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「あれ、柳田はみんなと一緒に帰らなかったのか?」
 用事があって職員室へ行っていた中原が戻ってきたのは、配架が終わって、沢たちが家路についたあとだった。
 今日はほかに利用者もなかったので、十哉はひとり居残って、ぼんやりと窓の向こうの雨音に耳を傾けていた。
「もうここ閉めちゃうの?」
「いや、まだだけど……なにかあったのか?」
 中原は気遣わしげに訊ねてきた。十哉が返事をせずに黙っていると、中原はいきなり核心を衝いてきた。
「沢のことか?」
 やはり中原は、あのとき沢と十哉のやり取りを聞いていたのかもしれない。心の中を見透かされたことに羞恥は覚えるものの、かえって緊張が解けていくような、奇妙な開放感が十哉を包んだ。とはいえ、素直に悩みを打ち明けられるほど、中原と親しいわけでも、子どもなわけでもない。
 十哉がためらっていると、中原はゆっくりと噛んで含めるように言った。
「俺はおまえの先生でも親でもない。ましてや友だちでもない。おそらくおまえがここを卒業すれば、それきり関わり合うことはないだろう」
 心臓がひやりとした。
 なにを言い出すのかと思い、十哉は中原の顔を見返した。
「親や友だちには話せないようなことでも、通りすがりの、いつか会ったことすら忘れてしまうくらいの人間なら、気安く話ができるんじゃないか?」
「……それがあんただって言うの?」
 寂しげな微笑で中原は肯定した。
 少なからず中原を気に入っている十哉としては、それがおもしろくなかった。端から十哉が中原を忘れると思っていることも、中原が十哉をその程度の生徒として見ていることも、そうやって十哉との間に一線を引いてしまうことも、なにもかも気に入らなかった。
 けれど天の邪鬼な十哉は、だったらその程度の生徒を演じてやろうと意固地になっていく。
「そうだな。まったく無関係の他人になら、なにを話しても平気かもな」
 つい語気が強くなってしまう。微かに中原の表情が強張ったようにも見えたが、今の十哉に中原の気持ちを慮る余裕はなかった。
「で、元気がない原因は沢なんだろう?」
 十哉は投げやりに頷いた。
「そうだよ」
「やっぱりな。柳田は沢が女の子と会うのが気に入らないのか?」
 多分そうなのだろうと思う。けれど、中原の言うことをすべて肯定するのは、十哉の自尊心が許さなかった。
「べつに会うのはいいんだ。ただ、そのことを片野に訊かれるまであいつが黙っていたことに腹が立つんだ」
 中原はその先を促すように黙っている。
「最初におれに話してくれると思ってたんだ。おれたちは一番の友だちだと信じてたから。だけど……そう思っていたのはおれだけだったみだいだ」
 十哉はひと呼吸おいてから続けた。
「よく考えてみれば、おれたちはお互いのことをなにも知らないんだ。ただいつも一緒にいるっていうだけで、お互いに自分の本当のことはなにひとつ話さないし、訊くこともない」
 それがふたりの関係を長続きさせるコツだと思い込んでいる節が、十哉にはあった。
 これまで積極的に誰かと関わり合いになろうとしたことのない十哉は、だから誰かと喧嘩になることもない。喧嘩をしたことがないから、仲直りの仕方も知らないし、仲直りができることも知らない。それゆえに、沢を怒らせてしまうこと、沢に嫌われてしまうことをなによりも恐れた。何事もなく、ただ平穏で楽しい時間が少しでも長く続くことを願った。
「そんなの、友だちとは言わないだろ」
 十哉は自分の言葉に傷ついた。
 中原はいつになく真面目な顔になり、長くて形のよい中指で眼鏡を押し上げた。そのしぐさは、いつもの太平楽なイメージにそぐわず神経質そうに見えた。
「まあ、ひとくちに友だちと言っても、いろんな関係があるからな。これが正解、なんてものはきっとないんだよ」
 やけに実感がこもっていた。中原にも友だちとの関係に悩んだ時期があったのかもしれない。
「中原さんの学生時代はどうだった?」
「俺?」
 中原は少し困ったように微笑んだ。
「俺はまあ、バカなガキだったよ。そんなことより、もし沢がその女の子と付き合うことになったら、柳田はどうする?」
 十哉はどきっとした。中原に指摘されなくとも、その可能性を一番恐れているのは十哉自身だ。
 はたして中原にどこまで本音を曝してよいものか、迷うところではあった。他人に自分の弱さや未熟さを露呈してしまうのは恐ろしい。その一方で、ずっと誰かに自分の話を聞いてほしいと思っていたことも事実だ。なにもかも曝け出してしまえれば、どんなにか楽だろう。
 半ばやけっぱちな気分で打ち明け話を始めた十哉だったが、今は中原に縋りたい気持ちのほうが大きくなっていた。
 十哉はとうとう観念した。
「喜んでやるのが本当の友だちだと思う。でも……いやなんだ。沢の一番はおれなんだ。沢の気持ちがほかの人間に向くなんて、そんなの許せない。沢がおれよりも女をとるなんて……」
 そこで中原が驚いたように口を挟んだ。
「ちょ、ちょっと待てよ。おまえと女の子を同じ秤に乗せてどうするんだ。立場が違うだろうが」
「同じだよ。少なくともおれにとっては」
 十哉の中には、一番の椅子はひとつしかない。友だちとしての一番、恋人としての一番、などと自分の気持ちを器用に振り分けることなんてできない。
「おれには沢が一番なんだ」
 思いつめた表情で十哉は断言した。
 中原は思案顔で黙り込んでしまった。そして、ややあってから突拍子もないことを言い出した。
「今は沢しか見えなくなってるんだな。だったら、その気持ちを正直に沢に伝えてみたらどうだ?」
 十哉は驚いて頭を振った。
「だめだ。そんなこと口が裂けても言えない」
「なんで?」
「なんでって……もしそれで沢に拒絶されたらどうするんだっ」
 叫び出しそうになる気持ちを、十哉は懸命に抑えた。
「そんなのだめだよ、絶対に」
「怖いのか?」
「……怖いよ。怖いに決まってるじゃん。沢に嫌われるくらいなら、このままつかず離れずのほうがマシだ」
 中原が訝しげに十哉の顔を見つめてくる。
「……まだ気づいてないのか?」
 一体なにを問われているのか、十哉にはわからない。
「なにが?」
 中原は一瞬ためらってから口を開いた。
「おまえにとって、沢はなんなんだ?」
「沢は一番大事な……」
 一番大事な、なんなのか。十哉の胸に答えはひとつしかない。
「友だちだよ」
 なおも沢を友だちと呼ぶ十哉のこの言葉の裏には、一言で言い尽くせぬ複雑な感情が隠されている。けれど、それを的確に言い表す言葉を十哉は持たない。
 中原は天井を仰いだ。このまま十哉を追い詰めても、出口は見つからないということだけは明白だった。
 中原の素振りを見て、十哉は彼に呆れられてしまったのだと思った。すると頭の中が急速に冷めてきて、つい感情的になってしまったことに気恥ずかしさを覚える。それが十哉を饒舌にした。
「多分おれは、友だちのつくり方がわかってないんだと思う。おれのまわりには本を読むやつがいなかったんだ。いつも女の子とか遊びの話ばっかりしてる連中を、心のどこかでバカにしてたところがあって……バカにしながら、表面上は仲のいい振りをしてきたんだ。だから、誰とも真剣に向き合ったことがなかったし、誰かにおれのことをわかってもらおうとも思わなかった」
 実際、こんなことを他人に打ち明けるときがくるなんて、十哉自身、考えたこともなかった。
「こんなおれには無理かもしれないけど、親友と呼べる友だちがほしい。いつか……沢を親友と呼べるようになりたい」
 これが自分の偽らざる本音なのだと、十哉は信じていた。これが本当の自分の望みなのだと。





第8話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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