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境内は思ったほど広くなく、手入れを怠っているのか、隅のほうには雑草が茂った跡があった。両脇に植えられた松の木が、石畳の上に松ぼっくりを落としている。それをひとつ拾い上げ、ごつごつとした感触を確かめるように握ったが、すぐに足元に放った。
 風雨に曝された本殿は傷みが激しく、どう見てもご利益は期待できそうにない。元々信仰心の薄い真紘は手を合わせることなく、まっすぐ裏手にまわった。鷹也の話では、よくそこで虫を捕まえて遊んだという。けれど、その林は真紘が想像していたより小さく、すっかり葉を落とした欅の木が数本と、こじんまりとした笹薮があるだけだった。虫捕りといっても、蝉くらいしかいないだろう。それでも子どもにとっては大事な場所だったのかもしれない。
 真紘は枯れた下草を踏みしめ、林の奥へと進んだ。一番大きな欅の前に立つと、木の肌に手のひらを押し当て、静かに瞼を閉じる。自分の中に眠る記憶を探るために。
 しかし、そこにはなにもなかった。記憶の断片すら見つからない。
 一度失くしてしまったものは、そう容易く戻らないのだろうか。
 落胆と同時に、心の隅に安堵が生まれる。そんな自分が情けなかった。
「この期に及んで、おれはまだ怖がっているのか……」
 その悔しさに、握った拳を木に叩きつける。2度、3度と打ちつけ、4度目の拳を振り上げたとき、背後で真紘を呼ぶ声がした。振り返ると、そこにいたのは鷹也だった。
「ああ、やっぱり真紘だ。こんなところでなにしてるんだよ」
 鷹也の声は硬かった。そこに警戒しているような、責めるような響きを感じとった。
「鷹也こそなんでここにいるんだよ」
「俺は真紘のアパートに向かう途中だよ。ここは通り道なんだ。神社の入り口に見覚えのあるクロスバイクがあったから、もしかしたら真紘じゃないかと思って」
「じゃあ、やっぱりいいとこまで来てたんだな」
 鷹也が眉を顰めた。
「どういうこと?」
「鷹也の家……というか、おれが昔住んでたアパートを探してたんだ」
「どうしてっ」
 突然、声を荒げた鷹也に驚く。
「ど、どうしてって……なにか思い出すかもしれないと思って……」
「それで、なにか思い出したのか?」
 鷹也が真紘の両腕を掴んだ。厚手の上着の上からでも、硬い指先が腕に食い込んでくる。思わず真紘は、小さく上ずった声をあげた。
「痛いっ」
「あ、ごめん」
 その声に冷静さを取り戻したらしい鷹也は、慌てて真紘の腕を放した。
 なぜ鷹也がここまで取り乱しているのかわからなかったが、反省する犬のように俯く鷹也を見ていると、自分の中の苛立ちや失望が波のように引いていくのを感じた。
「なにも思い出せなかったよ」
 鷹也が弾かれたように顔をあげた。その瞳は、驚きと安堵が入り混じったような複雑な色をしていた。
「本当に?」
「ああ。案外、思い出さないもんだな」
 真紘はバツの悪さを誤魔化すために微笑んだ。うまく笑えていればいいと思った。けれど鷹也の反応を見れば、自分がどんな顔をしているのかおおかた想像はつく。
「無理に笑わなくていいよ」
 そう言う鷹也のほうが、泣きそうな顔をしていた。
 真紘の胸に愛しさが込み上げてくる。
「本当は……ちょっぴり怖かったんだ。それでも、思い出したいと思ったんだ」
「なんで急に……。なにをそんなに思い出したかったの?」
 真紘は鷹也の瞳を見つめた。
「鷹也……おまえのことを……」
「え……」
「おまえを見てたら、なんだか無性に思い出してやりたくなったんだ。思い出せば、鷹也とも自分の気持ちとも正面から向き合えるような気がしたんだよ。このままじゃ、おれたちは一歩も前に進めない」
 言いながら、なんだか気恥ずかしくなってきて、真紘は吐息混じりに笑った。
「謙司さんのときには、こんな気持ちになったことはなかったのにね。……なんでだろう」
 不意に、大きな温もりが真紘を包んだ。
「鷹也?」
 鷹也の顔を見上げようとすると、さらに強い力で抱きしめられた。先程のような荒々しさは微塵もない。胸が締めつけられるような、やさしくてせつない抱擁だった。
「もしもそれが、思い出さないほうがいいような記憶だったら……忘れたままでいたほうが幸せだったら、どうする?」
 神社に足を踏み入れる前も、それを考えて怖くなった。けれど、今は自分でも驚くほど落ち着いている。鷹也が一緒にいるからかもしれない。
「そうだね……背中の火傷の痕のことを考えたら、おそらく思い出さないほうが幸せなんだろうな。だけど、鷹也や謙司さんとの思い出と引き換えに今の平穏を守ったとしても、いつまで続くかわからないし、そんなものに怯えながら生きていくのもいやだ。それよりもおれは、昔の絆を取り戻したい」
 きっぱりと言い切ると、鷹也も覚悟を決めたように力強い声で応えた。
「わかったよ。そのときは……真紘がすべてを思い出すときは、俺が真紘のそばにいる。俺がずっと真紘のそばにいる」
 その言葉に、真紘の胸が熱くなる。
「鷹也……」
「あ……違うな。俺、昨日真紘にひどいことした。だから……もしも真紘が許してくれるなら、俺は真紘と一緒にいたい。兄貴の代わりでもかまわないよ」
 ああ、そうだった。鷹也はまだ誤解しているんだ。
 真紘は鷹也の背中に腕をまわした。
 鷹也が初めて真紘を訊ねてきた日、縋りつくように泣いていた鷹也の身体を、あのとき真紘は抱き返してやれなかった。その償いの気持ちと、今、確かに感じている愛おしさを込めて、真紘は鷹也を抱きしめた。この腕から自分の気持ちが伝わればいいと願った。
 鷹也がそばにいてくれれば、鷹也を想うこの気持ちがあれば、おれはどんな過去も受け入れることができる。乗り越えていける。
そう信じられることが、真紘にはうれしかった。
「鷹也、おれの部屋に行こう」
心なしか焦った様子の鷹也を見上げて、真紘はふわりと微笑んだ。
「甘いコーヒーを淹れてあげる」





END


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はじめまして~
読み始めたらすごくおもしろくて、最終話まで一気に見させていただきました!
気持ちの描写とか背景とかすごくお上手で、せつなくて、ラストは心地よい余韻もあって、とても好きなお話しでした!
鷹也くんのおさなさとちょっぴり暴走気味(?)なところと、真紘くんのはかない感じがたまらんです(*0*)
他のおはなしも、ちらっと覗いてみたんですが、おもしろそうで!これからゆっくり読ませていただきます~。
乱文しつれいしましたm(_ _)m
せいら 2008/08/29 14:20 *edit
はじめまして、せいらさん
コメント、ありがとうございました!
鷹也と真紘を気に入っていただけたようで嬉しいです。
けっこう重い話だったので、読者の方に受け入れてもらえるか心配だったのですが、
最後まで読んでいただけてよかったです。
これからも、お暇な時間に覗きにきてやってください。
よろしくお願いします。
それでは、また……。
朔田圭子 2008/09/02 15:09
初めまして。
過去に拘泥するのではなく、前進することを選んだ真紘くんがいいですね。灰を飲むという行為も、肉体の残渣の摂取というよりは、記憶を取り込みたいと言うシャーマニズム的なものを感じました。
鷹也くんの突っ走り具合と、嫉妬具合は彼の年齢を考えると微笑ましいくらいなんですが、母を一人の人間として見据える眼差しが、少年から青年への脱皮ぷりを髣髴とさせて将来が楽しみです。いい男になってくれよv

記憶というシステムは、忘れようとする度にシナプスが刺激され、逆に記憶が増強されるという厄介なところがあるので、あるがままでいることこそが忘却と許容への第一歩な気がしてまいりました。自分に余裕が出れば周囲の好意も素直に受け取れそうなので、工場仲間とも今後上手くやれそうですねv

重いと言えば重いのですが、爽やかな気分になりました。作品、ありがとうございます。
まや 2009/10/25 09:21 *edit
こんばんは!
はじめまして~^^
過去の作品を読んでいただけるのは、ちょっぴり恥ずかしくてすごくうれしいです♪
そのうえ感想までいただけるなんて感激です~。
しかもけっこう細かいところまで読み込んでくださったみたいで、
まやさまの含蓄のあるコメントに私のほうが納得させられてしまいました。
忘れようとするたびに逆に記憶が増強されるというお話も、なるほどと思いました。
私はそういうことを専門的に勉強したことはなく、どちらかというと自分の体験や
見たり聞いたりしたことをもとに物語を考えていくほうなので、
詳しい方が読んだら穴だらけかもしれませんが、フィクションとして少しでも
楽しんでいただくことができれば幸せだと思っています。

とても興味深いコメントをどうもありがとうございました。
これからもお時間のあるときに覗きにきていただけるとうれしいです♪
朔田圭子 2009/10/25 22:15
5月28日の拍手レス♪
14:34のSさま♪

拍手&メッセージありがとうございます^^
ああ、こんな古くて暗い作品を読み直していただけるなんて
うれしいを通り越して申し訳ないです!
更新が滞ってるばかりにっ!! 朔田のバカーッ!!!

「記憶守の骨」はネガティブな自分を曝した恥ずかしいお話なので
こんなんで涙を流しちゃもったいないです~。
その涙はSさんのお宅のO先生のロストヴァージン(←)の日のために
大切にとっておいてください!(あ、こいつアホだ・笑

なんて、久々にこっちにコメいただいたもんで照れ臭くて茶化しちゃいましたが
Sさんの言葉、すごくうれしかったです。
いつもどうもありがとう!
Sさんも更新がんばってね^^
朔田 2010/05/28 22:58 *edit
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■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

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