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 冷房を切り、十哉は窓を開けて夜気を吸い込んだ。夜なのに蝉が鳴いている。
「なにしてた?」
 一週間ぶりに聞くと、やっぱり中原はいい声をしているな、と実感する。
「原稿を書いてた。昼間はバイトとかで忙しいから。でも、もう切り上げて寝るよ」
 ベッドに入る前に少しでもと思い、自室で原稿用紙に向かっていた。中原に頼まれた本のレビューを書くためだ。
 夏休み前に開かれた図書委員会の会議で、図書室だよりの中でお薦めの本を二十冊紹介することになっていたらしく、そのうちの五本を十哉が担当することになった。取り上げる本の選定は、基本的には各自に一任されており、十哉は以前に中原から薦められた作家の短編集と、純文学と海外翻訳ものをそれぞれ二本ずつ選んだ。
 ブックレビューといっても、堅苦しく考えずに、その作品のおもしろさを紹介する程度でかまわないと中原は言っていた。とはいえ、自分の考えを文章にまとめる作業はけっこう難しい。どういう言葉で、どういう流れで書いていけば、読み手に自分の言いたいことを正確に伝えることができるか、こだわり出したら既定の文字数では全然足りない。そこをうまくまとめるのがひと苦労だった。
 けれど、十哉はそれを楽しんでいた。かつてないくらい充実していた。
 夏休みの前半、十哉は本を読んではレビューを書き、時折、中原に添削してもらうために登校した。そのうちに、文章を書くにも、中原に原稿をチェックしてもらうにも、パソコンがあれば便利だということに気づき、途中からはアルバイトにも精を出した。
 時々、沢のことを思い出して胸が苦しくなったが、以前のように自分を見失うことはなくなっていた。これもすべて中原おかげだ。そう思うと、十哉は離れていてもいつも中原を近くに感じることができた。
「なんのバイトしてるの?」
「引越し」
「ええっ」
 中原が驚きの声をあげた。
「十哉に肉体労働ができるのか?」
 笑いを含んだ声に、十哉は過剰反応する。
「できてるんだよっ。おれをなんだと思ってるんだ」
「暑さに弱いインドア高校生」
 十哉はがっくりと肩を落とした。
「……まあね、たしかにキツイよ。ぶっ倒れそうだよ。でも、くたくたになるくらい疲れるのって、案外気持ちのいいもんなんだよな」
「とーやー、お願いだからマッチョにはならないでくれよー」
「あはは、マッチョなおれは嫌い?」
「いや、どんな十哉でも好きだけどね」
 その言葉に、十哉の心臓が跳ね上がった。特別な意味ではないとわかっていても、頬が熱くなってくる。
「じゃあ、バイト頑張れよ。おやすみ」
「おやすみ」
 電話を切って、十哉はベッドに仰向けに寝転んだ。他愛のない会話がくすぐったい。なんだか身体が軽くなって、今にもふわふわと浮き上がりそうな気分だった。
「そうだ。明日は昼であがりだから、午後から図書室に顔を出してみよう」
 心地よい浮遊感の中、十哉は眠りについた。
 
 
 翌朝、いつもより目覚めがよかった。朝食をしっかりとって、自転車でバイト先に向かう。そこは地元で営業している小規模の引越し会社で、ほとんど家族経営みたいなものだった。仕事はきつかったが、みんな気のいい人ばかりで、十哉には働きやすかった。
 今日の仕事は、隣町のアパートに住む若夫婦の依頼で、引越し先は同じ市内に購入した新築の一戸建てである。新築というのは気を遣うが、移動距離が短く比較的楽な仕事だった。先輩格の杉浦の的確な指示で段取りよく進み、仕事は予定の時刻よりも早く終わった。
「柳田は今日はこれであがりだろ?」
 杉浦がトラックのハンドルを握りながら話しかけてくる。
「はい、そうです」
「まだちょっと早いけど、戻ったら一緒に昼飯でも食いに行くか?」
 そのとき、作業用ズボンのポケットの中で着メロが鳴った。ディスプレイ画面には中原の文字。すいません、と杉浦に断りを入れてから電話に出る。
「もしもし」
「十哉、今どこだ?」
 いつもと違う中原の声。ひどく焦っているようだ。
「今? 仕事が片付いて、これから会社に戻るところ。どうかしたの?」
「だったら急いでこっちに来い。今、沢が職員室に来ている。あいつ、転校するんだ」
「えっ?」
 一瞬、世界が無音になる。あまりのことに現実味が感じられない。
「嘘だろ?」
「嘘なんかじゃない。両親が離婚して、高知に行くことになったんだ。俺が沢を図書室に引き止めておくから、おまえは早くこっちに向かえ」
「そんな……急に言われても……」
「いいか、よく聞け。今日を逃したら、今度はいつ会えるかわからないんだぞ。おまえはそれでもいいのか?」
「やだ……いやだっ」
 十哉は電話を通話状態にしたまま、杉浦に頭を下げた。
「杉浦さん、駅に向かって。お願いします。駅でおれを降ろしてください」
 定期券は通学鞄のポケットの中だが、幸い財布は持っていた。
 杉浦は理由も訊かずにハンドルを切った。
「了解。緊急事態なんだろう? 社長には直帰だって言っておくよ」
「ありがとうございます」
 再び電話の向こう側に呼びかける。
「中原さん、絶対に沢を引き止めておいて」
「わかった」
 通話を切ると、十哉は携帯電話を握りしめて祈った。
 待っててくれ、沢。





最終話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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