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 試験期間の最終日、午前ですべての試験が終了し、開放感で浮き立つ生徒たちは、午後の遊びの計画を立てながら足早に下校していく。その人波に逆らいながら、一威は本館二階を目指した。
「解禁だ、解禁だ」
 階段を二段飛ばしに駆け上がる。
 約束を交わしたわけではないので、今日、中也に会えるとは限らない。けれど一威は図書室へ走らずにはいられなかった。
 図書室の前に立ち、扉に手を伸ばす。久しぶりの重みが心地いい。
「ちーっす」
 中を覗き込むように扉を押し開ける。
 しかし、と言うべきか、やはり、と言うべきか、そこに中也の姿はなかった。中也どころか、ひとりも生徒の姿はない。中原の姿も。
 一威はゆっくりと進み、いつもの窓際の席に腰を下ろした。すると、それまで忘れていた腹の虫が鳴き出した。
「あー、腹へったー」
 けれど、今は腹の虫よりも睡魔のほうが勝っていた。連日の寝不足がたたり、椅子に座った途端、猛烈な眠気が襲ってきたのだ。まるで雪山で遭難したような空腹と眠気に、一威はたまらず眠りに落ちていった。
 遠くで乾いた紙の擦れる音が聞こえた。馴染みのある音だ。
 ああ、誰かが本のページをめくっている。
 半分だけ覚醒した頭で、一威はそう思った。
 少しずつ思い出していく。試験が終わったあと、図書室にきて眠ってしまった自分を。
 今、何時だろう。
 一威は瞼が半分下りたまま、時計を探して顔を上げた。
 次の瞬間、完全に眠気が吹き飛んだ。
「中也先輩っ」
 目の前で、いつものように中也が本を開いている。そして、信じられないことに彼は一威に向かってふわりと微笑んだ。
「やっと起きたか」
 初めて目にした中也の笑顔に、自分はまだ眠っていて夢を見ているのではないかと疑った。一威は恐る恐る手を伸ばし、本を押さえている中也の手に触れた。
「な、なに?」
 中也は驚いて手を引っ込めた。
「あ、本物だ」
「まだ寝惚けてんのか?」
 呆れ顔で頬杖をつく中也を、一威は食い入るように見つめた。
「いや、ずっとあんたに会いたいのを我慢してたから、とうとう幻覚を見ちゃったのかと思ったんだ」
「べつに無理に我慢することはないだろう」
 手元の活字を目で追いながらこともなげに言う中也を、一威は恨めしそうに見つめた。
 忘れてるのかもしれないけど、
「……試験が終わるまで会わないって、あんたが言ったんだよ」
「そうだっけ?」
 中也はしれっとした顔でページをめくった。そのつれない態度に覚えのある一威は不安に襲われる。
 試験前、最後にふたりで下校した日、中也の反応に手応えを感じた一威は、すっかり彼の鉄壁のガードをパスしたつもりでいた。だから、中也のこの態度はまったくもって予想外だ。開いている扉から中へ入ろうとしたら、再び目の前で戸を立てられてしまったようなものだった。
 仕方ないので、その戸に爪を立ててみようと試みる。
「あのさー、いくらなんでも……」
「おれも同じだ」
「え?」
 一威は自分の耳を疑った。
「おまえに会えないと……なんだか物足りない感じだ」
 まさかのセリフに一威は呆然となる。
 それから、中也の言葉をもう一度頭の中で反芻した。
 あの天の邪鬼な中也先輩が、こんなかわいげのあることを言うだろうか。
 今ひとつ確信の持てない一威は、疑いの眼差しを中也に向けた。すると、ページの端を摘まむ彼の白い指がかすかに震えていた。彼に意識を集中させれば、懸命に本を読んでいるふりをしていても、彼の神経が自分に向けられていることが、びりびりと肌に伝わってくる。彼がこの一言にどれだけの勇気を必要としたかを、一威は知った。
 扉を閉められたと思ったのは、思い過ごしだったのかもしれない。
 一威は中也の真意を確かめるように訊ねる。
「それは俺に会いたかったってこと?」
 意地悪したくて訊いているわけではないのだが、中也は不機嫌そうな声で答えた。
「そうかもしれない」
 それでも一威は追及の手を緩めなかった。欲しかったものに、やっと手が届きそうなのだ。
「おれのこと、好きなの?」
 中也は左手で頬杖をついたまま、右手で落ち着かなげにページをめくる。すでに内容を読んでいないことはあきらかだった。
「……わからない。勘違いかもしれない」
 もうひと押し。
「だったらキスしてみよう」
 一威は反射的に提案していた。最初から狙っていたわけではないが、なぜだか「今しかない」と思ってしまったのだからしようがない。
 案の定、中也はぽかんと口を開けて一威の顔を見返していた。
「は? なに言ってんだ?」
 なんでも白黒はっきりさせないと気が済まない中也の気性を逆手に取り、一威は彼が納得しそうな理屈を捻り出す。
「中也先輩はただの友だちとはキスなんかしないでしょ? やっぱり好きな人とじゃないと」
「当たり前だ」
「だったら、試しにキスしてみれば、勘違いかどうか一発でわかるよ」
「そんな乱暴な」
「どっちかわからないままにしておくと、これから先どう接したらいいのか考えちゃうし」
「それはそうかもしれないけど……」
 訝しみながらも、中也は一威の勢いに押され気味の様子だ。
「あんたもすっきりしたほうがでしょ?」
 中也はしばらく考え込んでから、不承不承頷いた。
「……わかった。おまえの言うとおりにしてみよう。でも、なんにもわからなかったらどうする?」
「それはないよ」
 一威が微笑むと、中也は逃れるように視線を外した。
「なんでそんなことが言い切れるんだよ」
「大丈夫だから、俺を信じて」
 一威は机に両手をついて身を乗り出した。身体を硬くして俯いている中也を安心させるように、おどけた口調で彼を促す。
「ほら、あんたも少しは協力してよ」
 そう言いながら、一威自身も緊張のため胸の鼓動が速くなる。
 中也は迷いを見せながらも、おずおずと一威に顔を近づけ、ぎゅっと目をつぶった。
 固く引き結ばれたその唇に、一威は自分の唇をそっと触れ合わせた。中也の唇は思ったよりも柔らかく、温かかった。
 一威は名残惜しむように中也の下唇を自分の唇でそっと食んでから、ゆっくりと顔を離した。頬に中也の眼鏡の冷たい感触が残る。
 一威は囁くような声で訊ねた。
「どう? いやじゃない?」
 焦点を結んでいない瞳で中也が答える。
「いや……じゃない。なんだかどきどきする」
「じゃあ、自分の気持ちもわかった?」
 次の瞬間、中也は顔を真っ赤にして頭を抱えた。
 ごつっ。
 勢いあまって額を強か机にぶつけた。
「うわっ、どーすんだよ、これ」
 中也には、額の痛みよりもキスの衝撃のほうが格段に大きいようだ。机の下でじたばたと脚をばたつかせている。
 そんな中也の反応を、一威はうれしそうに見つめる。
「大丈夫。俺が責任をとるから」
 その言葉に、中也のじたばたがぴたりと治まった。それから上目遣いに一威を睨み、低く呟く。
「なんだかおまえが憎くなってきた」
「ええっ? そこはラブじゃないの?」
 一威の訴えをきれいに無視し、中也は眼鏡のずれを直してから横柄に腕組みをした。
「おまえ、責任とるって言ったよな」
 一威は息を呑んで、大きくひとつ頷いた。
「だったらこれから先、おれが薦める小説は全部読め」
 なにを約束させられるのかと思いきや、いかにも中也らしい要求に少しだけほっとする。
「う、うん」
 しかし要求はこれだけに止まらず、中也はさらに続けた。
「それから、おれが神保町に行くときは荷物持ちをしろ」
 それはつまり、放課後デートのお誘いか?
 中也は命令しているつもりかもしれないが、一威としては願ったり叶ったりだ。快く返事をする。
「はい」
「それから」
「えっ、まだあるの?」
「おれ以外のやつと楽しそうにするな」
 やっぱりこれは神谷さんのことかな?
 けれど、やきもちを焼かれるのは気分がいい。
「わかりました」
「それから」
「え……」
 さすがの一威もちょっとひけてくる。中也がこれほどまでに束縛体質だったとは気づかなかった。
「いや、もう充分っすよ、中也先輩」
「聞け、これが最後だ」
 一威は恐る恐る頷いた。
「おれの名前はチュウヤじゃない」
「は?」
 一体なにを言い出すのかと思い、一威は中也の顔をまじまじと見つめた。
「あれはあだ名で、本当は中也と書いてナカヤと読むんだ」
 それから、ずれてもいない眼鏡を直しながら、きまり悪そうに呟いた。
「おまえはナカヤと呼んでもいい」
 一威は笑いたいのを堪えて神妙に応えた。
「了解」
 そのとき、タイミングを見計らったようにドアの開く音がした。
 驚いて音のしたほうを振り返ると、司書室から中原が出てきたところだった。
 図書室には自分と中也しかいないと思い込んでいた一威は、ショックのあまり声も出ない。
「もう出てきてもよかったかな?」
「うん、ありがとう」
 一威は中也と中原の顔を交互に見やる。
「なに? どういうこと?」
「おまえが目を覚ましたら大事な話がしたいからって、中原さんには司書室に引っ込んでてもらったんだ」
 司書室に引っ込んでもらっても、あそこのドアには硝子が嵌め込まれた覗き窓がある。中原にはこちらの様子が丸見えということだ。
 もちろん、キスシーンも。
「あんた、なに考えてんだっ」
 慎重なのか迂闊なのか、小心なのか大胆なのか、ようやく理解できたと思っていた中也の性格が、再びわからなくなってきて、一威は大きなため息とともに頭を抱えた。
「まあ、がんばれよ」
 同情するように中原が一威の肩を叩いた。
 無性に居たたまれなくなり、一威は中也をつれて逃げるように図書室をあとにした。





第終話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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