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 夏休みに突入して三日目の夜、携帯電話は十哉が自室のベッドで本を読んでいるときに鳴った。慌てて画面を見ると、相手は片野だった。そこで十哉は、自分には中原と連絡をとる手段がないことに思い至った。
 片野はいつも、簡明直截に用件から入る。
「明日ヒマか? ちょっと出てこれない?」
「いいけど、どこへ?」
「学校の図書室」
 十哉は返事につまった。図書室に出向くということは、中原と顔を合わせるということだ。迷った末、とりあえず理由を訊いてみることにした。
「さっき中原から電話があって、本のレビューを書ける生徒を探してるんだってさ」
 図書委員会では、秋の読書週間合わせで図書室だよりを発行する予定なのだが、委員の中にちゃんとした文章を書ける者が少なく、片野のところに話がまわってきたのだという。
「学校が始まると忙しくなるから、夏休みの間に原稿を書かせたいらしい」
 そんなことより、なぜ中原が片野の連絡先を知っているのかが気になった。ふたりには普段から個人的なやり取りがあるのだろうか。自分よりも、片野のほうが中原と親しいのだろうか。そんな疑念が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
「柳田はそういうの得意だろ? 吉本はだめだし、沢はつかまらないし」
 そうだ。沢は今、高知にいる。
「中原がちゃんと礼はするってよ」
「……わかった。行くよ」
 礼に釣られたわけではない。中原が片野を呼んだのだと思ったら、黙って見ていることなどできなかった。
「明日、十時に図書室集合だ」
 そう言って片野は電話を切った。
 十哉はあの日、ぎくしゃくしたまま中原と別れてしまったことを後悔していた。中原にキスされたことは驚いたが、いやではなかった。むしろ、自分が中原にとって特別な人間のような気がしてうれしかった。
 なのに中原は忘れろと言った。しかも、十哉は携帯番号を訊かれたことすらないのに、片野とはこうして連絡をとっている。
 十哉はベッドに倒れ込み、中原が言った言葉の意味を考えた。
 中原はあのキスを後悔しているのだ。なかったことにしたいのだ。
 そう考えただけで、まるで自分自身を否定されたような気がして、泣き出したい気持ちになってくる。張り裂けそうな胸の痛みを、十哉はぎゅっと抱きしめた。
 
 
 断続的に浅い眠りを繰り返すうちに、いつのまにか窓の外が明るくなっていた。明けない夜などないんだな、などと感傷に浸りながら、再びベッドの中でうとうとする。
 次に目を覚ましたとき、両親はとうに出勤したあとで、家の中はがらんとしていた。テーブルの上に朝食が用意してあったが、食欲がないのでヨーグルトだけで済ませて家を出る。自転車で駅に向かい、私鉄から営団地下鉄を乗り継いで、さらにJRに乗り換える。その間、十哉はずっと中原のことを考えていた。
 会ったら最初になんと言えばいいのだろうか。普通に話せるだろうか。拒絶されたりしないだろうか。
 考えれば考えるほど自信がなくなっていく。大きなため息を吐き出すと、となりに座っている客がびくりとした。なんとなく気まずくなって、十哉は車内吊りの広告を見渡した。ふと、美しい海の写真を使った旅行会社の広告が目に入った。
「あ……」
 唐突に沢のことを思い出した。それと同時に、鈍器で頭を殴られたようなショックを受ける。
 あの日以来、十哉は一度も沢のことを思い出していなかった。
 あんなに思いつめていたにもかかわらず、今は中原のことで頭がいっぱいなのだ。場当たり的な己の思考が、十哉を自己嫌悪に陥らせる。
 おれにとっての一番は誰なのか。
 十哉の中に、一番の椅子はひとつしかない。そこには沢がいる。ならば中原は沢の次なのかというと、そうとは言い切れないものが十哉の気持ちの中にはあった。沢と中原を同列で考えることは難しい。十哉にとって、沢は最も大切にしたい人間だ。それに対して中原は、今や言葉ひとつで十哉を幸せにも不幸にもできる存在となっている。単純に順位づけできるものではない。
 それなのに、今更おれを放り出すというのか。
 中原に対する理不尽な怒りが、十哉の足を速めた。余裕を持って家を出たせいもあり、約束の時間より十五分ほど早く学園に到着した十哉は、図書室の前で深呼吸し、重い扉を押し開けた。
 まだ誰も来ていない。十哉は中原の姿を探して、司書室の扉の覗き窓から中を窺う。そのとき、背後で扉の開く音がした。
「早いね。もう来てたのか」
 普段と変わらない中原の声。
 中原は本当に何事もなかったことにしようとしているのだ。
 そう思うと、十哉に心臓に鋭い痛みが走った。
 扉を閉めて、中原が司書室に近づいてくる。
「片野から聞いたよ。協力してくれるんだって? せっかくの休みなのにすまないね。片野が来たら説明するから、適当に待っててくれる?」
 十哉は中原の行く手を遮るように、司書室の前に立ちはだかった。
「その前に、中原さんに話があるんだ」
 中原は一瞬だけ驚いた顔を見せ、それから小さくため息をついた。
「聞きましょう」
 尻上がりのおどけた調子でそう言うと、中原は腕組みをしてカウンターに凭れた。
 話があると言ったものの、十哉はなにをどう切り出したらいいのかわからなかった。中原は黙って待っている。早くなにか言わなければという焦りから、自分でも予期していなかった言葉が口を衝いた。
「おれは……中原さんが好きなんだ」
 次の瞬間、自分がなにを口走ってしまったのかを理解する。耳のあたりがかっと熱くなった。中原の顔をまともに見ることができなくて、自分の爪先に視線を落す。握り込んだ掌に汗が滲む。沈黙が痛い。
 なんとか言えよ。
 十哉は心の中で中原に懇願した。
 けれど、中原の口から発せられた言葉は、十哉の心を凍りつかせた。
「おまえはさ、俺にならなにを言っても大丈夫だと思って甘えてるだけなんだよ」
 十哉の顔から血の気が引いていく。
「そういうことは、俺じゃなくて沢にぶつけろよ。そりゃあ、おまえに勘違いさせるようなことをした俺にも非はあるよ。すまないと思ってる。けど、おまえが今言ったことは思い違いだよ」
 いつもの中原ではない。ちっともやさしくなかった。十哉は怒りと屈辱に唇を噛んだ。
「大丈夫、すぐに忘れるさ」
 それは慰めではなく、別れの言葉に似て無情に響いた。
「やだよ……。だったら、なんでキスなんかしたんだよっ」
 先程の怒りが再燃し、身体が熱くなる。しかし、中原の声は冷然としていた。
「もう忘れろよ、柳田」
 十哉の肩がぴくりと揺れる。
 中原が十哉を下の名前で呼ばない。
 ただそれだけのことが、なぜこんなにも悔しく、悲しいのか。
 十哉はその場にしゃがみ込んでしまいそうな膝に力を込める。
「なんで名字で呼ぶんだよ。なんであのときみたいに十哉って呼ばないんだよ。そんなにおれが迷惑? おれがあんたに甘えるだけで、バカだから……だから嫌いになったの?」
 自分で言いながら、どんどん悲しくなっていく。堪えきれなくなった涙がはらはらと零れた。





第11話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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