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 真紘の抵抗が止んだ。屈辱に耐えるように、じっと身体を強張らせている。
 その白い背中には、ビー玉ほどの大きさの丸い痕がいくつも散っていた。そこだけ皮膚が引きつれて、てらてらと光っている。一見して火傷の痕だとわかった。
「これ、どうしたの?」
 真紘は腕に顔を伏せたまま黙っている。
 小さな火傷の痕に、鷹也はそっと触れてみた。真紘の肩がびくりと揺れた。
 これと同じ痕を、鷹也はどこかで見たことがあった。たしか、中学時代に荒れていたというクラスメイトの腕にあったはずだ。
「煙草の……火?」
 自分の言葉の意味するところに気づき、鷹也ははっとした。
 ……虐待。
 いつ? 誰が?
「だって……昔、一緒にプールに入ったときには、こんなのなかったじゃん」
 くぐもった真紘の声が答える。
「おれが施設に送られたときには、もうあった」
 あの夏が終わってから、真紘が施設に入れられるまでの間に、この火傷の痕はできたということだ。
 不意に、窓辺で気だるそうに煙草を咥える真紘の母親の姿を思い出す。
「まさか……」
 信じたくないと思う一方で、範子が鷹也に隠したかった本当の事情はこれだったのではないかと気づく。
 鷹也の下で、白い肩が小刻みに震える。
 泣いているのだと思い、鷹也は慌てて真紘の上から退いた。真紘の乱れた服を直しながら、神妙な面持ちで謝罪する。
「ごめん……」
 真紘はそろそろと起き上がり、床の上にぺたりと座った。泣いてはいなかった。
 むしろ不思議なくらい落ち着いた声で、一言呟いた。
「帰って」
 鷹也に弁解の余地はない。
「本当に……すまなかった」
 
 
 どうやって自分の部屋まで戻ってきたのか、憶えていなかった。ひどく混乱していて、なにかを考えようとしても、思考がひとところに留まらない。
 うれしそうな真紘の顔。
 謙司の灰を嚥下する白い喉。
 背中に散った小さな火傷の痕。
 煙草の赤い火が、由季子の細い指の間で揺れている。
 いや、そんなことじゃなくて、俺は真紘になにをした? なにをしようとした?
 鷹也はどっかと椅子に腰を下ろし、頭を掻き毟った。
「畜生っ」
 そのとき、ドアをノックする音が響いた。
「鷹也、どうしたの? 入るわよ?」
 遠慮がちに開けられたドアの隙間から、心配そうな範子の顔が覗く。
「なにかあったの? 帰ってきたとき、なんだか様子がおかしかったから……。真紘ちゃんのところに行っていたんでしょ?」
 その言葉が、散漫になっていた鷹也の意識を一点に集中させた。
「母さん知っていたんだね?」
「なにを?」
「真紘の背中にある火傷の痕だよ」
 隠し切れない動揺が、範子の顔を歪ませた。
「母さんが、子どもだった俺に本当に隠そうとしていたのは、真紘の両親の事情じゃなくて、あの火傷の痕だったんだろう? 真紘が……母親に虐待されていたという事実なんだろう?」
 息を呑んで鷹也の顔を見つめていた範子が、観念したように大きく息を吐いた。
「そうよ……」
 範子は力なく鷹也のベッドに腰を下ろした。夢でも見ているように、あるいは記憶の糸を辿るように宙を見つめている。
「由季子さんは……お酒に溺れて、身体を壊していたわ」
 慎重に言葉を選びながら、範子は訥々と語り始めた。
「自分の身体が深刻な病に侵されているのを知りながら、医者が勧める入院治療を拒んで、お酒を飲み続けていたの。私の説得も聞かずに、まるで自分の身体をいじめるみたいに……。いくら私がお酒を処分しても、次の日には部屋の中に酒ビンが転がってた」
 それは、緩慢な自殺のようにも思えた。
「おばさんは酒に酔って真紘を虐待していたの?」
「多分……。でも、私はあの日までそのことに気づかなかった」
「あの日……?」
 耳の奥でなにかが鳴っている。それが救急車のサイレンだとわかると、ぼんやりと霞んでいた記憶の輪郭が、はっきりと浮かび上がってきた。
 あれは、3学期の終業式を間近に控えた土曜日の夜だった。鷹也は台所に立つ範子の隣で、夕飯の後片づけを手伝っていた。父親はまだ仕事から帰らず、謙司は自室に戻っていた。水音とテレビの音に混じって救急車のサイレンが聞こえてきたときには、すでに居間の窓の外で赤い光が明滅していた。それが家の前を通り過ぎるや否や、けたたましいサイレンが止んだ。血相を変えた範子が、エプロン姿のまま家を飛び出していった。
 そのあと、範子は一度だけ家に戻り、謙司に留守を頼むと再び出ていってしまった。それきり、範子は明け方まで帰らなかった。
「あの日、なにがあったの?」
「…………」





第12話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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