忍者ブログ
創作BL小説ブログ
ADMIN | WRITE | RESPONSE
■□ [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「どこへ行きたい?」
 なにも予定のない日曜日の朝、俺は春田に訊ねた。すると春田は瞳をキラキラさせて「水族館!」と即答した。
 このところ春田は胃薬を常用している。いかな春田も神経は人並みだったか。本人は俺に隠れて薬を飲んでいるつもりだろうが、ゴミ箱を覗けばわかることだ。そして春田の胃痛の原因が俺にあることもまた俺にはわかっていた。
 小坂先生と山歩きに出かけて帰ってきたあたりから、どうも気持ちが安定しない。ドキドキしたり、イライラしたり、なにも手に着かず妙な焦燥感に囚われたり……とにかく上手く自分を保つことができない。情けないことに春田にあたってしまうこともしばしばだ。こうした俺の不安定さが春田にストレスを与えている。春田のまるで飼い主の機嫌を窺う飼い犬のような反応を見ていると、自己嫌悪に陥ること甚だしい。
 このままじゃいけない。担当編集者としても、同居人としても。
 そうして俺は罪滅ぼしと気分転換を兼ねて春田を外に誘い出した。
 電車を乗り継いで都内の湾岸にある臨海公園に到着すると、さすがに日曜日とあって園内は多くの家族連れやカップル、若者グループなどで混雑していた。春田は人だかりの中央でパフォーマンスを繰り広げる大道芸人には目もくれず、今にも駆け出しそうな勢いで水族館のゲートへと突き進んでいく。
 ふと思う。男の二人連れは周囲の目にどのように映っているのだろうか。
 友だち? 職場の同僚? 兄弟……は場所柄不自然か。いや、べつに兄弟で水族館に来たっていいんだけど。むしろ一見友人や同僚に見える二人連れのほうが、実際はどんな関係かわかったものではない。
 ……どんな? いやいや、本当に友人同士や職場の仲間かなんかだろう。俺はなにを勘ぐってるんだ。
「夏江、早くー!」
 数メートル先を歩いていた春田が振り返って俺を急かす。俺はおかしな思考を中断し、春田を見失わないよう早足で追いかけた。
 なんとなく予想はしていたが、色鮮やかな南洋の魚たちが泳ぐ美しい水槽を前にした春田の反応はまるっきり子どもだった。一緒にいる俺としては少々恥ずかしい気もするが、人目を憚らず感動をストレートに表現できる春田が羨ましくもある。ものを作る人間はそれでいいのかもしれない。常識や世間体に囚われず自由に感情を表現できるのも才能だ。
 そして、俺にはその才能がない。
 もちろん春田が自分の感情をすべて表に出しているとは言わないし、思わない。けれど少なくとも俺よりは真っ直ぐ自然体で生きている。時折、浮世離れしているように見えることもあるが、つい体裁ばかり繕おうとしてしまう俺はむしろそんな春田を羨望した。その名のとおり春の陽射しのように眩しかった。眩しさに目がくらんで、自分も変われるのではないか、春田のようになれるのではないかと勘違いしそうになった。
 だけど実際に俺にできることといえば、せいぜい春田が進むべき道を間違えないよう手を携えてやること……いや、春田が躓かないように道端の小石を取り除くくらいが関の山だ。
 思えば大学時代からそうだった。周囲から“春田のお母さん”と揶揄されるほど俺は春田の世話を焼いた。担当編集者となった現在もさして昔と変わらない。
 俺はまた変われないのだろうか。
「夏江、こっちこっちー」
 人垣の向こうで春田が手招きしている。人の気も知らないで。
 それにしてもすごい人出だ。空調が効いてるはずなのに熱気のせいで蒸し暑く感じる。そう言えば入場ゲートの前に新しい水槽の公開を知らせる大看板があった。この混雑ぶりはきっとそのせいだ。人気の集中する水槽の前は芋洗い状態で、俺は人ごみの中を泳ぐように春田のあとを追いながら、もう二度と休日になんか来るものかと心の中で誓った。
「おい、はぐれるなよ」
 どうにか春田の背後に辿り着くと、春田が疑いのまなざしで俺を振り返る。
「ねえ、夏江もちゃんと見てる?」
 本当は魚などちっとも見ていなかったが、とりあえず「見てるよ」と返事をすると、春田は安心したように微笑んで水槽に向き直った。
 そのとき後方から人の波が押し寄せてきた。踏み止まろうと試みるも、呆気なく力負けした俺の身体は否応なく春田の背中に密着する。その瞬間、この前マッサージしてやったときの春田のかわいい反応がフラッシュバックして、俺をおおいに慌てさせた。
「す、すまん。身動きがとれなくて……」
「べつに……大丈夫」
 そういう春田はもう水槽なんか見ていなかった。俯いたまま息を潜めるようにじっと身体を固くしている。目の前に露わになった柔らかな髪がしっとりと貼りつく白い首筋にドキッとして、俺は自分の動揺が春田に伝わってしまうことを恐れた。
「春田、ここから離脱するぞ」
 俺は春田の手をとり、強引に人ごみを掻き分けて進む。途中で手が離れそうになり、俺はその男のわりに華奢な手をしっかりと握り直した。すると春田も俺の手をぎゅっと握り返してきた。そんな些細な反応が俺に勇気を与える。
 水槽と反対側の人口密度の低い壁際まで逃げ延びた俺たちは、それでも手を繋いだままだった。春田が困惑顔で手を放そうとしたが、俺が許さなかった。
「夏江? どうしたの?」
 一向に手を放す様子のない俺に、春田は小さな声で訴えた。
「まわりの人に変に思われるかも……」
「俺たちのことなんて誰も見ていないさ」
 実際、薄暗い壁際に立つ俺たちのことを気にかける人間などひとりもいない。みんな水槽の光に引き寄せられるように同じ方向を向いている。もうためらいはなかった。
「春田、胃の調子はどうだ? 痛むんだろ?」
 不意を突かれて唖然となる春田。その表情がすでに肯定しているのに、春田は慌てて誤魔化そうとする。
「えっ……な、なんのこと?」
「惚けなくていい。おまえが胃薬を飲んでることは知ってるんだ」
「でももう全然痛くないよ。すっかり治ったよ」
 それは嘘だ。今朝も薬を飲んでいた。
「無理すんな。俺のせいなんだろ? だから俺に隠してたんだろ?」
 いつの間にか握った春田の手が冷たくなっている。緊張しているのだろう。
「ちっ、違うよっ。夏江のせいじゃ……」
「いいんだ、わかってるんだ。俺が自分の気持ちに気づかないふりをしていたせいでおまえを苦しめてた」
 もう自分を偽るのはやめにしたい。
 ずっと目を背けてきた自分の本当の気持ちを認めたい。
 認めたら、変わりたい。
「なつ、え……?」
 春田の大きな瞳が不安げに揺れている。俺は目を逸らさずにそれを受け止める。
 覚悟は決まった。
 俺は低く、静かに語りかける。
「春田……俺は一度おまえの前から姿を消した」
 すると春田は痛みに耐えるように眉を顰めた。
 それはかつて俺が与えた痛みだ。俺にしか癒すことのできない傷だ。
 そう思うと謝罪の気持ちと、それを上まわる愛しさが湧き上がってくる。
「でも、もしおまえが許してくれるなら、俺はもう二度とおまえから逃げ出したりしない」
 握った手に力を込める。
 許しを請うように。
 俺のすべてを注ぐように。
「おまえが大事だよ、春田」





目次へ26.マーブル へ28.空飛ぶクラゲ へ





貴重なお休みに拙作を読みに来てくださり、どうもありがとうございます^^ 

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ ※同窓で飛びます。
↑ただいまランキングに参加中です。お気に召しましたらポチッとしていただけるとうれしいです♪

web clapweb clap
↑内緒コメにもどうぞ♪ こちらにいただいたメッセージへのお返事は右サイドのコメント欄をご覧ください。
 
PR
■□ COMMENT
HN:
TITLE:
COLOR:
MAIL:
URL:  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT:
PASS:
無題
いやっほーい!!
ついに言っちゃった!
春田くんの返しが楽しみすぎる。
ふ、二人の同居生活にも変化が訪れる
のでしょうね。。今日、夜帰ったらと思うと
どきどきします~。
あ、その前に返事がね。

密着して動揺する二人がかわいいですww
繋いだ手も離さないなんてぇ。萌ゆる。。
ままたみ 2011/05/05 18:45 *edit
いらっさい!
うん、「ついに」というか「やっと」というか、ようやくここまできたよ。
でもまだ「好き」とは言わせてないし(←往生際の悪いアタシww
でも次で春田の反応を書かなきゃならんのでがんばりまする~。

>ふ、二人の同居生活にも変化が訪れるのでしょうね。。
↑そうだ、変わっちゃうよね。困ったなぁ。もうこのまま帰らなくていい?(←オイッ

>密着して動揺する二人がかわいいですww
↑夏江はなに反芻してんだ。これでヤツのむっつりすけべは確定!
てか、おまえら中学生か!!(笑
ああぁ~、このあとどうやって日常に戻そうかぁぁあぅぅ~。

お休みなのにコメありがとおぉぉ~~。
朔田圭子 2011/05/05 21:11
5月5日の拍手レス♪
5月5日 01:49の匿名さま♪

拍手&メッセージありがとうございます。
「きゃ~~~」と叫んで去っていったあなたはどちらさまでしょうか(笑
ひと言でもうれしいです。ありがとうございました^^





5月5日 09:26のCさま♪

拍手&メッセージありやと♪
なに、胸が苦しい? それはいけない。
ボタンをはずして襟元を緩めて。さあ、恥ずかしがらずに(←変t

あはは、なぜそこで「つづく」なのかって?
それはね、1話分に収まらなかったからだよぉ(ぶっちゃけすぎww
あれでもだいぶ削ったんだけど、とりあえず夏江の春田に対する想いが
ちゃんと書けてれば今回はよしとしよう! みたいなww
このエピソードは次の春田の回でちゃんと収めるので待っててちょ♪
それにしても夏江、重いわ。。。





ほか、拍手をくださったみなさん、どうもありがとうございました!
おかげさまで次もがんばれます^^
朔田 2011/05/06 00:42 *edit
5月6日の拍手レス♪
5月6日 12:18の「きゃ~」さま♪

拍手&メッセージありがとうございます!
5日の「きゃ~」さま、わざわざ戻ってきていただいて恐縮です(笑

最近、比較的更新が順調なのは単にヒマになったからですよ。
順調だと逆に心配される私ってww
パトロールの頻度を上げていただいてすいません。
でも毎日更新は無理なので安心してください(←

春と夏が出来上がったら当然、秋と冬も気になりますよね。
忘れてませんのでご安心を~^^

そうですね、春がいると夏は退屈しないでしょうね。
春は手のかかる子ですけど、夏は嬉々として世話を焼くと思います。

こちらこそ、いつも読みにきてくださってどうもありがとうございます。
今後ともよろしくお願い致します♪





ほか、拍手のみの方々にも感謝です!
朔田 2011/05/07 00:45 *edit
100%勇気~♪
おめでとう、春田くんっ!!!
夏江くんが春田くんにオトされて、おばちゃんちょっと憎い気持ちも
あるけれど(←あるんかい!?)でも素直になった夏江くんにも
激しく萌えたんで許すッツ!!!!!
もう胃が痛くなるまで耐え忍ぶ春田くんも自分と向き合った夏江くんもカワイイww
最後の「おまえが大事だよ、春田」を読んで、わたくし真顔で
「言われてぇぇぇえええええっ!」って思いました。(真顔なのが怖い)

この後の展開が楽しみっす!!
待ち遠しい~♪
須和 2011/05/09 14:34 *edit
もうがんばるしかないさ~♪
>おめでとう、春田くんっ!!!
↑「ありがとう! 須和っち!!!」by春田

>でも素直になった夏江くんにも激しく萌えたんで許すッツ!!!!!
>自分と向き合った夏江くんもカワイイww
↑つまり春田を好きな夏江だから萌えるってことでしょ?
なのに春田にとられて憎いって、ちょージレンマ!(笑
春田の胃に免じて許してやってぇ~。(てか春田のくせに神経性胃炎て生意気!

>最後の「おまえが大事だよ、春田」を読んで、わたくし真顔で
>「言われてぇぇぇえええええっ!」って思いました。(真顔なのが怖い)
↑またまたぁ、いつもダーリンに言ってもらってるくせに~(いや、知らないけど・笑
夏江の場合「好きだよ」よりも「大事だよ」のほうがらしいかな~と思って。
とかいって本当は退路を残しておきたい私の悪あがきww

このあとの春田のアンサーね。どーしよっかなぁ……。
はい、まだ書き上がってません!!(笑
がんばってどーにかするのでしばし待たれ~い。
朔田圭子 2011/05/09 22:03
■□ TRACKBACK
トラックバックURL:


■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

■□ COMMENTS
▼コメントありがとうございました!
[05/27 朔田]
[05/21 ままたみ]
[05/12 朔田]
[05/11 須和]
[05/11 ままたみ]
[05/10 須和]
[05/10 東風]
■□ PROFILE
管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
■□ RANKING
▼ランキングに参加しています。お気に召しましたらポチッとしていただけると大変励みになります。    ※こちらは別窓が開きます。
にほんブログ村小説ブログBL小説ランキング    カテゴリ別オンライン小説ランキング

にほんブログ村トラコミュ[メガネくん萌え]
▲管理人をしています。メガネくん好きの方はぜひご参加ください♪
■□ SEARCH
忍者ブログ [PR]