忍者ブログ
創作BL小説ブログ
ADMIN | WRITE | RESPONSE
■□ [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

図書室はいわば学校の中にあるサービス機関である。ここを訪れる者は、たとえどんな生徒であっても受け入れる。それが司書としての中原の信条らしかった。だからといって、偉ぶったところは微塵もない。常に自然体で、なにがしかの気負いや自意識のようなものは感じさせなかった。それどころか、働く意欲すらまったく感じられないのだが。
 それゆえに十哉は、教師とも親とも違って自分を数字や記号で評価しない大人として、この男に気を許しているところがある。十哉だけでなく、ここの常連は皆そうかもしれない。この年頃の少年は、退屈な日常にそこそこの刺激をもたらし、かつ自分にとって無害な大人を嗅ぎ分ける能力に長けているのだ。
 中原の存在も含め、十哉はこの場所が気に入っていた。
 十哉は閲覧スペースに移動し、いつものカウンターに一番近い窓際の席に座る。
 一見すると、閲覧用の大きな長机も、壁や書架と同じ木でできているように見えるが、よく観察すると、わずかに風合いが異なっているのがわかる。カウンターも同じだ。いくら書架と机の材質が違っていようと、気にする生徒はおそらく十哉ぐらいなものだろう。
 十哉が机の肌を撫でながら考え込んでいると、向かい側に座った沢が鞄から1冊の文庫本を取り出して、十哉の前に差し出した。
「これ読んだよ。ありがとう」
 十哉お気に入りの安吾の本。淡い桜色の表紙に銀色のタイトル文字が箔押しされているその文庫本を手に取り、「どうだった?」と沢に感想を求める。
「うーん、おもしろいというか、怖いというか……間違ってもお花見気分にはならないな。梶井基次郎を読んだときのショックを思い出した」
「あの、桜の樹の下には……ってやつ?」
「そうそう。あれも怖かった」
 十哉は腕組みした。
「まあ、桜ではあれが一番ポピュラーかな。 でも、梶井の前に朔太郎がいるじゃん。朔太郎の桜が梶井に影響を与えたんだろう?」
「桜のしたに人あまたつどひ居ぬ?」
 当然、沢は朔太郎も読んでいるのだろう。打てば響くように返ってくる。それが十哉には気持ちいい。
「ああ。梶井よりも朔太郎の桜観のほうがおれには馴染みやすい」
「十哉は朔太郎贔屓だもんね」
 すでに十哉の好みを把握している沢は、心得顔で相槌を打った。
 気分がのってきた十哉は、さらに話を続ける。
「でもおれ、個人的には派手なソメイヨシノよりも、風情のあるヤマザクラのほうが好きなんだよ。梶井とか朔太郎の桜は、イメージ的にソメイヨシノだろ」
「あ、わかる。梶井は絶対ソメイヨシノだね」
「それに対して、安吾の桜はきっとヤマザクラだ。しかも、若い桜じゃない。老桜だ。満開の老桜が、頭の上で覆いかぶさるように枝を広げてるんだ。花の下は昼間でも薄暗くて、風もないのにゴウゴウ鳴ってて……」
「ぎゃー」
 沢が芝居がかった悲鳴を上げた。
「想像しちゃったよ。梶井や朔太郎とはまた違った怖さだ」
 十哉は頷いた。
「怖いけど無性に惹かれる。おれもいつかあの山賊みたいに、満開の桜の下に座ってみたい」
 その山賊は、満開の桜の下を恐れていた。それでも逃げ出すことはせず、何年も鈴鹿の山に住みついていた。あるとき、街道からひとりの美しい女を攫ってきて、自分の女房にする。その女房は恐ろしく我儘な女で、口車に乗せられた山賊は都に移り住み、女に命じられるままに盗みや殺しを働いた。やがて都の暮らしに飽きた山賊は、女と一緒に山へ帰ろうと決心する。女を背負って満開の桜の下に差しかかったとき、女は恐ろしい鬼の姿へと変身した。山賊は咄嗟に鬼女を振り落とし、首を絞めて殺してしまう。我に返った山賊は、女の屍を抱いて泣いた。いつまでも満開の桜の下に座っていた。そして、いつしか女の屍も山賊も、降り積もる桜の花びらの中へと消えてゆく。あとには冷たい空虚があるばかり。
 このとき山賊が見ていた景色、感じていた空虚を、十哉は常々知りたいと思っていた。良くも悪くも、十哉はそのときに読んだ小説の世界観に入れ込む性質だった。
 けれど、沢はそういうタイプの小説読みではない。まるで給食に苦手なピーマンが入っていたときの小学生のように眉を顰める。
「えー、十哉はそんなことしたいの? 鬼女が出るかもよ」
「望むところだ」
 逆に楽しんでいる様子の十哉を見て、元来好奇心旺盛な沢は簡単に気分を変える。
「よし、だったらぼくも一緒に行く」
 十哉はちょっぴり驚いた。
「本当か? お前はお化けが怖いんだろ?」
 からかわれていると思ったらしく、沢は唇を尖らせた。ますます子どもっぽい印象になる。
「これ、お化けじゃなくて鬼女だし」
「鬼女のほうがよっぽど怖いと思うけど」
 十哉の半畳を聞き流して、沢は力強く断言する。
「それに十哉と一緒ならどこだって怖くないよ」
 その台詞は十哉の庇護欲をくすぐった。もしも弟がいたらこんな感じかもしれない、とひとりっ子の十哉は想像する。
「なら一緒に行くか? でも、今年の桜はもう終わっちゃったし」
 間髪入れずに沢が提案する。
「だったら来年行こう。約束な」
「憶えてたらな」
「ぼくが忘れないよ」
 その返事に満足して、十哉は沢に微笑みかけた。





第3話につづく


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
     
ランキングに参加しています。
お気に召しましたらポチッとお願いします。
1日1回のみカウントされます。
PR
■□ COMMENT
HN:
TITLE:
COLOR:
MAIL:
URL:  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT:
PASS:
■□ TRACKBACK
トラックバックURL:


■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

■□ COMMENTS
▼コメントありがとうございました!
[05/27 朔田]
[05/21 ままたみ]
[05/12 朔田]
[05/11 須和]
[05/11 ままたみ]
[05/10 須和]
[05/10 東風]
■□ PROFILE
管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
■□ RANKING
▼ランキングに参加しています。お気に召しましたらポチッとしていただけると大変励みになります。    ※こちらは別窓が開きます。
にほんブログ村小説ブログBL小説ランキング    カテゴリ別オンライン小説ランキング

にほんブログ村トラコミュ[メガネくん萌え]
▲管理人をしています。メガネくん好きの方はぜひご参加ください♪
■□ SEARCH
忍者ブログ [PR]