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 正午のテレビ番組が始まると同時に玄関の呼び鈴が鳴った。
 おれは重い身体と気分を引きずって玄関へ向かった。
 6階までがテナントで7階から上が賃貸部屋のこの古い10階建て雑居ビルには、オートロックシステムもなければインターンホーンもない。野良猫の出入りも自由なこのビルで自分の身を守るのは自分だけ。先日、下階に空き巣が入ったため、「オオカミと七匹の子ヤギ」のお母さんヤギばりに心配する夏江の言いつけを守って、おれは玄関の鍵を開ける前に外の人物に訊ねた。
「どちらさまですか?」
「お母さんだよ~」
 薄気味悪いソプラノで答えるその声の主は、ドアの隣の新聞受けに手を突っ込んできた。
「坊や、開けておくれ。ほら、お母さんの手でしょう?」と手のひらを上に向けて拳を握り、中指を1本だけ突き立てる。
「うちのお母さんはそんなに下品じゃないよ」
 おれはため息混じりに開錠してドアを開けた。
「よお、今日は夏江のヤツいないんだろ?」
「うん……」
 秋吉は勝手知ったる我が家のように靴を脱いで上がると、まっすぐキッチンへ進む。
「あった、あった」
 コンロの上に鎮座する大きな鍋の蓋を開け、秋吉は中を覗き込んだ。
「やっぱり鶏ささみのカレーだな。自分の留守に春田の好物を作って置いて行くなんて、どんだけ過保護なんだよ。それともほかの男と遠出する罪滅ぼしか?」
 おれはムッとした。
「怒るなよ。あらかた話は聞いてるよ。編集さんも大変だよな」
 夏江は早朝から例のノイローゼ気味のまんが家さんと山へ出かけている。先日、冬木と話をしていて思い立ち、冬木に山歩きを教えた秋吉に装備や下準備のアドバイスを求めたらしいから、事情を知っていても当然なのだ。
「夏江、大丈夫かなぁ。崖から落っこちたりしてないかなぁ」
「大丈夫だよ」と言いながら秋吉はコンロに火をつけ、お玉でカレーの鍋をぐるぐると掻きまわしはじめた。
「その点は心配いらない。初心者向けの安全な山で、尚且つほどよい達成感の得られるルートをこの先生が熟慮して選んだんだから」
 そう言い切られると頼もしい感じがしないでもない。
「正直ちょっと意外だったよ。ただの変態教師だと思ってた秋吉にこんな趣味があったなんて」
 すると秋吉はお玉を持った右手で鍋を掻き混ぜながら、左手で銀ブチ眼鏡のツルを芝居がかった仕種で持ち上げた。
「いったいキミが私のなにを知っているというのだね」
「ごめんなさい……」
 てか器用だね。
「まあ、変態教師っていうのは否定しないけどね。皿、出して」
 否定しないのか。
「それよりどうする? もし今夜、夏江が帰ってこなかったら」
「え……」
 予想していなかった可能性に、危うく食器棚から取り出したカレー皿を落としそうになる。
 夏江が……帰らない?
「面倒くさい人間に引き寄せられる世話焼き体質の夏江と、精神的に不安定で自分を肯定してくれる人を求めてる小坂氏が、一緒に吊り橋を渡って恋に堕ちちゃったりなんかしたら……」
「えっ、吊り橋があるの!?」
「いや、ないコースだけど」
「なんだよ、脅かさないでよ」
 ほっと胸を撫で下ろすついでに手に持った皿も下ろす。けれど安心したのも束の間、秋吉はさらに不安を煽るような言葉を並べ立てる。
「けど急接近する可能性はある。大自然は人の心を開放的にするし、ひとつの目的に向かって苦労を共にするうちに心が通い合ったり、相手の今まで知らなかった一面が見えてドキッとしたり……」
 おれは耳を塞ぎたかったけど今度は両手にグラスを持っていたため、代わりに大きな声で秋吉の言葉を遮った。
「や~め~て~! 秋吉のいじわる! なんでそういうこと言うの? おれをいじめて楽しい?」
「うん、すごく……じゃなくて、オレは本気でおまえらのことを心配してるんだよ。もう傍で見ててじれったくて。おまえのデビュー祝いのあともオレがちゃんとお膳立てしてやったのに、あいつうやむやにして逃げたんだろ? とんだヘタレだよな」
 たしかにうやむやにされちゃったけど、おれの知らないところで夏江と秋吉の間にどんな会話があったのか気にはなるけど……でも!
「夏江のこと悪く言わないで!! 夏江はヘタレじゃないよ! すごくかっこいいよ! おれの王子さまだもん!」
 おれはドスドスと床を踏み鳴らしながらダイニングに移動し、テーブルにグラスとスプーンを2つずつ並べた。するとカウンター越しに秋吉が突っ込みを入れてくる。
「お母さんの間違いだろ」
「お母さんじゃないもん!!」
「じゃあ、本気で夏江とエッチとかしたいわけ? できるの?」
 ぎゃーっ! なんてこと言い出すんだ! この破廉恥教師!!
「本当はビビってるんじゃないの? だから今のぬるま湯みたいな“同居”で満足しちゃってんじゃないの?」
 満足? いやいや、まだ夢半ばですよ!
「そ、そりゃあおれだって男だし……」
 キッチンに戻って炊飯器の蓋を開ける。おれはしゃもじでごはんを捏ねながらうじうじと考える。
「てか男なのが問題だし……夏江は気持ち悪いって思うかも……また夏江に嫌われたりしたら、おれもう生きていけない」
「またって?」
「大学卒業したとき、夏江はおれに黙っていなくなっちゃったもん……」
 うう、思い出しただけで涙が出そう。
「あ~、あれはひどかったよな。トラウマにもなるわな。けどメシで遊ぶな。ちゃんとよそれ」
 言われるままに皿にごはんをよそり、それを秋吉に手渡しながら夏江の名誉のために反論する。
「夏江はひどくないよ! おれがいけなかったんだ。夏江に散々甘えて……そのうえ彼女まで奪っちゃって……」
「今も充分甘えてんじゃん」
 ううっ……。
 ごはんにカレーをかける秋吉の慣れた手つきを眺めつつ、おれは弁解の言葉を探す。
「わかってる。おれだってわかってるんだ。でも……夏江と離れ離れで暮らすのも、夏江に好きって言って拒否られるのも、怖い……」
「また夏江が消えちゃうかもって? おまえのトラウマは案外根深いのかもな」
 両手にカレーライスの皿を持ってキッチンを離れる秋吉の背中を視界の隅に捉えつつ、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。あ、サラダを発見。おれの分しかないけど。夏江、いつもおれの健康を気遣ってくれてありがとう!
「大丈夫だよ。夏江は今夜もちゃんと帰ってくるし、もうおまえの前から消えたりしないから」
 テーブルにサラダとフォーク2本を追加。秋吉と向かい合って席に着き、グラスにミネラルウォーターを注ぐ。
「大丈夫って、なんで秋吉にそんなことが言えるんだよ」
「ふふふ、先生はなんでもお見通しなのさ。さて、それじゃあいただきます!」
 律義に両手を合わせる秋吉の姿を見て、ようやくおれの頭の中に疑問符が浮かんだ。
「てか、なんで秋吉も一緒に食べるんだよ!?」
 一瞬、唖然としてから秋吉は言い放った。
「遅っ!!」





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ごはんをよそる? よそう? 

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4月4日の拍手レス♪
4月4日 01:10のCさま♪

拍手&メッセージありがとー!
いやいや遅くはないです。コメ第1号です(笑
春秋コンビ、よろこんでもらえてよかった~。
もしかしてこのコンビは需要がないかも…と思いながら書いてたので
笑ってもらえた上に好きだと言ってもらえたら、天にも昇る気持ちです♪

>この二人は一見合わないようでいて、実はとても息が合うんだね。
↑そだね、私も書いてみて気づいたよ(←オイ!
こういう1話読み切りのシリーズはいろんなパターンで遊べるから
書いてる方も楽しいのよね。
それを読み手の人にも一緒に楽しんでもらえるように
これからもコツコツ書いていきたいです。
こちらこそお粗末さまでした!^^

あ、Cさんとこは「よそう」かぁ。
やっぱ住んでる地域とか出身地とかで違うのかな~。
朔田 2011/04/04 23:59 *edit
お母さん!!!
春田くんのゴハンの準備は完璧でしたね、夏江くん。
さすが春田くんのお母さん!!!
春田くんは全否定してますけど「いや、なんかもうお母さんだからッツ!!!」
って私はPCを前に突っ込みいれました。(笑)
完全に胃袋掴んでますね~!! いいなぁ、夏江くんが我が家にも欲しい。

それにしてもこの二人の会話のテンポ、毎度凄く楽しいッス~♪
気の置けない友達って感じで良いですね!!
大変キュンキュンしましたww
友情が大好物なオッサンでスイマセン!!
心がほっこり致しましたっ!!!

因みにうちは「よそう」でした。
改めて言われると、ん?どっちだ!?と物凄く悩みますね。(笑)
須和 2011/04/05 14:46 *edit
はい!!!
わーん! 須和さん、節電奮闘中にコメありがとー!!

>春田くんは全否定してますけど「いや、なんかもうお母さんだからッツ!!!」
>って私はPCを前に突っ込みいれました。(笑)
↑突っ込みありがとう!(笑 
うん、もうお母さんだよね。どんなに否定したってお母さんだよね。
てかもうコレ無理にBLに持ってかなくてもお母さんでよくね?(←

>完全に胃袋掴んでますね~!! いいなぁ、夏江くんが我が家にも欲しい。
↑私もほしい。夏江を働かせて私はラクしたい。(←これ以上ラクをする気か!
もはや夏江は私の願望の産物でしかない。。。

>それにしてもこの二人の会話のテンポ、毎度凄く楽しいッス~♪
↑わーい! 須和さんにそこんとこ褒められるとうれし~わ~♪

>大変キュンキュンしましたww
↑キュンキュンいただきました! ここにも需要がありました!!(笑
友情いいよね~。気の置けない友だちっていいよね~。

>因みにうちは「よそう」でした。
↑そっかー、須和さんとこも「よそう」かー。
うちは「よそる」なんだけど、これってどういう分布の仕方してるんだろうね。
あと「そしたら」を「したっけ」って言ったりすんだけど、これも方言の一種なのかにゃあ。
言葉っておもしろいにゃあ。

朔田圭子 2011/04/05 16:26
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■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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