図書室に戻ると、なぜかカウンターの中に上嶋がいた。片野やほかの生徒たちはみな帰ったようだ。
中原は大きなため息をつき、上嶋の後ろを素通りしてまっすぐ司書室へ向かう。 すると上嶋もあとからついてきた。 「なんでおまえがここにいるんだよ」
「キミは当分帰ってこないだろうと思ったから、店番しててやったのよん。……っていうか、ずいぶん早かったな。あの子とうまくいかなかったのか?」
机に腰掛けるように凭れる上嶋の隣で、中原は自分の椅子にどかっと腰を下ろした。
「うまくいくもいかないも、俺とあいつはそんなんじゃないよ」
「嘘つけ。さっき、ものすごい形相で飛び込んできたくせに」
中原はポケットから煙草を取り出して1本咥えた。
「あいつには好きなやつがいるんだ。夏休みの間に転校していった沢って生徒のことを今でも想ってる……。さっきちょうどその沢からあいつに電話が入ったんだ」
ライターで火をつけようとしたが、乾いた摩擦音を繰り返すだけでなかなか点火しない。
それを見ていた上嶋が、自分のライターを中原の顔の前に差し出した。 カチッと火が点り、中原はなにも言わずに煙草の先を火に近づけた。
「バッドタイミング。それでのこのこ帰ってきたのか。おまえらしくないな」
中原は肺いっぱいにニコチンを吸い込んでから、2度目のため息とともに吐き出す。
「考えてもみろよ。俺は27、あいつは16。ほぼひとまわり違うんだぞ」
上嶋が鼻で笑った。
「はっ、それがどうした」
「若すぎる。あいつはまだこれからたくさん恋をするだろう。今は沢に夢中でも、次は女の子を好きになるかもしれない。今あいつをこっちの道に引きずり込んじゃいけないんだ。それに……俺だって女としか付き合ったことはないんだ。この先どうなるかなんてわからない」
「本音はそこだろ」
上嶋の非難めいた瞳が中原を見下ろす。
「おまえはこの恋愛に、あいつの将来に責任を負うのが怖いんだ。その沢っていう生徒に勝ちを譲るふりをして逃げようとしてるんだ」
なにも言い返せなかった。同じ歳の上嶋に柳田を奪われると思ったら我慢できなかったくせに、柳田と同じ16歳の沢に対抗するほどの熱はない。柳田の気持ちを尊重するふりをして、自分は楽な道を選ぼうとしている。
これだから大人は……。
中原は弱々しく自分を笑った。
「おまえの言うとおりだよ。俺は十哉がかわいい。好きだと思う。でも、楽な生き方を知っているだけに、あえてリスクの多い恋愛に突っ走る勇気も情熱もないんだ」
「でも、もしあの子もおまえのことが好きだとしたら?」
そんな架空の話、考えるだけ無駄だ。中原は皮肉を込めて笑い飛ばす。
「はは、勇気100倍だね」
それから沈痛な面持ちで静かに呟いた。
「もういいさ。最初から俺向きの恋愛じゃなかったんだ」
これまで何人かと付き合ってきたけど、障害らしい障害のある恋愛なんてしたことがなかった。互いに気が合えば付き合う。合わなくなれば別れる。若い頃ならともかく、今は見込みのない恋愛に執着し、余計な努力をしてまで維持しようとは思わない。
終わっていったかつての恋愛を思い返しながら煙草をふかしていると、上嶋がいつもと同じ軽い調子で言った。
「こんなおまえ、初めて見るな。俺でよければ慰めてやろうか?」
「え……」
中原は上嶋を見上げた。 「べつに俺はどっちでもいいよ」
「どっちでもって?」
上嶋はにっこりと微笑んだ。
「抱くほうでも抱かれるほうでもいいってこと」
「はあ!?」
咥えていた煙草を落としそうになり、慌てて指で摘まむ。
「いや、おまえとはどっちもあり得ないから」
「そんなこと言わずにいっぺん試してみろよ。ほら」
上嶋は中原のシャツの胸元を掴み、身を屈めて顔を近づけてくる。
「お、おい、冗談はよせよ」
「大丈夫だよ。俺、病気は持ってないし」
さらに接近してくる上嶋の思いがけず真面目な表情に、中原はようやく身の危険を感じた。
「や、」
やめろと突き放そうとしたそのとき、
バタンッ。
司書室のドアが大きな音を立てて開いた。 そこに立っていたのは柳田だった。
「上嶋っ、中原さんから離れろよっ」
上嶋は憮然とした顔で柳田を見返した。
「なんで中原は“さん”付けで、教師の俺は呼び捨てなんだ」
「うるさい。あんた邪魔。どっか行けよ」
番犬よろしく吠えたてる柳田と、呆気にとられて固まっている中原を交互に見やり、上嶋はひょいと肩をすくめた。
「あ~あ、バカらしい。やってらんないね」
そう言うと、上嶋は中原の手から吸いざしの煙草を取り上げて咥えた。そのまま中原に背を向けて部屋から出ていく。
去り際にひと言だけ残して。
「佳人、ウダウダ言ってないでそろそろ腹くくれよ」 目次へ/[4]へ/[6]へ 上嶋がいないと話が進展しないダメダメな中原…。 ここでちょほいとお知らせです。 リンク集に新たなサイトさまをお迎えしました! 覗いてみてちょ♪ ![]() ↑現在ランキングには参加してませんが、ポチッとしていただけると励みになります。 ↑内緒コメにもどうぞ♪ PR ■□ COMMENT
■ 無題
16だもんね。ちょっと待ったれや~ていう。。でも若者は
性急。中原さん困っちゃう~。きゃ~。奪われそうな勢いですね! わー同盟がいっぱいだ!片目は惹かれます! そして本棚は自転車だらけ(笑)そろそろ私のママチャリは限界です! 美麗絵のサイト様だっ!すごいっす ![]() □ わんばんこ!
>中原さん困っちゃう~。きゃ~。奪われそうな勢いですね!
↑16歳に奪われる27歳…嫌いじゃなくってよ(笑)。 それにしても中原はどんどんダメ男になっていくな~。 おっかし~な~。好きだけど。 >わー同盟がいっぱいだ!片目は惹かれます! ↑ね! 片目いいよね! 島村ジョー、ハーロック、葉村宗明、伊達征士、 リナルド、サンジ、カカシ、ヴィラル…眼鏡と並ぶくらい好きだわ♪ もしかしたら…というか、もしかしなくても私メガネくん歴より 片目くん歴のほうが長いかも~。ちなみに三白眼も好きなのよ~~。 >そして本棚は自転車だらけ(笑) ↑趣味丸出し(笑)。DVDもいっぱい持ってるよん。 近所にロードレーサー(競技用の自転車)の専門店があって、 そこのオーナーとおしゃべりしてたら、私もロードレーサーほしくなっちゃったよ。 でも1台●十万…。そんだけ出せば軽自動車買えちゃうって。 >美麗絵のサイト様だっ!すごいっす ![]() ↑うん。とっても素敵な絵を描かれる方なのだ。 色使いとか雰囲気とかすごくいいよね。 東風さんとこから飛んでって、ひと目でファンになっちゃった♪ コメありがとね! ■ そっ そのまま・・・っ
こんにちは^^
ぎゃーきたー!上嶋先生いいですよっその調子でもういっそのこと・・・・!(違 子供に助けられる中原 うーんダメすぎて可愛いね♪ そして今日一番のポイント 上嶋たん、受攻どっちもイケるんだ・・・・(゜Д ゜)ステキダ □ あはは
どっちでもいいって、上嶋ホンモノっぽいよね~。
っていうか多分本気だね~(笑)。 一瞬、上嶋と中原のカプでもいいような気がしちゃったけど、 いかんいかんと思い直したさ。 >子供に助けられる中原 うーんダメすぎて可愛いね♪ ↑ダメな大人が好きな私…というかダメなのは私?(笑) もう本編の面影すらないような…。 コメありがと♪ |
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