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 校舎がある敷地の西側、一般道路を挟んだ斜め向かい側に体育館はある。蒸した空気が澱む中で学園長の長話を聞かされるのは、もはや拷問に等しい。全開にされた窓から入ってくるのは、救いの風ではなく、神経を逆撫でする蝉の声。この蒸し風呂地獄から生還しても、今度は教室で成績表が手渡される。生徒の中にはここでもう一度地獄を見る者もいたが、十哉は難なく無傷での帰還となった。
 明日からは夏休み。みんな浮き足立っている。補習のある連中も、とりあえず夏休みの到来を喜んでいる。ただひとり、十哉だけが浮かない顔をしていた。
「柳田、ちょっと頼みがあるんだけど」
 教室を出て図書室へ向かおうとしていた十哉は、廊下でクラスメートに呼び止められた。
「なに?」
「明日、知り合いの女子校の子たちも呼んでカラオケ大会やるんだけど参加しない? 予定してたやつが急に行けなくなっちゃってさぁ。やっぱ向こうと人数合わせないとまずいし」
 いわゆる合コンというやつだ。
 かつての十哉なら、興味がなくてもまわりの期待に応えようとしただろう。けれど、現在の十哉はそれがいかに無意味で無駄なことであるかを知っている。それに、今はとても女の子にいい顔ができる精神状態ではなかった。
 だからといって、クラスメートとの間に軋轢を生むのは利口なやり方ではない。十哉は極力残念そうな表情をつくった。
「明日か……先約があるんだよな」
 そう言えば、すぐに諦めてほかをあたるだろうと思っていた。無理に十哉を引っ張り出さなくても、行きたがるやつはほかにいくらでもいる。
「そこをなんとかならないか? べつに盛り上げろとは言わないよ。ただいてくれるだけでいいんだ」
 意外にも食い下がってくる。彼には彼の思惑があるのかもしれないが、十哉には関係のないことだ。
「今からじゃ予定を変更するのは無理だよ。悪いな」
 すると彼は渋々引き下がり、教室にいる仲間のもとへ戻っていった。
 これでもう二度と誘われることはないかもしれないが、十哉はあの連中を友だちだなんて思っていないし、自分の意思を曲げてまで付き合う価値のある人間だとも思わない。
 十哉は自分のペースを他人に乱されることを最も嫌った。
 それなのに、そんな十哉の心を掻き乱すたったひとりの存在を、手放すことができずにいる。
「あ、十哉。今から図書室?」
 中庭を歩いていると、今度はひとりで帰ろうとしている沢と出くわした。
 最近、沢はこうして先に帰ってしまうことが多い。本人はなにも言わないが、おそらく例の女の子と会っているのだろうと、片野たちは推測している。今日も用事があるから図書室に寄れないということは、朝のうちにすでに聞いていた。ただし、理由は教えてくれない。今更彼女のことを隠す意味がわからないし、そんな沢のよそよそしさに十哉は苛立っていた。校内で沢と顔を合わせるたび、喜びと同時に苛々も募っていく。
「みんなによろしくね」
 そう言って、沢は無邪気な笑顔で手を振った。
 その瞬間、十哉は眩暈を覚えた。
 皮膚のすぐ下を、なにかがさざ波のように駆け上がってくる。
 胸の奥に潜んでいる得体の知れないものが目を覚ます。
 沢が憎い。
 沢を傷つけたい。めちゃくちゃにしてやりたい。
 それは感情というより、衝動だった。
 沢の無防備な背中が、その衝動に拍車をかける。
 その細い首に、もしもこの手を伸ばしたなら……。
 想像して、十哉は身震いした。
 罪悪感と背中合わせに存在する快感を、十哉は十六歳で知った。
 しかも、こうした状況に陥るのはこれが初めてではない。ほんの一瞬だが、十哉は度々このおぞましい衝動に支配されるようになっていた。自分で自分の感情を制御できないことが恐ろしかった。
 十哉は沢から逃げるように、足早に図書室へ向かった。一秒でも早く、安心できる場所へ逃げ込みたかった。
 本館の二階へ上がると、廊下には生徒たちの話し声が漏れていた。片野たちの声ではない。訝しく思った十哉は、少しだけ開いている扉の隙間から中を覗いた。すると、十人近い生徒たちがカウンターのまわりに集まり、なにやら楽しげにおしゃべりをしている。いつもならまばらにしか来客がないのに、珍しいこともあるものだ。
 中に入ろうか、それともこのまま帰ろうか、十哉は逡巡した。
「入らないのか?」
 突然、背後から声がして、十哉は飛び上がりそうになった。絨毯張りの廊下は、足音がしないから心臓に悪い。
 目ざとく中原の姿に気づいた生徒が声をあげた。
「あっ、中ちゃん、遅ーい」
「悪い、悪い」
 中原に押し込まれるようにして、十哉も中へ入ってしまった。さすがに居心地が悪くて、十哉は書架を物色する振りをしながら、連中の様子を窺う。よく見ると、時々ここで見かける生徒が何人かいた。おそらく彼らは全員図書委員なのだろう。
 なおも帰るべきかどうか迷っていると、いったん司書室に引っ込んでいた中原が出てきて、十哉に歩み寄ってきた。
「ほかの三人は? 今日は来ないの?」
「うん。片野と吉本は神保町で、沢は……デート」
 中原はちょっと考えてから、十哉の耳元に顔を寄せた。
「これからちょっと出てくるけど、すぐに戻ってくるから待ってて」
「え?」
「それともなにか予定が入ってる?」
 十哉は首を横に振った。
「それじゃ、あとでな」
 十哉の猫っ毛に指先で軽く触れてから、中原は図書委員たちが待つカウンターへ戻った。
「よーし、行くぞー」
 ぞろぞろと生徒たちを引き連れ、中原はどこかへ出かけていった。
 図書室に静寂が訪れる。
 十哉は所在なさげにいつもの窓際の席に座った。
 二週間ほど前、十哉が沢に対する自分の気持ちを打ち明けてから、中原はなにかと十哉を気にかけてくれている。なぜよくしてくれるのかはわからないが、十哉の心が慰められていることは確かだ。
 ふと窓の外に視線をやる。
 今頃、沢は駅で彼女と会っているはずだ。
 今朝、一限目が始まる直前に、今日も図書室に寄らずに帰ることを本人から知らされた。自分のデートでもないのに、それからずっと頭の中で何度もふたりの行動をシミュレーションしていた。
 約束の場所は駅の改札口。そこからふたりはどこへ向かうのだろうか。沢はどんな顔をしているだろうか。やっぱり女の子にはやさしいのだろうか。
 十哉の頭は壊れたプレーヤーのように、同じ場面を何度も繰り返し再生している。擦り切れた十哉の心は、今にも千切れてしまいそうだった。
 もう疲れた。なにも考えたくない。
 十哉は机にうつ伏せ、目を閉じた。眠りの中に逃げ込めれば、それが一番安心だと思った。





第9話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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