれは最低だ。
「違うよ。おれはわざと奪ったんだ」
 夏江がぎょっとした顔で振り返ったけど、おれは構わず続けた。
「夏江が女の子と付き合ってるのを見たくなかったから……彼女面で夏江の隣にいる女が邪魔だったから……」
「でもおまえ、いつも振られて泣いてたじゃないか」
「それは自分の醜さとか浅ましさとか夏江に対する後ろめたさとか、そーゆーもののために泣いてたんだ」
「そうだったのか……」
 ひと言だけ呟いて、夏江は黙ってしまった。なにを考えてるんだろう。おれの話を聞いてどう思っただろう。おれは怖くなって訊かずにはいられなくなった。
「引いちゃった? おれを嫌いになった?」
 夏江は首を横に振った。
「確かにおまえは彼女たちに対してひどいことをしたけど、それを言うなら俺も同罪だ。俺も彼女たちを逃げ場に利用してたんだから」
 力なく微笑む夏江。その瞬間、心臓がぎゅっとなって、目の前のこの男が愛しくて堪らなくなった。
「夏江っ、好き! 大好き!!」
 夏江の服を掴んだまま、その肩口にぐりぐりと額を擦りつける。
「好き……ずっとずっと好きだったんだ」
 何度目かの「好き」で、ようやく応えるように夏江の手がおれの髪をくしゃくしゃと掻きまわした。それからひと言、こう呟いた。
「知らいでか」
 一瞬固まってから、おれは弾かれたように顔を上げた。
「はあっ!?」
「まあ、これも最近になってからだけど、なんとなくそんな気はしてたよ」
「うそ、気づいてたのに知らん顔してたの? それってひどくない?」
「まだ好きだって言われてないのにどう答えろって言うんだよ」
「夏江のほうから告白してくれればよかったのに」
「だっておまえ、幸せになったらまんが描けなくなるんだろ? 担当としてはそれだけは避けたいし」
 うっ、前科持ちのおれとしてはそれ以上なにも言えない。
「もうっ、夏江のいけず!」
「あははは」
 ひとしきり声を上げて笑うと、夏江はひとりだけ晴れやかな顔で「腹が減ったな」と立ち上がった。だけどおれはそれに従わない。だって口惜しいもん。
「おれにばっかり言わせて夏江はずるい!」
 恨みがましく文句を言うと、夏江は背後からおれの頭を両手で押さえ、言い聞かせるように……というより誑かすように囁いた。
「拗ねるなよ。おまえが売れっ子になったら飽きるまで聞かせてやる」
 それからおれのつむじに「ちゅっ」とひとつキスを落とした。
「こっ、こんなんで許さないんだからっ」
 強がりを言いながら、おれは空だって飛べそうな気分だった。





目次へ27.真実の言葉 へ





ここまで「春夏」を応援してくださったみなさま、本当にどうもありがとうございました。
これで完結というわけではありませんが、私の気持ちとしてはひとまずケリがついたので
今後はこのシリーズ本来の形、すなわち“息抜き的読み切り不定期連載”に戻したいと思います。
「長編を書いてないのになんの息抜きだよ」と突っ込まれそうなので、
できれば次は長編でお会いしたいと考えています。そのための準備期間を少々いただきますが
必ず戻って参りますので、そのときはまた巡回コースに入れてもらえるとうれしいです。
それではまた^^

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■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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■□ PROFILE
管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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