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 日増しに力強くなる5月の陽射しが、アスファルトの中庭に溢れる放課後の喧騒に降り注ぐ。校門脇に植えられた桜の葉の柔らかな緑が、光に透けてきらきらと輝き、学園の無機質な景観に潤いを与えている。
「ねえ、待ってよ」
 帰宅する生徒と部活動に向かう生徒でごった返す中庭を突き進む十哉(とおや)の背中に、情けない声が追い縋る。 
 十哉は立ち止まって沢を振り返った。校舎の窓硝子に反射する午後の光に目を眇めつつ、呆れたように微笑む。
「おまえ、人ごみの中を歩くの下手だな」
 沢が隣に並ぶのを待って、十哉は再び歩き出した。
 都内にありながら自然の光を享受できるのは、この一帯が高級住宅地だからだ。年々厳しくなっていく建物の高さ制限のため、増改築を重ねた校舎は、階段のように段々と上から押し潰されていった。おかげで、南側が開いたコの字型をしている校舎の、東側に建つ一番新しいC棟の三階から、間のB棟を抜けて北西の角に建つ一番古い本館に入ると、なぜかそこは二階という不思議な構造になっている。そこから西側のA棟へ行くとなるとさらに複雑だ。手っ取り早く一階に下りて中庭を突っ切るほうが簡単なので、雨が降らないかぎり、大抵の生徒は中庭を行き来している。
 ちなみに、三方を校舎に囲まれているから中庭と呼んでいるだけで、このほかに外庭(グラウンド)があるわけではない。体育の授業はこの中庭か、道路を挟んで斜向かいに建つ体育館で行うことになる。
 まだ校舎の構造を完全に把握しきれていない新入生の柳田十哉と沢智之は、一年生の教室が入っているC棟から中庭を斜めに突っ切って本館へ向かっていた。
「ねえねえ」
 沢はあたりを気にしながら、十哉にぴたりと身を寄せて耳打ちした。
「なんか本館ってさ、近寄りがたい雰囲気があるよね」
 まるで悪戯が露見するのを恐れる子どものようなしぐさに、十哉は湧き上がる笑いを噛み殺した。
「ああ、そうかもな。でも、おれは嫌いじゃないよ」
「えっ、そうなの? でも、なんか出そうじゃない?」
「なんかって?」
「そりゃあ、お化けとか……」
 お化けが出てもおかしくない古さだ。数年のうちに校舎をすべて建て替えるという噂も聞かれるが、十哉としてはこの本館を壊してしまうのは惜しい気がしていた。
 本館の内部は、ほかの棟とかなり趣きが異なり、重厚感溢れる造りになっている。廊下にはボルドー色の絨毯が敷き詰められ、古めかしい木製の扉が並んでいる。階段の明り取りの窓は彩りの美しいステンドグラスになっていて、天井から吊るされたランプも一見してかなりの年代物とわかる。校舎というより、お屋敷と呼ぶほうが相応しい。
 二階にある図書室の観音開きの大きな扉には、アールヌーボー調の彫刻が施されている。侵入者を拒んでいるかのような重い扉を開けると、誰もがまず最初にその天井の高さに驚く。とくに天井の低いC棟からやってくると、同じ学園の中にある空間とは思えない。壁はすべて木目の美しい無垢板で、深い飴色がそこに流れた時間の長さを物語っている。
 北側の壁一面には天井まで届く細長い窓が等間隔に並び、壁と同じ木材の格子が嵌められている。北窓だから、直射日光は差し込まない。部屋の南側には、今でいうロフトのような中二階があり、その上と下には書架が何列も並んでいる。二階部分の手摺も壁や書架と同じ木材でできており、そこから緩やかな曲線を描いて下りてくる階段の手摺にも、手の込んだ彫刻が施されていた。
 十哉はここへ来るたび思う。一体、誰の趣味でこんな部屋を造ったのだろうか、と。
「いらっしゃい。今日もお揃いだね」
 少し掠れたような心地よい声が頭上から降ってきた。顔を見なくてもわかる。この城の主だ。
「ぼくたち一番乗り?」
 沢が上機嫌に訊ねる。
「そうだよ」
 司書の中原佳人が、両手に本を抱えながら階段を下りてきた。
 司書というからには、いかにも気弱そうな眼鏡の文学青年をイメージしていた十哉は、初対面の日、それがただの思い込みであったことを知った。
 中原は眼鏡こそかけているものの、気弱な文学青年とはほど遠い、世慣れた感じの二枚目だった。一応スーツを着て出勤しているようだが、図書室に入るなり上着を脱ぎ捨て、ネクタイをはずして襟元を緩める。品が悪くならない程度に明るく染めた髪を掻きあげるしぐさはどことなく投げやりで、およそ学校という場には不釣合いな人間に見えた。
 もっとも、十哉も他人のことは言えない。胸に学園のエンブレムの入った、いかにもお坊ちゃん私立校らしいブレザーの制服も、十哉の無愛想で自棄的な雰囲気を覆い隠すことはできない。生意気そうな暗褐色の瞳には、思春期らしい危うさと、大人のような倦怠感が混在している。図書室で本を読むより、悪い遊びのほうが似合いそうな少年だった。
「ごゆっくり」
 あながち営業用とも思えない笑みを残し、中原は受付カウンター奥の司書室に消えていった。





第2話につづく


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春の花行きます
素敵な書き出しですね。
特に本館のムードが読み手を盛り上げます。
全部読んだら感想コメします。
adocyan 2009/01/05 06:26 *edit
わあ!
ありがとうございます!
それにしてもadocyanさんは毎日どれくらいの量を読んでるのでしょうか?
大変だったら無理しなくていいですからね。義務じゃないんですから。
でも、読んでいただけるのはすごくうれしいです。
朔田圭子 2009/01/05 14:53
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誠に勝手ながら当ブログを
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【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
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慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
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