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創作BL小説ブログ
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 本を抱え直してその場を立ち去ろうとした中原が、不意に動きを止めた。
「あ、それ読んでるんだ」
 中原の視線が、十哉の手元に留まっている。
 十哉が手にしているのは、中原が薦める国内の作家の短編集だ。幻想文学ともミステリー小説ともつかない、独特の世界観を持つこの作家を、それまで十哉は知らなかった。
「これ、おもしろいよ。なんていうか……独特だよな、文体とか言葉の選び方とかが」
「この前、沢に安吾を薦めてたから、きっとこの作家も気に入るだろうと思ってたよ」
 十哉はちょっぴり感心したように中原を見上げた。
「あの会話だけでおれの好みがわかるもんなのか?」
「これでも一応プロですから、レファレンスくらい的確にできないとね。それに、ここで読むのにぴったりだろ?」
 たしかに、自分の部屋で読むより、図書室で読んだほうが雰囲気が出る。逆に言えば、それくらいここは浮世離れした空間だということだ。
「前から気になってたんだけど、この図書室の造りって学園長の趣味とか?」
 中原は高い天井を見上げた。
「いや、俺もこの春赴任したばかりだから詳しいことは知らないけど、元々この本館は学園ができる前からここにあった建物らしい」
 中原の話によると、この土地は昔、大物政治家の屋敷があったところで、ここを買い取った学園長がこの建物を痛く気に入り、母屋の一部を残したまま増改築してこの学園を創設したのだという。
「その政治家は本の蒐集家としても有名で、この部屋は彼の書斎というわけだ。本が日光で焼けないように、わざわざ北側に書斎を造ったあたりに、彼の本に対する愛情を感じるね」
「北側とかいう以前の問題だよ。普通、本のためにこんなに広い部屋を造るか?」
「まあ、金持ちのやることだからな。ちなみに本館には茶室も残ってるんだよ。学園長も酔狂な人だよな」
「へー、それは初耳」
 中原は悪戯っぽい顔を近づけて、声を潜めた。
「そこは出るっていう話だぜ」
 そのとき、ギーィと扉が鳴った。姿を見せたのは沢だった。
「なんの話してるの?」
 古語辞典を手に近づいてくる。たった今、中原から聞いた話をしてやろうと十哉が口を開きかけたとき、中原がそれを遮った。
「内緒だよ」
 その態度に奇妙な違和感を覚えつつも、沢のお化け嫌いを案じてのことかもしれないと解釈した十哉は、中原に調子を合わせることにした。
「そう、おれと中原さんだけの秘密」
「なんでだよう。教えてくれたっていいじゃん」
 頬をぷくっと膨らませる沢を見て、中原が磊落に笑った。
「やっぱりかわいいな。ハムスターみたいだ」
 たしかに沢を見ていると小動物を思い出すが、それを自分以外の人間に指摘されるとおもしろくなかった。
 鞄の中身を全部出して、几帳面に入れ直す沢を眺めながら、十哉は中原にだけ聞こえるよう小声で牽制する。
「いくらかわいくても、あんたにはやらないよ」
「結構だよ。俺はネズミよりも猫のほうが好きなんだ」
 かすかに笑いを含んだその口調で、十哉は自分がからかわれていることに気づいた。文句のひとつも言ってやろうと中原を睨み上げると、思いがけず真剣な眼差しとぶつかり、十哉は内心慌てた。
「あ、そう……」
 中原の視線から逃れるように目を逸らしてしまってから、失敗したと思った。わけのわからない敗北感が十哉を襲う。自分が子どもなのが悔しい。
 気まずい空気が流れ出したとき、折りよく新たな客がやってきた。
「よお、おまえらも来てたのか」
 となりのクラスの片野尚仁と吉本雅史だ。
 十哉はほっとしてふたりを迎え入れた。
 彼らも図書室の常連で、顔を合わせるうちに親しくなった。とくに十哉と片野は馬が合った。片野は十哉に輪をかけたペシミストだが、片野と中学時代から一緒だという吉本に言わせると、ただのへそ曲がりの天の邪鬼ということになるらしい。けれど、十哉には片野の考え方や言動が理解できた。十哉にとって片野は、ある意味、沢よりもわかりやすい人間だった。
「相変わらずここはヒマそうだな」
 片野は中原の怠慢をあてこすっているわけではない。十哉にはわかった。
「悪かったね」
 中原のほうでもそれは理解しているらしく、その口ぶりには反省の色がまったく窺えない。
「でもさ、客が少ないからオレたちがこうして占拠できるわけでしょ」
 これは、片野の言葉を真に受けた吉本なりのフォローなのか。
「そうだよ。中原さんが働き者だと、ぼくたちの居心地が悪くなる」
 どうやら沢と吉本も気が合っているようだ。この天然系コンビを、どこまで冗談なのかわからない大真面目な顔で片野が諭す。
「ただでさえ近寄りがたい本館の奥まったところにあるんだから、中原さんがちょっと頑張ったくらいじゃ利用者は増えない。安心して占拠しろ」
「本人を前にして言いたい放題だな」
 さすがに中原も苦笑するしかない。
「結局、俺はどうしたらいいんだ?」
 なにごともなかったかのような顔で、中原が十哉に問いかけてきた。仕方なく十哉も先刻の気まずさを隠して答える。
「今のままでいいんじゃない?」
 中原は満足げな笑みを浮かべながら、大きな手で十哉の猫の毛のように柔らかな髪をくしゃくしゃと掻きまわした。すっかりいつもの中原に戻っていた。
 釈然としない中にも安堵が混じるのを、十哉は感じていた。
「じゃあ、働き者は今までどおりに頑張って働こうかな」
 茶目っ気たっぷりの口調でそう言うと、中原は仕事に戻っていった。
 それから四人は、人気ミステリー小説の映像化の是非について、喧々囂々と論じ始めた。





第5話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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