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創作BL小説ブログ
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 膝が笑ってる。日頃の運動不足が祟り、全身が泥のようでどこに力が入っているのかもわからない。歩き慣れない山道を、かつてないくらいの距離歩いたものだから、太股もふくらはぎもパンパンだし、足の裏の変なところが痛む。この調子だと明日の筋肉痛は免れないだろう。
「自転車通勤でもはじめるか……」
 己の体力不足を痛感しながら、それでも家路を辿る足は少しずつ速くなっていく。
 自宅のある雑居ビルを見上げ、7階の一番右側の窓に灯りが灯っているのを見て安堵する自分がちょっぴりくすぐったい。この感覚は一体なんだろう。
 なかなか降りてこないエレベーターに焦れつつ、ようやく我が家の玄関先に立った俺は、あえて自分で鍵を開けずに呼び鈴を鳴らした。すると間髪入れずにバタバタと騒がしい足音が近づいてきて、俺は反射的に一歩身を引いた。この一歩引くのが重要で、同居したての頃は開いたドアが額を強打したこともあった。
 それまで一人暮らしをしていた人間が突然他人と一緒に暮らすようになると……というか相手があの春田だからだろうか、とにかく日常的に思いがけないアクシデントに見舞われる機会が増える。とりわけ出会いがしらは危険だ。おかげで危機回避能力がアップした今の俺は、開いたドアにぶつかるなんて醜態は曝さない。
「おかえりっ!!」
 勢いよく飛び出してきた春田のすごくうれしそうで、それでいて泣き出しそうな笑顔に、俺の胸がきゅんと痛む。
「ただいま」
 そう言って目の前のすべすべの頬を摘まむと、春田はにへらぁと笑った。
「お風呂の支度できてるよ。すぐに入れるよ。それともカレー食べる?」
「先に風呂に入りたいな」
 俺はダイニングの隅にザックを下ろしてバスルームに直行した。湯の温度はちょうどよく、ゆっくり浸かっていると体内に溜まった疲労物質が溶け出していくようだった。
 風呂から上がると、キッチンで鍋の中を見つめながら「秋吉がおかわりしたからカレーが足りない……」と情けない声を出す春田に笑いを堪えつつ、俺は残っていたカレーでカレーうどんを作り、ふたりで出汁が多めの和風カレーうどんを平らげた。春田は鼻の頭に汁を飛ばしながらすっかりご機嫌だった。
 今日一日、あの扱いの難しい小坂先生と一緒にいたせいか、ちょっと間抜けで愛嬌のある春田を見ていると無性に安心する。春田の不思議な癒しオーラが、磨り減って歪になった俺の心をまん丸にしていく。
 おまえがいてくれてよかった。
 そう言葉にして伝えたら、春田はどんな顔をするだろうか。
 けれど俺は一度こいつを切り捨てたのだ。いくらなんでも虫がよすぎるし、第一気恥ずかしい。
 キッチンで皿を洗う春田の姿をカウンター越しにぼんやり見つめながら、そんな詮もないことを考える。このふわふわと漂う思考の着地点が見えない。
「悪い、今日はもう寝るわ」
 春田にひとこと断って、おれは早々にベッドに潜り込んだ。
 なんとなく落ち着かず、何度か寝返りを打ったのち頭から布団を被る。身体は疲れているのに、頭の芯が冴えてしまってなかなか眠りが訪れない。
 今日は山を登っている間ずっと春田のことを考えていたような気がする。小坂先生の精神衛生のために計画した山歩きだったのに、終始、家で俺の帰りを待つ春田のことで頭がいっぱいだった。ちゃんとカレーを食べただろうか。鍋を焦がしたりしてないだろうか。ネームは捗ってるだろうか。煮詰まったりしてないだろうか。不審者が家に押し入ったりしてないだろうか……。冬木の言っていた「シンプルな自分」にはほど遠い。
 仮にこの状態が「シンプルな自分」なのだとしたら、春田は俺の核の部分にまで入り込んでいるということになるのか?
 いや、俺はまだ「シンプル」の境地に至っていなかったのかもしれない。雑念に囚われて……って、春田を思うことは俺にとって「雑念」なのか? 俺にとって春田は雑に扱えるものなのか?
「いや、そういうことじゃないだろ」
 まさか口に出ていたとは気づかず、足元のほうで上がった「わぁ、びっくりした~」という声に俺のほうが驚いた。布団から顔を出して見ると、部屋のオレンジ色の薄明りの中に春田が立っていた。
「まだ起きてたの?」
「あ、あぁ……なんだか目が冴えちゃって……」
 バツの悪さに歯切れが悪くなる。
「今日は普段しない経験をしたから神経が高ぶってるのかもね。おれも早く寝ようと思ったんだけど、まだ寝ないなら今日の話を聞かせてよ」
 そう言って、俺がいつものようにベッドの隣に敷いてやった布団に寝転んだ。
「どんなとこだった?」
「どんなって……低い山が連なった丘陵地帯で、急な勾配はないんだけどアップダウンが多くて結構キツかったよ。なのに60代くらいのおばさんグループとか平気で登っていくんだ」
 その元気な元・山ガールたちに「あらあら、若いんだからがんばって!」と励まされてしまったことは伏せておく。
「その一帯で一番標高の高い山ではもう紅葉がはじまってて、すっかり秋の雰囲気だったよ。山の上はここよりも季節がひと月ぐらい早いんだな」
「いいなぁ。紅葉の中を歩いたら気持ちいいだろうねぇ」
「今度はおまえも一緒に行くか?」
「…………」
 ん? この変な間はなんだ?
「それは……夏江と小坂先生とおれの三人でってこと?」
 ああ、そういうことか。
「ばーか、おまえと俺のふたりでだよ」
 春田は飛び起き、俺のベッドの縁に顎を乗せて俺を見た。薄暗くても大きな瞳をキラキラさせてるであろうことは察しがつく。
「うん! 行くっ!!」
 俺は言葉の代わりに手を伸ばし、春田の癖のある柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でた。
 よろこぶ春田を見ていると、こっちまで気分が浮き立ってくる。道中、小坂先生には失礼だが、隣を歩いているのが春田だったら登りの苦しささえも楽しかったに違いない、と考えずにはいられなかった。山頂に立ったときも、この見晴らしのよい景色を春田に見せてやりたいと思った。
 いや、「見せてやりたい」のではなく、俺が春田と一緒に同じ景色を見たかったのだ。
 それはどうして?
 いや、特別な意味はない。
 嘘だ。本当は気づいてるんだろう?
 なにに?
 それは……。
 一瞬、意識に上りかけた答えを無理やり押し戻す。この自問自答は危険だ。うっかりすると退路を塞がれてしまう。
 そのとき、思考の外側から春田の声が滑り込んできた。
「……江? どうしたの?」
 ふわふわの頭の上で固まっている俺の手に、春田の手がそっと重なってくる。その瞬間、電流が走ったような感覚にびっくりして、咄嗟に手を引っ込めた。
「いや……なんでもない」
「変なの~」
 くすくす笑う春田に背を向けて布団を被った。
「もう眠くなってきたから」
 背中に「おやすみなさい」という春田の声を聞きながら、俺は妙な焦燥感に駆られ、ますます眠れない夜になるであろうことを予感した。





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更新ペース、どんくらいがちょうどいいのかわかんない……。 

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無題
シンプルの極致なんてことについて
ぐるぐるしている夏江くんにふふっとか
思っていたら突然のっぴきならない状況に!!
どきどきしますね~。この緊迫感。とか思ったら
春ちゃんはまた呑気そうなのね☆
二人の温度差がおかしいー。

うちも「よそう」だったような。でも「よそる」も
使ってたかな???
あと「かたずける」を「かたす」って言う??
ままたみ 2011/04/11 20:58 *edit
こばわ!
意外と一番シンプル(←単純)なのは夏江だったりして(笑
あともうひと押しだぞ! 春田!!(てか私!ww
春田がその気になれば夏江を手のひらで転がすことなんて簡単だろうに。
でも春田もたいがい抜けてるからな~。
ふたりの温度が同じになる日はくるのだろうか。。。

>うちも「よそう」だったような。でも「よそる」も
>使ってたかな???
↑やっぱ「よそう」のほうが多数派なのかしら。
「かたす」はうちも言う~。いつも息子に「かたしなさい!」って(笑
朔田圭子 2011/04/11 21:43
4月12日の拍手レス♪
4月12日 18:37のCさま♪

拍手&メッセージありがとん♪
おもしろい言ってもらえてうれしー^^
私、調子いいのか? うん、きっといいんだろうね。
いま別のお話を考えてて、春夏の次回分はまだ1行も書いてないんだけど
頭ん中ではもうできてるから、調子のいいときにこっちを書き進めるべきかにょ~。
朔田 2011/04/12 23:12 *edit
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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