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 玄関ドアを開けると真っ暗だった。暗闇の中で正確に壁のスイッチに手を伸ばし、暖色の灯りを点灯する。
「ただいま」
 念のため声をかけてみたが返事はない。いつもならまだ起きてる時間で、俺の気配を察知するや否や犬っころのように駆け寄ってくるのに。
 俺は訝しく思いながら靴を脱ぎ、空調の効いていない蒸した廊下を進んだ。
「春田、いないのか?」
 部屋の灯りを点けるとダイニングテーブルの上にメモ書きを見つけた。そこには丸っこい癖字で「エリちゃんの原稿を手伝いに行ってきます。今日は帰れないかも」とあった。
 春田はプロのまんが家としてデビューしてからも、同じくまんが家をしている従姉のところに時々アシスタントに入る。昔から彼女に頭が上がらない春田に拒否権はない。呼び出しがかかるたびに「でもバイト代はちゃんと出してくれるから」と俺に弁解しながら通っている。俺は一度だって反対したことはないのに。むしろまんがに関係している分、弁当屋のバイトよりもマシだと思っている。けれど当人は弁当屋の仕事を気に入っているらしい。俺の部屋に引っ越してきたときにやめたはずなのに、自称“商店街のアイドル”はいつの間にか弁当屋の店先に舞い戻っていた。といっても今は時間に余裕のあるときだけのようだが。
 そうして稼いだバイト代から「せめて食費だけでも」といって毎月わずかながら生活費を入れてくる。俺は断って金を返そうとしたが、春田は頑として受け取らなかった。ああ見えてあいつは頑固なのだ。もしくはそれが春田のプライドなのかもしれない。俺は仕方なくその金を預かるたびに、早くこいつをまんがだけで食っていけるようにしてやりたいと心の中で強く思うのだった。
 春田の仕事場兼リビングのソファにカバンを置き、俺は部屋の中に籠っている日中の熱気を追い出すため、ベランダに面した吐き出し窓を開けた。
 ふわっと涼しい風が入ってくる。いつのまにか残暑のピークを過ぎ、夜の空気に秋の気配が混ざり始めていた。そんな季節の変化に気づく余裕のなかった自分に虚しさを覚える。
「もう夏も終わりか……」
「もうじゃなくてやっとだよ」
「えっ?」
 俺は驚いて隣のベランダを覗いた。そこにはなにやらスプレー缶のようなものとごつい靴を手にした冬木が立っていた。
「そんなところでなにしてるんだ?」
「シューズに防水スプレーをかけてるんだよ」
 冬木はシューッと靴にスプレーを吹きつけた。なるほど樹脂っぽい強烈な臭いがこっちまで漂ってくる。これでは部屋の中ではできまい。
「それにしても」と冬木の細く華奢な手に持ち上げられた重そうな靴を見る。
「ずいぶんごつい靴だな」
「トレッキング用だからね」
 冬木の口から意外な言葉が出てきて興味を惹かれる。
「トレッキングって、おまえ山歩きなんてするのか?」
「うん、たまにね。ストレスが溜まったときとか、もやもやしてるときとか……」
 俺はベランダの手すりに凭れて頬杖をついた。
「もやもやねぇ」
「夏江も歩いたらいいのに。仕事で煮詰まってるんじゃないの?」
 まいったな。見透かされてる。たしかに小坂先生の件が手詰まりで、どうしたらよいものか考えあぐねていた。
「山を歩いてると心が洗われるよ。一足ごとに下界の垢が剥がれ落ちていくみたいに」
「おまえに垢なんてあるのか?」
「あるよ。もう垢まみれだよ」
 そう言う口元が寂しげに微笑んだ。仕事柄いろいろあるであろうことは想像できるが、冬木自身はそういうものとは無縁の次元に生きているというか、常に目に見えないバリアーで守られているようなイメージを勝手に抱いていた。
「でも人間の営みなんて大自然に比べたらちっぽけなものだ。そう思うとそれまで囚われていたことが全然大したことじゃないような気がしてきて、自分にとってなにが一番大切なのか見えてくるんだ。すごくシンプルな自分になれるんだよ」
「シンプルな自分、か……」
「なんて、全部受け売りだけどね」
「誰の?」
「変態教師」
 そう言って冬木は笑った。
 内心、俺は少なからず驚いた。ふたりは同居こそしているが、互いのプライバシーには立ち入らない主義だ。本当にふたりの同居は上手くいっているのかと心配になってくるほどの個人主義だ。まさかあの秋吉が、マイナスならまだわかるがプラスの影響を冬木に与える存在だったとは。さすが腐っても教師と言うべきか。
 そもそもこれほど不釣り合いなふたりはいない。なぜ彼らは同居するに至ったのだろう。
「あのさ、今更なんだけど……」
「なあに?」
「冬木と秋吉はなんで同居することになったんだ?」
「ほんと今更な質問だね」
 冬木の呆れたような様子にてっきり流されると思ったら、彼は真面目に答えてくれた。
「大学2年のとき秋吉と飲んでて、どういう話の流れだったかは忘れたけどあいつが言ったんだ。オレと一緒に暮したら楽しいよって。僕はそうだなって相槌を打った。お互いに酔ってたし、その場限りの他愛のない会話だと思ってた。だけど卒業式のあと、おまえの荷物はいつ運ぶ?って訊かれて……」
 卒業式の前にはすでに俺も秋吉もこのマンションの賃貸契約を済ませていた。どうりであのとき秋吉はリビングダイニングをパーテーションで区切って2部屋にするとかなんとか言ってたわけだ。
「あはは、それは驚く」
「だろ? そのときまで僕はすっかり忘れてたし、酒の上での会話を本気にするなんて誰も思わないだろ? けどあいつは覚えてた。本気だった。悔しいけどそういう男なんだ」
 まさに有言実行の男か。多少傍迷惑な感は否めないが、同じ男として感心はする。
「あいつこそ“シンプル”を体現してる男なのかもな」
 冬木は同意しかけてなにかを思い出したように言った。
「うん……いや、あいつよりも上をいくシンプル人間が近くにいるよ」
「え、誰?」
「春田」
「ああ……」
 俺はずぐに納得した。
「あいつはまんがのことしか考えてなさそうだよな」
 すると冬木はあからさまに大きなため息をついた。
「訂正するよ。春田は夏江が思ってるよりもう少し複雑だよ」
 俺はそれにはなにも答えなかった。
 いや、答えられなかった。
 心の中で「わかってるさ」と呟く。
 再び隣のベランダでスプレーを吹きつける音がする。
 秋混じりの風が流れる。
 俺は不格好に切り取られた夜空に星を探した。





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先生!!
秋吉先生!!!
変態教師とか呼ばれているくせにやだ、カッコイイ!!!!
ちょっ、、、見直しましたよ、秋吉くん!!!(お前どんだけ酷いこと思ってたんだ)

そしてスイマセン、垢まみれの冬木くんに身悶えました。
そんないつも飄々とした感じの冬木くんが寂しそうに「垢まみれ」って!!!!!!!
萌え過ぎてはーーげーーるぅぅううううう!!!!!!(暴走猛々しく大変スイマセン)
夏江くんと春田くんの関係も気になりますが、今後の冬木くんと秋吉くんにも目が離せないな、、、と私ワクワクしておりまっす♪
須和 2011/03/07 14:33 *edit
はい!!
やっと更新しました~。早速読んでくれてありがとー!

>ちょっ、、、見直しましたよ、秋吉くん!!!(お前どんだけ酷いこと思ってたんだ)
↑あはは、たしかに酷い書かれようでしたな。
春も夏もわかりやすいキャラなので、その反動で秋は振り幅がデカめになっております。
変態なのに稀にかっこいいというバカらしい二面性を打ち出していこうかと(笑

>そんないつも飄々とした感じの冬木くんが寂しそうに「垢まみれ」って!!!!!!!
>萌え過ぎてはーーげーーるぅぅううううう!!!!!!(暴走猛々しく大変スイマセン)
↑はげるんかいっ!!(笑
具体的にどう垢まみれなのかは妄想して楽しんでいただければもう…(←書き逃げする気満々

>夏江くんと春田くんの関係も気になりますが、今後の冬木くんと秋吉くんにも目が離せないな、、、と私ワクワクしておりまっす♪
↑春夏の関係は言ってしまえば王道パターンっすね。秋冬はどーかなー。
メインは春夏なんだけど、秋冬も同時進行で展開していければいいな~と思うとります。

もはや「ここは月刊か!?」っつうくらいのルーズぶりを発揮しとりますが
まあ、お互いにマイペースでがんばっていきましょ~^^
朔田圭子 2011/03/07 23:11
3月6日の拍手レス♪
3月6日 21:59の匿名さま♪

拍手&メッセージありがとうございます^^
深い森で松茸ですか!
うちのはそんな高級なもんじゃございやせんが(せいぜいしめじ程度でww
お口に合いましたら幸いです♪
秋ね、意外と奥が深いのか、それとも見たまんまの変態教師か、
微妙なところですね~(笑
その紙一重な感じを私自身も楽しんで書いてます。
これからもお付き合いいただければうれしいです^^



レス不要の拍手&メッセージもありがとうございました!
うれしかったです^^
朔田 2011/03/07 22:35 *edit
3月8日の拍手レス♪
3月8日 15:47のMさま♪

拍手&メッセージありがとー!
あはは、孤高の美貌っすか。そこまで描写しきれてないのに
いい感じに汲み取って想像していただき至極感謝!!
秋吉との関係ね、進展するのかしら(←オイ!
うん、私たちはいつだって脇役に走りがち。そーゆうサガなのさ。

ところでMさんちの縦横斜シリーズは続かないのん?
いい子に待ってればいい?
朔田 2011/03/09 23:58 *edit
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誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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