忍者ブログ
創作BL小説ブログ
ADMIN | WRITE | RESPONSE
■□ [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

フクロウ 
 

 フクロウは恋をしていた。
 丘陵の谷間に響き渡る、冬の空のように澄み渡った美しく可憐なさえずりに。
 太陽が天辺にあっても、フクロウは眠るのを忘れてそのさえずりに聴き入っていた。
――きっとこの声の主は姿も美しいに違いない。一日中薄暗い森の中にいるわたしとは比べものにならないくらいに。
昼は高い木の枝で休息し、日が暮れると餌を求めて森の中を徘徊するフクロウは、羽も声も夜の闇によく溶け込むように作られている。はっきりいって美しくない。あの声の主に会ってみたいとは思うが、太陽の下になんて出られるわけがなかった。寝不足を押して美しいさえずりに耳を傾けるのが、今のフクロウにできる精一杯のことだった。
 そのとき、「チルル、チルルル」という複数の鳴き声が近づいてくるのに気づいた。エナガの群だ。
 エナガはシジュウカラやメジロ、コゲラなど、森の中を周遊する小鳥たちでつくられた混郡の先頭をいく小さな鳥で、とにかく落ち着きがない。これまで毎日安眠を妨害されてきたフクロウは何度か引越しも考えたが、どこの森へ行ってもこの騒がしい集団は無数に存在する。結局、耳を塞いでやり過ごす以外にはないのだ。
「あっ、フクロウだ。フクロウがいるよ」
 1羽がフクロウを見つけると、ほかの仲間もフクロウのまわりに集まってきた。
「本当だ。フクロウだ」
「でも寝てないよ」
「本当だ。目を開けているよ。起きてるよ」
「フクロウなのに、昼間に起きてるなんておかしなやつだ」
「本当だ。おかしなやつだ」
 フクロウは堪らず口を開いた。
「ちょっと静かにしてくれないか。あの美しい声が聴こえないじゃないか」
「えっ、どんな声?」
「どんな声?」
「そのうるさい口を閉じて耳を澄ませてごらん。ほら、向こうの谷間に響いてるだろう」
 エナガたちが黙ると、美しく澄んだ高音が聴こえてきた。
 ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ。
 フクロウはうっとりと目を閉じた。
「わたしはこの声を聴くために昼間も起きているんだよ」
 するとエナガたちが言った。
「おいら、この声を知ってるよ」
「うん、知ってるよ」
 驚いたフクロウは目を見開いた。
「えっ、この声の主を知ってるのかい? 会ったことがあるのかい?」
「うん、会ったことあるよ」
「さっきも会ったよ」
「うん、会ったね」
 フクロウは縋る思いでエナガたちに訊ねた。
「どうか教えてくれ。この声の主は一体誰なんだ? どんな鳥なんだい?」
 エナガたちは勿体つけるでもなく、あっさりと教えてくれた。
「ルリビタキだよ」
「きれいな青い羽をした、立派なオスのルリビタキだよ」
「沢に突き出した枝の先で、いつも自慢げに歌っているよ」
「うん、歌ってるね」
 フクロウは納得した。
「そうか、やっぱりルリビタキか……。わたしも一度でいいから会ってみたいな」
 フクロウの呟きにエナガたちは首をかしげた。
「会えばいいじゃん」
「そうだよ。会えばいいじゃん」
「会いにいけばいいじゃん」
 エナガたちはフクロウがどんな鳥なのかわかっていない。
「わたしは夜の闇に紛れて活動する鳥だ。太陽の差し込む明るい森で歌う彼に会いにいけるわけがない。わたしにできるのは、毎日こうして彼の美しいさえずりに耳を傾けることだけだ。せめてこの気持ちを彼に伝えることができれば……」
「じゃあ、おいらたちが伝えてあげるよ」
「そうだよ。伝えてあげるよ」
「うん、伝える」
 ぱっとフクロウの表情が明るくなる。
「それは本当かい?」
「うん。明日会ったら伝えるよ」
「朝一番に伝えるよ」
 そのとき、後続のシジュウカラたちが近づいてきた。
「あっ、あいつらに追いつかれちゃう。もう行かなきゃ」
「そうだ。もう行かなきゃ」
 フクロウは内心でエナガたちを疎んでいたことを詫びた。
「ありがとう、きみたち。頼んだよ。きっと伝えてくれよ」
「きっと伝えるよ」
「それから、わたしのことを聞いたルリビタキがどんな顔をしていたかも知りたい」
「わかったよ」
「うん、わかった」
「きっとだよ」
「約束だよ」
 そう口々に言いながら、エナガたちは再び「チルル、チルルル」と鳴きながら去っていった。
 心の中に重く垂れ込めていた雲が晴れ、フクロウは久しぶりに安らかな眠りについた。
 
 
 翌日、フクロウは朝から起きていた。太陽が昇っても寝ないでエナガの報告を待つために、夕べは狩りもそこそこに仮眠をとった。おかげで空腹だったけど、これくらいならまだ我慢できる。フクロウはひたすらエナガたちがやってくるのを待った。
 異変に気づいたのは、太陽がだいぶ昇ってからだった。
――おかしい。朝はたしかにルリビタキの美しいさえずりが谷間に響き渡っていたのに、あれっきりまったく彼の声が聴こえなくなってしまった。もしかしたらエナガからわたしのことを聞いて、迷惑に思った彼はさえずるのをやめてしまったのだろうか。もしくは、どこかべつの森へ行ってしまったのだろうか。
 フクロウは気を揉んだ。ルリビタキに嫌われたのだと思ったら悲しくて、フクロウに生まれてきた自分を呪いたくなった。
 フクロウに顔を合わせずらいのか、エナガたちもなかなかやってこない。
――やっぱりフクロウのわたしがルリビタキに近づこうとしたのが間違いだったのかもしれない。夜の住人は昼の住人に恋をしてはならないのだ。
 諦めかけたそのとき、遠くからエナガたちの声が聴こえてきた。すでに太陽は天辺を過ぎていた。
「おい、きみたち」
 フクロウがエナガの群を呼び止めると、エナガたちは意外そうな顔で近づいてきた。
「おや、フクロウだ」
「本当だ。昼なのに起きてるフクロウだ」
「そんなフクロウがおいらたちになにか用かい?」
 その言葉にフクロウは驚いた。
「なにかって、昨日頼んだことを忘れてしまったのかい?」
「昨日?」
「ああ、そういえば昨日もフクロウに会ったな」
「うん、会ったな」
「それからなにかを頼まれたな」
「うん、頼まれた」
 落ち着きのないエナガたちは、枝から枝へ飛び移りながらフクロウのまわりをぐるぐるとまわっている。そんな彼らの様子に、フクロウはエナガに頼みごとしたことを後悔し始めていた。
 すると1羽のエナガが「あっ」と声をあげた。
「ルリビタキだ。ルリビタキになにかを伝えるんだった」
 それは波紋のように仲間の間に広がっていった。
「そうだ。昨日そんな約束をした」
「うん、フクロウと約束した」
「そういえば、今朝ルリビタキに会ったときに伝えたよ」
「うん、たしかに伝えたよ」
 フクロウは顔を上げた。
「本当かい? そのときルリビタキはどんな顔をしていた?」
「どんな顔?」
「どんな顔してた?」
「誰か見た?」
「なにを?」
 エナガたちは再びせわしなく鳴き交わし始めた。フクロウは苛立って声を荒げた。
「聞いてくれっ。ルリビタキの声が聴こえなくなってしまったんだ。朝のうちはたしかにさえずっていたのに、それっきりまったく声が聴こえないんだ。きっと、きみたちがわたしのことをルリビタキに伝えてからだと思うんだ。ルリビタキは……彼はどんなふうだった? 迷惑そうじゃなかったかい? わたしのことを気持ち悪がってなかったかい?」
「思い出した。ルリビタキから伝言を頼まれたんだった」
 思わずフクロウは枝から落ちそうになった。
「それを早く思い出してくれよ」
――二度とエナガに頼み事はしない。
 このときフクロウは心に誓った。
「で、どんな伝言だい?」
「会いにくるって」
「うん、フクロウに会いにくるって」
 フクロウは自分の耳を疑った。まったくもって信じられない。
「ルリビタキがわたしに会いにくると言ったのかい?」
「うん、言った」
「たしかに言った」
「でも、だったらなぜ今、彼はさえずるのをやめてしまったんだい?」
 その答えは、フクロウが予想もしていないことだった。
「寝てるんだよ」
「……寝てる?」
「うん、寝てる」
「夜、起きてるために」
「だから、昼に寝てる」
 フクロウの声が震える。
「それは……夜になったらわたしに会いにくるために?」
「うん、そう」
「夜になったら、フクロウに会いにくる」
「きっとだよって」
「あっ、シジュウカラたちに追いつかれる」
 ツツピーという声を聴いた途端、エナガたちは一斉にこの場を離れていった。
 それを追うようにして、シジュウカラやメジロたちの群がフクロウの脇を通り過ぎていく。
 最後の1羽が遠ざかっていくと、ようやくあたりに静けさが戻った。
――ルリビタキがわたしに会いにくる。暗い夜の森を飛んで、わたしのもとへやってくる。
 フクロウはよろこびに羽を膨らませた。
 もうすぐあの美しい声の主に会えると思うと、空腹も眠気も吹き飛んだ。
 夜の森を飛ぶために、明るい梢で一生懸命眠ろうとしている彼の姿を想像しただけで、フクロウの中に愛しさが込み上げてくる。
 この想いを伝えたくて、フクロウは力の限り声を張り上げた。
 ホウ、ホウ。ホウ、ホウ。
 その声は、風に乗って明るい空へと舞い上がっていった。

 
雲の中の虹


END



目次へ



2009年の第1弾は、六花さんからリクエストがあった
ひとり写真部のフクロウの写真からのSSです。
鳥に興味のない方にはどうなのかなぁと思いますが、
書いてる私は楽しかったです。

六花さんへ、日頃の感謝を込めて♪


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
↑お気に召しましたらポチッとお願いします。
PR
■□ COMMENT
HN:
TITLE:
COLOR:
MAIL:
URL:  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT:
PASS:
できるんだなー
実はなんて難しいリクエストだろう!!
と、思っていたんです。
でも、六花さんも朔田さんがこの世界観を持ってるって知っていたんですね。
フクロウの不安と喜び・・胸が締め付けられるようでした。
傑作ですね。
adocyan 2009/01/04 12:57 *edit
なんとか…
>実はなんて難しいリクエストだろう!!
>と、思っていたんです。
↑私も最初は難しいかな~と思いましたが、
モチーフが鳥だったのでなんとかなりました~。

>でも、六花さんも朔田さんがこの世界観を持ってるって知っていたんですね。
↑人間以外のお話は今まで書いたことなかったんですけどね。
あ、きのこの写真には2、3行のセリフをつけたことありましたけど(笑)。
書いてる私が楽しいだけだったらどうしよう…と心配していたので、
読んでいただけただけでもすごくうれしいです。
ありがとうございました!
朔田圭子 2009/01/05 00:45
わー。
素敵なお話でした!
またこーゆーの、読みたいです~~~。
おふく 2009/01/04 16:18 *edit
こんばんは。
主役が人間じゃないのに読んでいただけて、
そのうえコメントまでいただいちゃってすごくうれしいです。
ありがとうございました。
2度目は…どうでしょうね~。
朔田圭子 2009/01/04 22:55
六花さん♪
メールありがとうございました。
明日、自宅へ戻られるんですね。
では、お返事は自宅のほうへメールしますね~。
朔田 URL 2009/01/04 22:58 *edit
無題
やだ、なんか泣けてきちゃった
空のように青くて透明な感じです。
ままたみ URL 2009/01/06 17:08 *edit
えっ!
泣かせちゃった?!
あ~ん、ままたみさんの涙はどんな味?(←アホ)
朔田圭子 2009/01/06 19:59
声はきっと彼の昼の夢の中まで
連投ですいません(´・ω・`) (ホントは昨日投稿しようとしてた)
このお話、すごい素敵・・・・。きゅんときてしまいました。
ああ彼が夜の闇を無事に飛んでこられますように。
私の脳内ではすっかり擬人化済みのフクロウくんが
幸せそうに膝を抱えて微笑んでいます。
うはぁ妄想炸裂で申し訳ありません(´Д`;)
ご馳走様でした!
東風 URL 2009/01/06 17:22 *edit
わあ、
眼鏡でも司書でもないのに(人間ですらない)読んでいただけてうれしいです。
どうもありがとうございます!
もう何連投でもOKっすよ。

>私の脳内ではすっかり擬人化済みのフクロウくんが
>幸せそうに膝を抱えて微笑んでいます。
↑出ました! 十八番の擬人化!!(笑)
フクロウって擬人化するとどんな感じだろう…。やっぱメガネくん?

>ご馳走様でした!
↑お粗末さまでした~!
朔田圭子 2009/01/06 20:27
ありがとうございます!
出先のPCからは何故かコメが入れられず、メールだけでごめんなさい…
あたくしの思いつき!?(ごめん)のような難題にこのような素敵な形で応えていただいたのにコメがないのはなんとなくヒトデナシっぽい、あはは。
暑苦しい(恥ずかしい)感想はメールに込めちゃったので、お礼!
“朔田さ~ん、ありがと、ねっ♪”(叫んでみたよん)
六花 2009/01/07 18:09 *edit
こちらこそ!
>出先のPCからは何故かコメが入れられず、メールだけでごめんなさい…
↑いえいえ、わざわざ出先からありがとうございました!
熱いメール、すごくうれしかったです!
私のほうこそお題をいただいてよかったです。ありがとうございました。

あっ、この前のメールに書き忘れたけど、私も「よたかの星」大好きです!
子どものころ学校の図書室で読んだ絵本が忘れられず、
大人になってから自分で買いましたよ。
子どものときに読んだ本って、大人になってから読むと
また違った読み方ができておもしろいですよね。

朔田圭子 2009/01/07 20:43
あ、よたかの星だ
始めて読んだ時になんだろう!なんだろう?ともう一つの世界が頭のスミにちらついていました。
そうか、よたかの星だったんだ!!
すっきりしました。もう一度、探して読んでみます。
ああ、朔田さんの文学って高尚だ!
adocyan 2009/01/08 06:51 *edit
よたかの星
adocyanさんも読んでましたか?
私、あのお話大好きなんです。っていうか宮沢賢治が好き。
「銀河鉄道の夜」は私のバイブルです!
銀鉄はアニメ版もいいですよね~。賛否両論あるらしいけど私は好きです。
音楽、細野晴臣ですしね。
あ~、また観たくなっちゃった!
朔田圭子 2009/01/08 10:55
読み直しました。
よたかの星、小6に聞いたら「持ってるよ」と言うので、貸してもらってもう一度読もうとしたら先に小6に取られてしまい順番待ちでした。
読んで、簡潔な文章なのに心を打つ!
こういう書き方って理想だなと、思いました!!
朔田さんみたい。
adocyan 2009/01/08 18:08 *edit
早い!
>読んで、簡潔な文章なのに心を打つ!
>こういう書き方って理想だなと、思いました!!
↑うん。文章は簡潔なほど本質をつくものだと思いますよ。
小説の場合、簡潔なだけの文章だといろいろと弊害もあるから
難しいところですけどね。日々勉強ですよ~。

>朔田さんみたい。
↑いや、順番が逆ですから!(笑) しかも次元が全然違うし!
恐いこと言わないでください~。
朔田圭子 2009/01/08 19:43
■□ TRACKBACK
トラックバックURL:


■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

■□ COMMENTS
▼コメントありがとうございました!
[05/27 朔田]
[05/21 ままたみ]
[05/12 朔田]
[05/11 須和]
[05/11 ままたみ]
[05/10 須和]
[05/10 東風]
■□ PROFILE
管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
■□ RANKING
▼ランキングに参加しています。お気に召しましたらポチッとしていただけると大変励みになります。    ※こちらは別窓が開きます。
にほんブログ村小説ブログBL小説ランキング    カテゴリ別オンライン小説ランキング

にほんブログ村トラコミュ[メガネくん萌え]
▲管理人をしています。メガネくん好きの方はぜひご参加ください♪
■□ SEARCH
忍者ブログ [PR]