忍者ブログ
創作BL小説ブログ
ADMIN | WRITE | RESPONSE
■□ [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

本当はなんとなくわかっていた。自分の背中に煙草の火を押しつけたのは、おそらく母親だ。自分は望まれない子どもだったのだ。
 真紘は土手の斜面に腰を下ろし、冬枯れの芦原を眺めていた。昨日あんなことがあった部屋にひとりでいると、うまく呼吸ができなかった。
「そういえば、また鷹也にコーヒーを淹れてやれなかったな。せっかく砂糖とミルクを買ったのに……」
 気を紛らわそうと声に出してみたが、余計に胸が苦しくなっただけだった。
 謙司は真紘の背中にある火傷の痕のことを知っていた。見て、見ぬふりをしていた。それが彼の気遣いであり、やさしさなのだと真紘は思っていた。
 けれどそんな謙司のやさしさが、真紘にはいつも少しだけ悲しかった。本当は、背中の火傷痕に触れてほしかった。
 だから、鷹也の指が背中に触れたとき、怯えの中に安堵が混じるのを真紘は感じていた。もうずっと、やさしくて臆病な手ではなく、自分を暴いてくれる手を欲していたのだと、あの瞬間に自覚した。鷹也ならば失った記憶を引き出してくれるかもしれない、怖がらずに触れてくれるかもしれないと期待した。
 もちろん、真紘とてすべてを思い出すのは恐ろしい。母親と自分の間にあったことは、おそらく思い出さないほうが幸せなのだろうとも思う。謙司もそう思ったからこそ、真紘の背中に触れなかったに違いない。
 その思いやりを無駄にしたら、謙司さんはどんな顔をするかな。
 真紘は自嘲的な笑みを浮かべた。途端に下唇の端がぴりっと痛む。昨日、鷹也に噛みつかれた傷だ。その傷にそっと指で触れ、真紘はあのときの鷹也を思い出す。不思議と腹は立たなかった。
 鷹也は傷ついた顔をしていた。
 乱暴されていたのは真紘のほうなのに、まるで今にも泣き出しそうな子どものように見えた。
 耳の奥に鷹也の声が甦る。
「真紘は兄貴に抱かれたかったの?」
 それは、謙司を特別な意味で好きだったのか、ということだろう。少なくとも鷹也はそう疑っているようだった。
 鷹也が兄の謙司に対してなんらかのわだかまりを抱いているらしいことは、以前から薄々感じていた。言葉の端々に、いつも謙司への対抗心が見え隠れしていた。鷹也もまた、謙司の思い出に囚われているのだ。
 そんなとき真紘は、ほんの少しでも鷹也のことを思い出してやりたいと思った。幼い日の鷹也がなにを思っていたのか知りたかった。鷹也にとって自分は、自分にとって鷹也はどんな存在だったのか知りたい。思い出したい。
 そんなふうに考えている自分に、真紘は戸惑った。
 無意識のうちに千切っていた枯れ草を風に流しながら、ぼんやりと思う。
 この気持ちはなんだろう。
 かつてこれほど強く記憶を取り戻したいと願ったことはなかった。謙司と暮らしていたときでさえ、こんなことは一度もなかった。
 突然、真紘は立ち上がった。
 ならば、待っているだけでなく、自分から動けばいい。
 アパートに駆け戻り、台所の小さな食器棚の引き出しから、謙司の荷物を実家に送り返したときの伝票の控えを取り出した。送り先の欄に書かれている住所を見つめる。それは真紘の代わりに鷹也が書いてくれた字だ。
 鷹也たちの家の斜向かいに、真紘が母親とふたりで住んでいたアパートがあるということは話に聞いていた。鷹也が落ちたどぶ川や、真紘が蜂に刺された林のある神社の位置も、鷹也の話から予想できる。それらの思い出の場所に立てば、もしかしたら失くした記憶を取り戻すことができるのではないかという期待に胸を膨らませ、真紘は自転車に跨った。
 大体の方角はわかるものの、まだこの町を把握しきれていない真紘は、途中で通りすがりの人に道を尋ねながら目的地を目指した。
「677の2? ここは491だから、もっと向こうのほうじゃない?」
「あら、向こうは900番台よ。このあたりは番地が飛んでてわかりにくいのよね。600番台は通りを渡った反対側じゃなかったかしらねぇ」
 立ち話をしていた中年の主婦に礼を言って、真紘は再びペダルを踏んだ。
 近くまで来ているはずなのに、探している住所がなかなか見つからない。真紘は目先を変えて神社を探すことにした。しかし、神社の名前までは聞いていない。ヒントは本殿の裏手に虫捕りができそうな林があるということだけだ。それでも個人宅よりは見つけやすいのではないかと思った。案の定、それらしき神社はすぐに見つかった。
「氷川神社……か」
 住宅街の生活道路となっているその道幅の狭い通りは、かつては参道だったのだろう。両側に古い家々が並ぶまっすぐな道を進んで鳥居をふたつくぐると、その先のT字路の突き当たりに神社はあった。
 鼓動が早くなる。
 真紘にとっては、初めて足を踏み入れる過去の場所だ。自分がどうなってしまうのか、まったく想像がつかない。
 もしも失った記憶が甦ったら、もしもそれが思い出したくない辛い出来事だとしたら、現在の自分に耐えられるだろうか。
 考えただけで足が竦む。
 けれど、それに耐えられずに自ら記憶を封じた幼い頃とは状況が違う。まだ十九歳とはいえ、自分の足で立ち、自分の力で生活している大人だ。母親を頼りに生きている小さな子どもではない。
それに、真紘はどうしても思い出したかった。
 鷹也のために。
 鷹也と自分の、これからのために。
 大きく深呼吸をすると、真紘は神社の入り口に自転車を置いて、ゆっくりと歩を進めた。





最終話につづく


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
     
ランキングに参加しています。
お気に召しましたらポチッとお願いします。
1日1回のみカウントされます。
PR
■□ COMMENT
HN:
TITLE:
COLOR:
MAIL:
URL:  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT:
PASS:
■□ TRACKBACK
トラックバックURL:


■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

■□ COMMENTS
▼コメントありがとうございました!
[05/27 朔田]
[05/21 ままたみ]
[05/12 朔田]
[05/11 須和]
[05/11 ままたみ]
[05/10 須和]
[05/10 東風]
■□ PROFILE
管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
■□ RANKING
▼ランキングに参加しています。お気に召しましたらポチッとしていただけると大変励みになります。    ※こちらは別窓が開きます。
にほんブログ村小説ブログBL小説ランキング    カテゴリ別オンライン小説ランキング

にほんブログ村トラコミュ[メガネくん萌え]
▲管理人をしています。メガネくん好きの方はぜひご参加ください♪
■□ SEARCH
忍者ブログ [PR]