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 駅前で杉浦に礼を言ってトラックを降りた。切符を買うため硬貨投入口に小銭を入れようとするが、焦ってしまって手元が定まらない。改札を抜けて階段を駆け上がる最中、上り線ホームのベルが鳴った。ぎりぎりで電車に飛び乗る。ほっとしてあたりを見まわすと、こちらを見ていた乗客が慌てて視線を逸らした。埃と汗で汚れたTシャツに濃紺の作業ズボンという出で立ちは、車内では完全に浮いていたが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。
 沢の両親が離婚した。高知に行くということは、沢は母親についていくということだ。この夏休みの間も、高知で暮らすための準備や転校の手続きなどをしていたに違いない。
 身近な人間にも一切知らせずに。
 十哉は唇を噛んだ。悔しかった。裏切られた気分だった。
 なんでなにも言ってくれなかったのだろうか。沢にとって、自分はその程度の人間だったのか。ここで出会った友人やここでの生活は、沢にはなんの価値もないものなのか。
 恨みがましい疑念が十哉を支配する。電車に揺られる時間が、永遠のように長かった。
 駅の改札を出ると、十哉は全力で走った。夏期講習か部活動の帰りと思われる生徒たちの流れに逆らって走った。十哉は制服を着ていなかったが、かまわず校門をくぐってスニーカーのまま本館に駆け込む。階段を二段飛ばしに駆け上がり、その勢いのまま図書室の扉を押し開けた。
 窓際に見慣れた後ろ姿があった。彼がゆっくりと振り返った。
 十哉は肩で荒い呼吸を繰り返しながら、沢の前までゆっくりと歩を進める。逆光気味でよくわからなかった沢の表情が、はっきりと見えてくる。
 十哉は息を呑んだ。そこにいつもの明るい笑顔はなかった。今まで見せたことのない寂しげな瞳が、弱々しく微笑んでいる。
 そんな顔を見せられたら、十哉にはもうなにも言えない。一番辛いのは、沢本人なのだ。
 それなのに、自分のことしか考えずに、勝手に裏切られたと思い込んで傷ついていた自分が、馬鹿みたいで恥ずかしくなった。
「黙っててごめん。本当はもっと早く話すべきだったんだろうけど、十哉たちと一緒にいるのが楽しくて……そんな時間を壊したくなくて、言えなかった……」
 沢はいつでも、己の苦しみや悲しみを押し隠して笑っていたのだ。なのに、一番近くにいた十哉が、なにも理解していなかった。沢が一番だと言いながら、少しも大事にしてやれなかった。
 自分は一体、沢のなにを見てきたのだろう。
 十哉は深い悔恨の念にとらわれた。
「明日の朝、発つんだ。みんなにはこのまま会わないで行くよ。向こうに着いてから連絡するから」
 頷くことさえできず、十哉はただ立ち尽くすばかりだった。
「でも、十哉には会えてよかった。ぼくには十哉が一番の親友だったから……」
 一番の親友。
 その響きが、十哉の胸をきりきりと締めつける。
「遠く離れても、ずっと親友でいてくれるよね?」
 次の瞬間、十哉は衝動的に沢の身体を掻き抱いた。沢の耳元で苦しげに囁く。
「おまえを親友だと思ったことは、一度もない」
 沢の背中にまわした腕に力を込めると、その身体の子どものような熱さに、それまで抱いていたわだかまりが氷解していった。
 ただ、愛しさだけが募っていく。
 十哉の言葉をどう受け止めたのか、沢の腕がそっと十哉の背中にまわされた。
「桜……一緒に見に行けなくてごめんね」
 そう言うと、沢は十哉の腕を解いて一歩さがった。瞳に薄っすらと涙を浮かべながら、けれどいつもと同じ晴れやかな笑顔で別れを告げる。
「元気でね」
 十哉は気の利いた言葉はなにひとつ言えなかった。伝えたいことはたくさんあるのに、うまい言葉が見つからない。
 無言で首をたれる十哉の脇をすり抜け、沢は図書室を出ていった。
 扉が閉まる音。
 あとに残ったのは空虚な静寂。
 まるでこの世に自分ひとりしか存在していないかのような、怖いくらいの孤独。
 十哉はふと思い出した。
 鈴鹿の山賊が満開の桜の下で感じた恐怖は、これだったのかもしれない。
 だとすればあの満開の桜は、遠い山の中ではなく、人の心の中にこそ存在するのだろう。山賊は自分自身の孤独と向き合い、そして孤独に呑み込まれて消えたのだ。
 それまで司書室から成り行きを見守っていた中原が、立ち尽くす十哉の背後に歩み寄る。
「十哉……」
 その瞬間、郷愁にも似た感情が十哉の心に湧き上がる。
 おれは孤独なんかじゃない。
 中原の声に引き寄せられるように、ゆっくりと身体を反転させた。俯いたまま、ためらいがちに中原の胸に額をつけると、やさしい腕がそっと十哉を抱き寄せた。
 冷たくなっていた心臓に血が通うような、泣きたくなるような温かさが十哉を包み込む。
 この温もりがある限り、十哉が山賊のようになることはない。十哉は沢を失ったが、沢だけが十哉のすべてではないのだ。中原を始め、いろんな人や物事が十哉を創り、支えている。
 だからもう、なにも怖がる必要はない。自分の本音から目を逸らすことも、偽ることもなく、ありのままを受け入れることができる。
 十哉は中原の胸に頬を寄せて小さく呟いた。中原ではなく、自分自身に届くように。
「やっとわかった。おれ……沢が好きだったんだ」
 友情ではなく、恋だった。
 そう考えると、十哉は自分の中で起こっていたさまざまなことが、すべて納得できるような気がした。
 おれは沢を好きだった。
 これが十哉の真実。
 はじまりも終わりもなく、ただそこに存在していただけの、気づいたときには通り過ぎていた恋。
 不思議と悲しくはなかった。
 むしろこの自覚が、見えない呪縛から十哉を解放した。友だちという名の鋳型に無理やり押し込められていた心が自由になる。
 同時に、自分を包み込んでくれるこの腕があることの幸福を、十哉は知った。
 ああ、そうか。おれはこの人のことが……。
 最初はただの相談相手だった。卒業してしまえば、恥ずかしい思い出と一緒に過去の人となるはずだった。
 それなのに、いつのまにか中原は十哉の心の内に深く入り込んでいた。沢が一番だと思う心とは別の部分で、これからもずっと中原と繋がっていたいと望むようになっていた。
 沢に対するような狂おしさはないものの、中原と一緒にいるときの穏やかで充実した時間は十哉を幸せにした。沢の転校はショックだが、中原が自分を遠ざけようとしたときに感じたほどの喪失感はない。
 あれほど思い悩んでいたのに、と思わないこともないが、十哉は自分の感じたものを素直に受け入れようと思った。今度こそ自分の気持ちを間違えて、うっかり通り過ぎることのないように。
 もちろん、今ここで告白したところで、おそらく中原には信じてもらえないだろう。
 でもいつか、この想いを伝えられる日がくればいいと願う。
 中原の匂いを胸いっぱいに吸い込んでから、十哉は顔を上げた。
「次の春が来たら、おれを満開の桜の森へ連れて行ってよ」
 中原は十哉の腰に腕をまわしたまま、一瞬悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うと、ことさら慇懃に答えた。
「仰せのままに」





END


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誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
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一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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