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 どこからかいい匂いがして、十哉は目を開けた。顔を上げると、目の前にファストフード店の紙袋が置いてある。
 これはフライドチキンの匂いだ。
 カウンターのパソコンの前に座っていた中原が、十哉が目を覚ましたことに気づいた。
「腹へってないか? それ食べろよ」
 十哉はぼうっとした頭で壁の時計を見た。中原が出かけてから、まだ三十分ほどしか経っていない。中原はいつから戻っていたのだろうか。
「本当はここは飲食禁止だから、ほかのやつらには内緒だぞ」
 ぐーう、と腹の虫が鳴いた。十哉はおずおずと紙袋に手を伸ばす。
「……いただきます」
 唐辛子のきいたフライドチキンは、まだ少し温かかった。十哉が食べている間、中原はずっとパソコンに向かって、なにやら打ち込んでいる。その横顔に訊いてみる。
「なあ、さっきの生徒たちは図書委員?」
「そうだよ」
 パソコンのモニターから目を離さずに、けれど中原はちゃんと返事をしてくれる。
「中ちゃんって呼ばれてるの?」
「勝手にあだ名をつけられた」
「中原さんっていくつなの?」
「二十七だよ。おまえらから見たらもうおっさんだろ?」
 そんなことはない、と心の中だけで否定する。中原は身長も高く、十哉の目から見てもかっこよかったが、それを素直に認めるのは癪だった。
「どおりで落ち着いてるはずだよな。おれもそれぐらいの歳になれば、もっといろんなことを上手くやれるようになるのかな……」
 キーボードを叩く音が止んだ。
「俺はそんなに大人に見えるか? 何事も上手くやってるように見えるか?」
「うん。なんか余裕って感じ」
 中原は大きなため息をついた。
「そうでもないんだけどな」
 小さく笑ったその表情が、いつもの彼の印象を裏切って頼りなく見える。なぜだか十哉の胸はひきつれるように痛んだ。
「俺のことより、おまえはどうなんだ? 最近また元気がないみたいだけど」
 中原の気遣いがうれしかった。危うく涙腺が緩みそうになり、十哉は話をはぐらかした。
「そんなことないよ。ほら、おれ暑いのが苦手だから……」
 それで納得したのか、中原はそれ以上なにも訊いてこなかった。本を触るなら手を洗って来いよ、とだけ言い残して司書室に消えていった。
 元気がないことを自分で否定したくせに、あっさり引かれてしまったことが、十哉には寂しかった。疲弊しきった心は、ちょっとしたことでも容易く傷ついてしまう。十哉は悄然と席を立った。
 トイレの水道で、手についたフライドチキンやポテトの油を洗い流して戻ってくると、中原は窓際に佇んで紫煙を燻らせていた。その大人っぽい後ろ姿に、なぜだか十哉はどきっとした。それが悔しくて、わざと口汚く文句をつけてみる。
「煙草は禁止じゃねえのかよ」
 振り返った中原は、口の端を片方だけ吊り上げた。
「これも内緒にしといてくれ。口止め料はさっき食べただろ?」
「大人はやだね」
 言いながら、机の上に行儀悪く腰かけた。
 中原は携帯灰皿を取り出し、煙草の火を揉み消した。一応、生徒の前で煙草を吸うのは控えているのかもしれない。
 その様子をぼんやり見つめていると、中原が心配そうに訊ねてくる。
「本当に大丈夫か?」
「え?」
「だから……ここんところおまえの様子が変だから、これでも心配してるんだよ」
 砂に沁み込む一滴の水のように、中原の声が十哉の渇きを満たしていく。
「悩み事があるなら聞くぞ」
 そう言って、中原は十哉の隣に並んで腰かけた。眼鏡の奥の温かい眼差しが、十哉の顔を覗き込んでくる。中原のこまやかなやさしさが自分に向けられているのだと思うと、十哉は堪らなくなった。
「おれ、なんか変なんだ……」
 吐息と一緒に、胸を塞いでいたものを吐き出す。
「沢が憎いんだ」
 一度口に出してしまったら、もう後戻りはできない。十哉は拳を白くなるまで握りしめ、悲愴な声で訴えた。
「憎くて憎くて堪らない。大事にしたいのに、時々無性に傷つけてやりたくなるんだ。あいつが楽しそうに笑ってると、もうそれだけで心臓がぎりぎり捩れる感じがして、凶暴な気持ちになるんだ。このままじゃ、いつかおれ本当に沢にひどいことをするかもしれない」
 崩れるように両手に顔を埋める。指の隙間から消え入りそうな声が漏れた。
「怖いんだ……」
 沢の親友になりたいと思っていたはずなのに、いや、今でも十哉にとって沢は一番の存在のはずなのに、どうしようもなく沢が憎い。そんな自分が信用できなかった。
 不意に中原が十哉を抱き寄せ、宥めるようにやさしく十哉の腕をさすった。
「十哉、大丈夫だよ。落ち着け」
 小さな子どもをあやすように、中原は何度も繰り返す。やがて中原は静かに語りだした。
「なあ十哉、大切に思っていた相手が自分を顧みてくれないとき、急に憎らしくなったりするのはよくあることなんだ。相手を思う気持ちが強ければ強いほど、その反動も大きくなっていく。それは友だちに対してだったり、恋人に対してだったり、家族に対してだったり、人によってケースはいろいろだけど、多かれ少なかれ誰にでもあることなんだよ。十哉だけじゃない」
 中原の心地よい声が、耳ではなく身体に直接響いてくるのを感じながら、十哉は頭の隅で別のことを考えていた。
 なんでこの人はおれを下の名前で呼んでいるのだろう。
 疑問に思いながらも、抵抗は感じなかった。
「中原さんにも、そういうことあった?」
 中原は苦笑を浮かべた。
「ああ、今でもあるよ」
 十哉は中原の顔を見上げた。
「中原さんみたいな大人でも?」
「容易に感情を表に出せない大人のほうが、むしろその傾向は強いかもな」
「そうなのか……」
 常に冷静に見える中原も、自分とあまり変わらないことがわかって安堵する。なにより、肩にまわされた中原の腕の力強さが、十哉に安心感を与えていた。
「中原さんがいてくれてよかった。もし相談できる人がいなかったら、おれは自棄になって、今ごろなにをしてたかわからない」
 それからちょっぴりはにかんで、十哉は中原の肩に額を摺り寄せた。
「おれ、中原さんみたいな兄貴がほしかったな」
 けれど、中原の言葉は十哉の幸福感に水を注した。
「そこまで俺を信用していいのか?」
「え、どういう意味?」
 反射的に顔を上げると、中原の顔が間近にあった。中原がいつか見せたあの真剣な瞳で十哉を見つめている。
 慣れない中原の真剣さと非日常的な距離感に動転している間に、中原の唇が十哉の唇にそっと触れ、すぐに離れた。頬骨に冷たい眼鏡の感触が残る。
「こういう意味だよ」
 なにをどう理解したらいいのかわからず呆然としていると、中原は十哉の肩を抱いていた腕を解き、自嘲気味に笑った。
「我ながら余裕ないな。今のは忘れてくれ。いい兄貴でいられるよう努力するよ」
 密着していた中原の体温が離れたことが、十哉を再び不安にさせる。先程までの満ち足りた感覚が、潮のように引いていく。ふたりの間の拳ふたつ分の距離が、十哉にはせつなくなるほど遠かった。





第10話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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