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 鷹也は夢から覚めた。
 時計の針は午前10時をまわっていた。
 ベッドの中でしばらくぼんやりしてから、気だるい身体を引きずるように窓辺に立ち、カーテンを開けた。
 細い道路を挟んだ斜向かいに、古い木造の2階建てアパートが見える。夢の中の小さな真紘は、そのアパートの階段に座って母親の帰りを待っていた。
 あの頃、鷹也と謙司は決まって真紘を誘い出し、いつも3人で遊んでいた。3人の中で一番身体が小さく、女の子のような顔立ちをしたかわいい真紘を、鷹也と謙司は守ってやっているつもりだった。それなのに真紘は謙司のあとばかり追って、鷹也を相手にはしてくれなかった。それがおもしろくなくて、鷹也は謙司に対抗心を燃やしていたが、おおらかであまり物事に頓着しない謙司が、鷹也とまともにやり合うことはなかった。
 面倒見のいい謙司は、真紘との再会で当時の庇護欲を喚起されたのだろうか。母親を亡くし、記憶を失くした真紘への同情心だけで、自転車でも通える距離に住んでいる彼の部屋に転がり込んだりするだろうか。真面目な優等生で通っていた謙司が、そんな思い切ったことをするだろうか。
 考えれば考えるほど、鷹也の頭の中には次々と疑問が生まれてくる。
 鷹也は机の上に置いてあった携帯電話を部屋着のポケットに入れ、1階へ下りた。
 謙司に線香をあげようと居間を覗くと、そこには母親の範子の姿があった。
「おはよう。なんか食べるものある?」
 はいはい、と返事をしながらキッチンへ向かった範子と入れ替わりに、鷹也は祭壇の前に座る。
 剣道で鍛えた謙司の逞しい身体が、こんな壺に収まってしまっていることが、未だに鷹也には信じられない。穏やかな微笑みを湛えた謙司の写真が、今にも喋り出しそうな気さえした。
 鷹也は手を合わせ、心の中で謙司に語りかける。
 兄貴、真紘に会ったよ。背は高くなったけど、顔はあまり変わってなかった。
 兄貴はどうして真紘と一緒に暮らしてたの? 真紘が寂しそうだったから? 本当にそれだけなのか?
 鷹也は謙司の遺影に挑むような視線を向けたが、当の謙司は相変わらずゆったりと微笑むだけだ。
「鷹也、ご飯の支度できたわよ」
 範子の声に思考を中断し、鷹也はダイニングに移動した。テーブルの上には温め直された食事が並んでいる。
「親父は出かけたの?」
 鷹也は味噌汁をひと口飲んでから、向かいの席でお茶をすする範子に訊ねた。
「ええ、検事さんのところに……」
「ふうん」
 それからは、鷹也が食べ終わるまで2人とも無言だった。謙司が死んでから、家族の会話はめっきり減っていた。
「ごちそうさま」
 そう言って鷹也が箸を置くと、範子は空になった皿を下げ始めた。
「母さん、ちょっといい?」
「なあに? あらたまって」
 範子はテーブルの上をきれいに片づけ終えると、再び鷹也の向かいに座った。
 小さく深呼吸をしてから、鷹也はポケットに手を入れた。取り出した携帯電話を、母親の目の前に差し出す。
 範子の顔色が変わった。
「これは兄貴のケータイだよ。黙って持ち出してごめん」
 緊張した面持ちで、範子は携帯電話を見つめている。
「昨日、真紘に会ったんだ」
 鷹也はいったん言葉を区切って、母親の反応を窺う。
「……と言っても、昔の記憶を失くしてて、俺のことは憶えてなかったけど」
 その言葉に、範子は深いため息をついた。
「そう……。真紘ちゃんの様子はどうだった?」
 真紘が記憶を失くしていることを告げても、範子は驚かなかった。やはり知っていたのだ。予想はしていたが、やはり鷹也にはショックだった。
「元気そうに振舞ってたけど、顔色が悪かった。あんまり寝てないみたいだよ」
 範子は心配そうに目を伏せた。まるで我が子を思う母のようだと鷹也は思った。
「母さんは全部知ってたんだね? 真紘がこの町に戻ってきたことも、兄貴の同居相手が真紘だということも、真紘が記憶を失くしたことも……最初から知ってたんだね?」
「待って。真紘ちゃんがこの町に戻ってきたことは、謙司から聞いて初めて知ったのよ。まさかこの町に戻ってくるとは思ってなかったから……」
 範子の弁解が、鷹也の神経を逆撫でる。
「俺はおばさんが亡くなったことも、真紘が施設に入れられたことも知らなかった」
 真紘がこの町に戻ってきたことを謙司から聞いて知ろうが、前から知っていようが、そんなことは問題ではない。真紘のことを自分だけが知らされてなかったという事実に、鷹也は怒りと悔しさを覚えた。
「あの頃、おまえはまだ小さかったから、本当のことは言わないでおこうと、お父さんと相談して決めたのよ。謙司に話したのも、真紘ちゃんと再会したあとだったわ」
 鷹也だって、よその家庭の込み入った事情を、年端もいかぬ子どもに内緒にしておきたい親の気持ちはわからなくもない。もしも聞かされたとしても、当時の鷹也に理解できたかどうかも怪しい。
「母さんたちの気持ちはわかるよ。でも、俺はもう子どもじゃない。本当のことが知りたい。真紘はなんで施設に入れられたの? おばさんの実家は? 引き取ってくれる親戚もいなかったの?」
 当時、真紘に父親がいないらしいことは子ども心にもなんとなくわかっていたが、真紘の母親の実家や親戚付き合いのことまではわからない。ましてや、真紘の母親が死んで、真紘が天涯孤独になってしまったことなど露知らず、真紘は母親の仕事の都合で遠くに引っ越したのだという範子の言葉を信じて疑わなかった。
 範子の不安げな視線が鷹也を捉え、再び携帯電話に落ちた。鷹也は母親がなにを懸念しているのかを悟った。
「大丈夫。俺は兄貴みたいに家を出てったりはしないよ」
 長男に先立たれたうえに、弟まで家を出てしまったら、二重に母親を苦しめることになってしまう。
 しばしの沈黙のあと、範子はゆっくりと語り出した。
「由季子さんがそこのアパートに引っ越してきたのは、まだ真紘ちゃんが生まれる前だったわ。彼女は富山の出身で、実家や親族とは絶縁状態だった。向こうで妻子のある男性と恋をして、東京に駆け落ちしてきたから……。結局、その男性は奥さんのもとに戻ってしまって、由季子さんが妊娠していることがわかったのはこの町に越してきたあとだったの。由季子さんは、子どもができれば彼は帰ってきてくれると信じてたみたいだけど、現実はそうじゃなかった」
 鷹也は胸が悪くなった。
「おばさんは男を取り戻すために真紘を産んだのかよ」
「そんな意地だけで子どもを産んで育てることはできないわ。由季子さんは本当に真紘ちゃんを愛していたのよ」
 由季子を庇うというより、範子がそう信じたがっているだけのようにも思えたが、このことで母親と言い争っても仕方ない。鷹也は話の向きを変えた。
「……おばさんはなんで亡くなったの?」
「お酒で身体を壊して……」
 男に裏切られ、働きながら女手ひとつで子どもを育ててきたのだ。酒に逃げたくなる由季子の気持ちもわからないではない。
 けれど、酒に溺れる母親の姿を見ながら育った真紘の心の傷はいかほどか、考えただけで鷹也の胸は締めつけられるように痛んだ。真紘にその頃の記憶がないことは、かえって救いだったかもしれない。
「このことを兄貴には話したんだね?」
「ええ」
 心やさしい謙司が真紘のそばにいてやりたいと考えても無理はないかもしれない。
 謙司の存在が少しでも真紘の支えになっていれば、と願う反面、なぜいつも自分ではなく謙司のだろうかと、鷹也は悔しさに唇を噛んだ。
「ちょっと出かけてくる」
 立ち上がる鷹也を、範子が慌てて呼び止める。
「鷹也、待ちなさい。真紘ちゃんのところに行くの?」
「そうだよ」
「勉強は? あなたは受験生なのよ」
「心配いらないよ」
「ちゃんと帰ってくるの?」
「信用してよ。夕飯までには帰ってくるから」
 なにかを言いかけた範子を振り返らずにダイニングを出た。階段を上がって自室で服を着替えてから、鷹也は静かに家を出た。





第5話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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