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 聞き間違いかと思い、真紘は男の顔を見返した。
 男はもう一度真紘の名前を呼んだ。
「真紘だろ?」
 自分を知っている、自分の知らない男。
 真紘は警戒した。
「あなたは?」
 すると、男は落胆したように肩を落とした。
「忘れたのか? 鷹也だよ。謙司の弟の。小さい頃よく一緒に遊んだじゃん」
 真紘は納得がいった。川野謙司の弟なら、どこかで見たことのある顔だと思うのも無理ない。謙司よりも細身だが、言われてみれば、目のあたりがよく似ている。真紘自身、いつか彼の身内が現れるだろうとは思っていた。
「土曜日なのに仕事だったの? ずいぶん待っちゃったよ」
 鷹也はすっきりと整った男らしい顔立ちに、少年っぽい笑みを浮かべた。
 それには答えず、真紘は作業服のポケットから部屋の鍵を取り出した。指先の爪の隙間に入り込んだ油汚れに鷹也の視線を感じながら、真紘は鍵穴に鍵を差し込んだ。
「どうぞ」
 ドアを開け、部屋に鷹也を招き入れる。この部屋に他人を上げるのは、彼で2人目だ。
 もっとも、1人目の謙司は、そのあとこの部屋に住みついてしまったのだが。
 一瞬、躊躇したようにも見えたが、鷹也はすぐにナイキの紐を解いた。
 玄関を上がると4畳半ほどの板の間があり、隅には小さなキッチンが設えてある。その奥に6畳の和室。家具や物が少なくすっきり片付いてるが、布団を2組敷いたら足の踏み場はほとんどなくなる。
「本当にここで兄貴と暮らしてたの? そのわりにはあんまり生活感がないね」
「物を増やすのが嫌いなんだ。謙司さんも必要なもの以外は持ち込まなかった」
 あたりを見まわしながら、鷹也は和室に足を踏み入れた。真紘もあとに続くと、鷹也は鴨居に掛けてあるカーキ色のシャツを見つめていた。それは謙司のものだった。
 きちんと片付いた部屋の中で、それだけが出しっぱなしになっていることの意味に、鷹也は気づくだろうか。
 真紘は自分よりも高い位置にある鷹也の横顔を見上げた。謙司から話には聞いていたが、想像していたよりも大人っぽい印象だ。謙司よりも3つ年下だと言っていたから、高校3年生のはずだ。受験勉強で忙しい時期だろうに、と真紘は同情した。
 真紘の視線に気づいて、鷹也が振り返った。
「兄貴のことは、母さんから聞いたの?」
 真紘は頷いた。
「3週間くらい前に電話をもらって……」
「それじゃあ、兄貴が死んですぐだな」
 おそらくそうだろう。母親の声はひどく消沈していた。それでも彼女は気丈に謙司の死を真紘に告げた。
 あの晩、謙司は実家に用事があるといってバイクで出かけた。ヘルメットの下で、すぐ戻ってくるからと微笑んでいた。それが、真紘が見た彼の最後の姿だった。その数分後、謙司のバイクは赤信号で交差点に進入してきた大型トラックにはねられたのだ。すぐに病院へ運ばれたが、処置を施す間もなく息を引きとったという。
「相手は飲酒運転だったらしい……」
 握り込んだ鷹也の拳が白かった。
「おばさんたちはどうしてる?」
「母さんも親父も裁判とかお墓のことで忙しいし、今はまだ悲しみよりも怒りのほうが勝ってて、どうにか気が紛れてるみたいだよ」
「きみは?」
 真紘の言葉に、鷹也は不快感を露にした。
「キミはってなに?」
 真紘はびくりと肩を揺らした。無神経な質問だったろうかと不安になる。けれど、鷹也がひっかかったのはそこではなかったらしい。
「なんで俺のことキミって呼ぶの? さっきも兄貴のことサンづけしてたし。昔はケンちゃん、タカちゃんって呼んでたじゃん。10年ぶりに再会したからって、ちょっと他人行儀じゃない?」
「あ……ごめん」
 その剣幕に押されて、つい謝ってしまった。
「まあ、たしかにタカちゃんっていう歳でもないけど」
 むくれていたかと思ったら、今度は明るい声で言う。
「そうだ、鷹也でいいよ。いっこ下の俺が真紘を呼び捨てにしてるんだから、真紘も俺のことは呼び捨てにして」
 戸惑いつつも、真紘はその場を丸く収めるために曖昧に頷いた。
「コーヒーでも入れるよ」
 部屋の隅に立てかけてあった折りたたみ式のテーブルを部屋の中央に置くと、真紘は台所に立った。お湯が沸くのを待つ間、ただ黙っているのも気詰まりで、真紘はカップを用意しながら懸命に話題を探した。
「ブラックでもいい? あいにく砂糖もミルクも置いてないんだ。謙司さんもおれもブラック派だったから。料理用の砂糖ならあるんだけど」
「ブラックでいいよ」
 その声は意外なほど近くから聞こえた。驚いて振り返ると、真紘のすぐ後ろに鷹也が立っていた。静かな目が真紘を捉えている。
「ねえ、なんで兄貴の葬儀に来てくれなかったの?」
「あ……」
 言葉が喉に詰まって、咄嗟に返事ができなかった。無言なのが気に障ったのか、鷹也の声に非難めいた色が混じる。
「半年一緒に暮らしてたんだろ? 線香の1本もあげにきてくれないなんて、ちょっと薄情なんじゃない?」
 その口ぶりから、真紘はひとつの可能性に思い至った。
「もしかして、きみはなにも知らないの?」
「だからキミはやめろよ。知らないってなにを?」
 苛立つ鷹也に再度確認する。
「謙司さんから、おれのことはなにも聞かされてないんだね?」
 鷹也は不貞腐れたように言い捨てた。
「兄貴が真紘の名前を口にしたことは一度もないよ」
「だったらどうしてここがわかったの?」
 鋭い質問に鷹也がたじろぐ。
「そ、それは……兄貴のケータイを見て……」
 決まり悪そうに口ごもりながらも、鷹也はここに至るまでの経緯を語り始める。
「兄貴が事故に遭ったとき身につけていた財布や免許証は祭壇に供えてあるんだけど、なぜだかケータイだけは母さんが保管してて、俺には触らせてくれなかった。それに、同居していたはずの大学の友だちが線香をあげにくることも、兄貴の荷物が送り返されてくることもない。それでなんか変だと思って……」
 不審に思った鷹也は、母親が家を空けた隙に、謙司の携帯電話を探し出したのだと言う。
 着信履歴を開くと、そこには鷹也が小学2年のときに突然引っ越してしまったひとつ年上の幼なじみの名前が並んでいた。さらにメールのやり取りを確認すると、謙司の同居相手は同じ大学に通う友人などではなく、この幼なじみであるらしいことがわかった。
「なんで兄貴は真紘と一緒に暮らしていたのか、なんでその事実を隠そうとしていたのか、俺は知りたかった。それから……なんで俺には会いにきてくれないのか……」
 一気に噴出した疑念に突き動かされるように、鷹也は携帯電話の電話帳に登録してあった真紘の住所を調べ、取るものも取りあえず自転車を飛ばしてきたのだ。
「まさか真紘がこの町に戻ってきてるとは思わなかったよ。でも、おかしいじゃん。あんなに仲がよかったのに、まるで3人兄弟みたいに育ったのに、なんでこそこそしてんだよ」
 鷹也から見れば、自分だけ除け者にされているように感じるのかもしれない。
「べつにおれは隠してるつもりはないよ。ただ、憶えていないんだ」





第3話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

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