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  十哉にとって、沢はこの学園でただひとりの友人といってよかった。中学校では趣味の合う友人がおらず、共通の話題を探すのに苦労した。自分が周囲から浮いてしまわないように、細心の注意を払って友人の話に相槌を打っていた。だから、表面上の付き合いはあっても、心から親友とか仲間とか呼べる者はいなかった。そんな学校生活に物足りなさは感じていたが、所詮みんなそんなものかもしれないと、あえて冷めた風を装っていた。
 けれど、この学園に入学して十哉の人生観は劇的に変化した。十哉が求めていたのは、広く浅い付き合いなどではない。たったひとりの人間と深く結びつくことなのだ。それを沢との出会いで見つけた気がした。従兄もここを卒業したのだから、というわけのわからない母親の勧めで、なんとなく受験し、なんとなく入学してしまった私立の男子高校だったが、今は母親に感謝すらしていた。
 入学直後、なかなか学園の空気に馴染めず鬱々としていた十哉に、沢のほうから声をかけてきた。放課後の図書室で初めて言葉を交わしたその瞬間から、ふたりの間に一切壁はなかった。まるで昔からの連れ合いのように気が合った。
 ところが、意外にもふたりの性格は正反対といっていいほど違っていた。沢がオプチミストなら、十哉は完璧なペシミストだ。しかし、だからといってふたりの間に距離が生じることはなかった。それどころか、自分にないものを補い合うように、さらに多くの時間を共有するようになっていった。
 クラスの違うふたりが顔を合わせるのは、たいてい放課後の図書室だ。お薦めの作家を教え合ったり、同時に同じ小説を読んで感想を話し合ったりした。性格が違えば当然読み方や考え方も異なるため、意見が食い違うこともしばしばあったが、そこには必ず新たな発見がある。なににも変えがたい有意義なひとときだ。ふたりは時間が経過するのも忘れて読書談義に花を咲かせた。約束を交わしたわけでもないのに、いつのまにか放課後を図書室で一緒に過ごすのが習慣になっていた。
 他人となにがしかの関係を築くのに、時間の長さは関係ない。大事なのは密度だ。十哉はそれを実感していた。無意味に仲間とつるんでいた中学時代を振り返ればなおさらだった。
「でも鈴鹿峠は遠いよなぁ。もっと近場でいいとこないかなぁ」
 次の春に思いを馳せながら、再び鞄の中をごそごそやっていた沢が、突然「あっ」と声をあげた。
「教室に古語辞典忘れてきちゃった。あれがないと古文の予習ができないじゃん」
 古文の平林は品のよさそうなおばさん先生だが、授業は意外とえげつない。いつもなんの前置きもなく生徒を指名して、教科書の本文を現代語訳させるのだ。ちゃんと訳すことができないと、秘密のノートになにやら書き込みをする。それがなにより恐ろしい。しかも彼女は気まぐれな性格で、毎回誰が指名されるかわからない。だから予習は欠かせないのだ。
「ちょっと取ってくる」
 飛び出していく沢の背中を見送ってから、十哉は読みかけの本を開いた。知らぬ間に司書室から出てきていた中原が、本を抱えてそばを通りかかった。
「彼はかわいいね」
 中原はいつも気軽に十哉に声をかけてくる。
 たしかに沢は見た目も中身もかわいいが、それをわざわざ口にする中原の真意に思いを巡らすこともなく、十哉は素直に応えた。
「だろ?」
 中原はなにか言いたげに十哉を見つめていたが、すぐにいつもの飄々とした表情に戻り、カウンターに本を下ろして凭れた。
「ふうん、仲がいいんだな。中学も一緒だったの?」
「違うよ。あいつは都内だけど、おれは埼玉だから」
「へえ、俺はてっきり同じ中学から来たのかと思った。とても出会ってひと月の仲には見えないよ」
 それがどうした、とでもいうように、十哉は本のページをめくる手を止めない。
「連休中も彼と一緒に遊んでたの?」
「いや、一度も会わなかったよ」
 会わないどころか、電話すらしなかった。
「約束とかしてなかったの?」
 十哉はようやく本から顔を上げ、煩わしそうに長めの前髪を掻きあげた。
「してなかったよ。だったらどうだっていうの?」
 苛立ちのこもった声を、中原はやんわりと笑顔で受け止める。
「べつに。ただ、意外だなと思って。きみらくらいの年代は、なにかと仲間とつるんで遊ぶのが好きだろう?」
「ほかのやつらはどうだか知らないけど、おれは違うよ。いくら仲がいいからって、休みの日までべったりなわけじゃない。そういうのって息が詰まるだろ」
 最後の一言は負け惜しみだった。実際、連休中に一度くらいは沢と遊ぶ機会があるだろうと思っていた。けれど、沢のほうからなにも言ってこなかったので、十哉も切り出しにくくなり、そのまま連休に突入してしまったのだ。せめて声だけでも聞きたかったが、自分から電話をかけるのもなんとなく癪にさわるし、そのうち沢のほうからメールくらいよこすのではないかと考えているうちに、連休は終わってしまった。
 そんなわけで、連休明けの初日は陰鬱な面持ちで登校した十哉だったが、灰色の集団の中に十哉の姿を見つけた沢が仔犬のように駆け寄ってくるのを見て、十哉の心は一気に晴れた。
 こいつの一番の友だちは、おれ以外にいない。
 沢のつれない態度にすっかり萎んでしまった十哉の自信を回復したのもまた、ほかならぬ沢だった。
 だからといって、いちいちそんなことを中原に教える義理はない。
「ふうん、柳田ってクールだね」 
 意味ありげに言うと、中原はこの話題を切り上げた。





第4話につづく


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誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
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【1/15】
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一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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