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 機械音と工業用オイルの匂いが充満する工場内に、終業の合図が鳴り響いた。
 奥の機械の陰から社長の平山が顔を出し、機械音に負けないくらいの大声を張り上げる。
「おつかれー、みんな今日はもうあがってくれ」
 作業員たちは機械の電源を落とし、それぞれ帰り支度を始める。
「せっかくの土曜にすまなかったね。おかげでなんとか納品日に間に合いそうだよ」
 平山はみんなに労いの声をかけた。
 真紘(まひろ)は凝った身体をほぐそうと、両腕を上げて大きく伸びをした。
 そこへ平山が近づいてくる。作業服の上からでもわかる逞しい体躯は、とても50代後半のものとは思えない。顔をしわくちゃにして笑うさまは土佐犬の子どものように人懐っこく、平山の人のよさが滲み出ている。
「真紘、今日もうちに寄って夕飯食べていけよ」
 真紘は腕を下ろして平山に向き直った。
「いえ、今日はちょっと用事があるので……」
「遠慮するなよ。女房もお前にメシ食わすの楽しみにしてるんだから」
 平山の裏表のない性格と面倒見のよさを、身をもって知っている真紘は、ありがたいと思いつつもその申し出を断った。
「すいません。本当に寄らなきゃならないところがあるんです」
「そうか……それじゃ仕方ないな」
 本当に残念がっている様子の平山に、嘘をついた後ろめたさを隠して、真紘はその場を辞した。
 一人暮らしの真紘を案じて、平山はよくこうして食事に誘ってくれる。実際、彼の心遣いはありがたいし、彼の奥さんが作る料理はとてもおいしかった。けれど、毎度毎度甘えてしまうのは心苦しく、3回に2回はなにかと理由をつくって断るようにしている。今日も本当に用事があるわけではなかった。
 通用口から外に出ると、すでに東の空から夜が迫っていた。西の空の低いところに、ほんのりと夕焼けの名残だけが見えた。秋の乾いた風が、オイルの匂いが染みついた真紘の髪を撫でていく。
 工場脇の自転車置き場にまわり、真紘は平山から譲り受けたスポーツタイプの自転車に跨った。工場が立ち並ぶ区域を抜けると、真紘はいつものように隣の市との境界を流れる川沿いの道に出る。車の通行量が少ないこの土手の上の道を、のんびり走るのが好きだった。この道を上流に7、8分走ったところに、真紘の住むアパートはある。
 市の南東部に位置するこのあたりは、中小の町工場と住宅が密集する準工業地域で、先代が興した平山の会社では、車の部品を製造している。会社といっても、従業員は4人だけの有限会社で、社長の平山も油まみれになって働いている。全員が家族のような雰囲気で、真紘にとっては働きやすい職場だった。
 しかし、来春には中堅どころの部品メーカーに修行に出ていた長男が戻ってくる。平山はうれしそうに話してくれたが、真紘にはそれが気がかりだった。
 人情に厚い平山は、身寄りのない施設育ちの真紘の後見人を買って出てくれ、なんの技術も持たない真紘に仕事を与えてくれた。高校卒業と同時にひとり立ちし、彼の工場で働き始めて半年、平山夫妻は真紘を実の息子のようにかわいがってくれている。それを知ったら、本当の息子はどう思うだろうか。これ以上、彼の厚意に甘えてばかりはいられない。
 自然とペダルを踏む脚が重くなる。
 おそらくこのクロスバイクも、自転車が趣味だという長男のお古に違いない。
 なにも持たない自分は、誰かの助けがなければ、この社会で生きていくことはできない。その事実を真紘はあらためて実感する。
 できることなら、誰とも関わらずにひとりきりで生きていける力がほしい。それがあれば、失う寂しさを味わうこともない。
 真紘は道の端に自転車を寄せ、力尽きたようにペダルから足を下ろした。言いようのない倦怠感に襲われる。
 まずい傾向だ。
 マイナス思考に歯止めがかからなくなっている。このところの不眠も影響しているかもしれない。
 それから、あの人の不在も。
 真紘は記憶を辿るように焦点のぼやけた目を河川敷へ向けた。静かに流れる川面は、夜のように暗く、静かだ。
 そのとき、枯葉色の葦原から灰色の鳥が飛び立った。
 五位鷺(ごいさぎ)が夜に紛れるように渡っていく。
 昼間に田んぼや水辺などで見られる鷺とは違い、太陽が沈んでからひっそりと動き出す五位鷺は、白く美しい羽を持たない。
 ゴアー、ゴアー。
 低く悲しげな声が夜気を震わす。一体なにを思って鳴いているのか。
 あの鳥はおれに似ている。
 影のように飛んでいく鳥を見送ってから、真紘は再び自転車を走らせた。
 頭の中を空っぽにし、ペダルを踏むことだけに集中すると、あっという間にアパートに到着した。階段下の駐輪場に自転車を止め、ペンキが剥げ落ちて錆が浮いているスチールの階段を上がる。
 不意に、明滅する灯りの下で人影が動いた。真紘の部屋の前に佇み、こちらを見ている。
 間合いを計りながら用心深く近づくと、男の顔がはっきりしてきた。それはどこかで見たような、けれど会ったことのない若い男だった。
 男は幽霊でも目撃したような顔で、小さく呟いた。
「真紘か?」





第2話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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