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創作BL小説ブログ
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 一瞬、図書室の中が水を打ったように静かになった。
 その沈黙を片野が破る。
「本当に?」
「こんなことで嘘ついでどーすんだよ」
 それから片野は笑い出した。
「いやー、おめでとう。それで相手はどこの子? なんて言われたの?」
  沢は喜んでいいのか怒っていいのか量りかねた様子で、とつとつと答える。
「駅向こうの女子校の一年生。学園祭の二日目に……付き合ってほしいって言われて……」
 あきらかにおもしろがっている片野は、さらに追求する。
「で、なんて答えたの?」
「そんなすぐには返事できないって」
「そしたら?」
「とりあえず、一度だけでもデートしてくれって食い下がられて……ケータイの番号とメルアドを渡された」
 片野は感心したように腕組みをした。
「なかなか積極的な子だね。それでデートはするのか?」
「そんな感じで押し切られちゃったから……」
 だんだん勢いがなくなっていく沢を、片野は笑いを堪えて励ました。
「べつに困ることじゃないだろう。いいじゃん、付き合ってみれば。もしかしてかわいくないの?」
「かわいいよ。小柄で女の子らしい感じ」
「沢より背が小さいっていう必須条件をクリアしてるなら、この出会いは貴重だぞ」
「それ、どういう意味だよ」
「このチャンスを大事にしろってこと。なあ、十哉」
 いきなり自分に振られて、十哉は返事に窮した。
「あ、あぁ……」
 本当は、彼らの会話の半分も十哉の耳には届いていなかった。それくらい動揺していた。
 十哉にとっても、これは初めて聞く話だった。普通に考えれば、まずは一番親しい十哉に打ち明けてくれそうなものだ。しかし、沢は十哉に話さなかった。おそらく、片野が挑発しなければ沢は黙っているつもりだったのだろう。先程の夏休みに高知に帰省する話も、十哉が訊かなければ、沢はなにも言わずに出発していたに違いない。秘密主義というと意識的に隠しているように聞こえるが、沢の場合、相手が自分のことを知りたがっているとは考えないのだろう。訊かれれば答えるよ、ぐらいの気持ちなのかもしれない。
 逆も然り。沢は他人の個人的な事情に首を突っ込んでこない。常に、話したいなら聞くよ、という受身の姿勢だ。これはもう謙虚だとか謙遜だとかいうより、他人に興味がないのではないかと疑いたくなる。
 考えてみれば、沢の一番近くにいる十哉でさえ、沢自身のことや沢の家庭のことなどはほとんどなにも知らない。片野に相談したら、そんなの直接訊いてみればいいだろう、と一蹴されそうだが、自分から積極的に訊き出すには、十哉は自尊心が強すぎた。相手が話さないのなら、自分だってべつにどうしても知りたいわけじゃない、という態度をとってしまうのだ。この点では片野の天の邪鬼を上まわるかもしれない。
 要するに、十哉と沢は性格や動機の部分は違えども、やっていることは同じなのだ。こんなひとりよがりで非建設的な関係を、友だちと呼べるだろうか。
 途端に沢との間に距離を感じた。こんなことは今まで一度だってなかった。
 足元がぐにゃりと頼りなくなって、黒くて冷たいものが爪先から這い上がってくる。得体の知れない感情に捕まりそうになったそのとき、なにかが十哉の肩に触れた。
「おーい、おまえら騒がしいぞー」
 頭のすぐ上で、中原の間延びした声がした。大きな手が十哉の肩に乗っている。その手の重みと温かさが、十哉を暗い淵から現実に引き戻した。
「ヒマなら配架手伝えよ。ブッカー貼りでもいいぞ」
「ええー」
 片野と沢の声が揃った。こういう場面では息もぴったりだ。
「どうせくっちゃべってるだけだろ。本を読まねえなら、次からはチャージ料取るぞ」
 学校勤めの人間とは思えないガラの悪さだ。
 片野が観念したように両手を挙げた。
「へーい、身体で払いますよ」
「よし、いい子だ。そこのカウンターの上にある本を、全部書架に戻すんだ。手分けすればすぐに終わる。きちんと分類番号を確認しろよ」
「はーい」
 片野と沢がカウンターに向かう。十哉もつられて椅子から立ち上がる。すると、肩にあった重みがするりと離れていった。思わず振り返ると、中原はいつもの人を食ったような笑みを浮かべていた。
「しっかり働けよ」
「……うん」
 中原の手の感触に名残惜しさを感じつつも、十哉は本を取りにカウンターへ向かった。とりあえず五冊ほど抱えると、本に貼ってあるラベルの番号と同じ番号の棚を探し始めた。





第7話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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