忍者ブログ
創作BL小説ブログ
ADMIN | WRITE | RESPONSE
■□ [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 定期試験を間近に控え、放課後の図書室に出入りする生徒の数が減ってきた。図書委員も明日から試験が終わるまで仕事は休みになる。一威もしばらく図書室に寄るのを控えることになった。
 半分の脳みそで一威の話に耳を傾けていた神谷が、残り半分で読んでいた『五色の雲』から顔を上げる。
「あの中也をよく手懐けたな」
 彼は感慨深げに言った。
「俺たち、似てるんだよ」
 互いに向いている方向は逆だけど、ふたりとも自分では満たせない空ろを抱えている。ちょうど二枚貝の貝殻のように。
「まあ、中也にとってはいい傾向だと思うよ」
 その言葉通りに受け取っていいものか、一威は迷った。かねてから気になっていたことを、思い切って訊いてみる。
「神谷さん、俺はあんたがどれだけあの人を理解して、心配していたか、よくわかったんだ。本当は……中也先輩のことが好きなんじゃないの?」
 神谷は虚を衝かれたように、一瞬言葉を失くした。けれど、すぐにいつもの人を食ったような顔に戻る。
「おい、いまさら中也を返すとか言うなよ。やっと肩の荷が下りたんだから」
「本当に?」
「買いかぶりはよしてくれ。オレはおまえほどお人よしじゃないし、忍耐強くもない。事実、あいつを持て余してた」
「なら、俺がもらっちゃってもいいんだね?」
「おう、熨斗つけてやらぁ」
 神谷は磊落に笑った。
 そのとき、入り口の扉が開いて中也が入ってきた。和やかに笑い合う彼らを眺めて、複雑な表情を見せる。
「おまえら、なんだかんだいって結構仲いいよな」
「お、中也のくせに生意気にヤキモチか?」
「べつにそんなんじゃないよ」
 珍しく慌てた様子で否定する。
 それを見て、神谷が意味ありげな視線を一威に向けてきた。いやな予感がする。
「オレも佐島のことは気に入ってるんだ」
「か、神谷さん?」
「いろいろ教え込んでオレの下僕にしちゃおうかな」
 妙に楽しげな神谷が怖くなって、一威は話を逸らそうと彼の手元に目を向けた。
「ねえ、神谷さん。今読んでるそれはどんな本なの?」
 神谷は本の表紙をひと撫でしてから、歯切れのいい声でサブタイトルを読み上げた。
「日本の暗黒、実録・特別高等警察、第一部」
「…………」
 
 
 学校をあとにした一威と中也は、ふたり並んで駅へ向かう。中也は都営地下鉄で一威はJRだから、駅に着けばさよならなのだが、この七分ほどの道のりを一緒に歩くことが、彼らの習慣になりつつあった。どちらが言い出したわけでもなく、書庫での和解以降、自然とそういう流れになったのだ。
 会話といえば、もっぱら最近読んだ本についての感想なのだが、近頃では少しずつ家族のことや子どもの頃の話もするようになっていた。
 それでわかったことだが、中也は電話が大の苦手で、携帯電話も持っていないという。会えない間はせめてメールだけでも、と淡い期待を抱いていた一威の心は容赦なく打ち砕かれた。
 それでも諦めきれない一威は、なにげなく話の矛先を試験期間中のことへ向ける。
「もうすぐ試験だね。勉強してる?」
「ぼちぼち」
「明日から図書室には行かないんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ、しばらく会えないね」
「そうだな」
「……あ、アシモフは借りたままでいい? 試験が終わったらまた続き読むから」
「ああ」
 会話終了。
 俺って実はヘタレ?
 肝心なことが言い出せず、一威はがっくり肩を落とした。
 それにしても今日の中也はいつもにも増して口数が少ない。またなにか気に障ることでも言っただろうか、と一威は不安になる。中也の爆弾のスイッチがどこにあるのか、まだいまいちよくわからない。
「ねえ、なんか機嫌悪い?」
 恐る恐る訊ねると、中也は一威の顔を上目遣いに見上げてきた。
「おまえは誰とでも仲よくなれていいな」
「え?」
「神谷と一緒にいるおまえはすごく楽しそうだ」
 そ、それは、もしかしなくてもヤキモチ?
 沈んでいた一威の心が一気に浮上する。
「あんたと一緒にいるときのほうがもっと楽しいよ」
 言葉にしきれない思いを微笑みに乗せると、中也は素っ気なく顔を背けた。けれど、猫っ毛の下から覗く耳朶が赤い。少なくとも嫌がられてはいないということだ。その反応に勇気を得て、一威はさらに言葉を続けた。
「俺はあんたともっとたくさん話がしたい。あんたと一緒にいろんなところに行って、同じものを見たい。それをあんたがどう感じるのかを知りたい」
 自分で話しているうちに、なんだか妙に甘ったるい気分になってきた。彼女が相手ならまだしも、十六、七の男相手にこれはどうかと思う。
「俺、なんかおかしなこと言ってる?」
「……べつに、おかしくはないだろ。友だちなら……」
 消え入りそうな声でそう言う中也は、耳だけでなく首筋まで桜色に染めていた。制服の襟から覗くその上気した首筋に、どういうわけか一威の胸が高鳴る。
 いやいや、おかしいぞ。俺もおかしいがあんたもおかしい。
 心の中で、もうひとりの自分が突っ込みを入れる。けれど、中也をかわいいと思う気持ちは誤魔化しようがなかった。まるで強力な磁石に吸い寄せられるように、一威の気持ちは中也へと向かっていく。
 もう認めてしまうしかなかった。自分は桐原中也のことが、「そういう意味」で好きなのだと。
 

 結局、なんの約束も取りつけられないまま、一威は試験期間に突入した。言ってみれば中也のお預け状態だ。当然、勉強などほとんど手につかなかった。頭の中で、あの日のかわいかった中也を何度も反芻した。しかも、普段のふてぶてしい彼と交互に。そのギャップがまたたまらないのだ。その変態じみた行為に、とうとう自分も「こちら側」にきてしまった……と複雑な心境に陥る。
 もともと感情の振り幅の小さい一威は、女の子と付き合っているときでさえ、これほど心を揺り動かされたことはなかった。ところが、あの帰り道からずっと一威の感情のメーターは振り切れたままだ。試験中の貴重な休み時間に、わざわざ中也のクラスの前を通って、誰とも口を利かずに単語帳と睨めっこをしている彼の姿を確認して安堵したりした日には、自分もついにここまできてしまったか、と感慨もひとしおだった。今ならストーカーの気持ちも理解できそうである。
 そんなこんなで中也に合えない日々は過ぎていった。





第8話につづく


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
     
ランキングに参加しています。
お気に召しましたらポチッとお願いします。
1日1回のみカウントされます。
PR
■□ COMMENT
HN:
TITLE:
COLOR:
MAIL:
URL:  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT:
PASS:
■□ TRACKBACK
トラックバックURL:


■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

■□ COMMENTS
▼コメントありがとうございました!
[05/27 朔田]
[05/21 ままたみ]
[05/12 朔田]
[05/11 須和]
[05/11 ままたみ]
[05/10 須和]
[05/10 東風]
■□ PROFILE
管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
■□ RANKING
▼ランキングに参加しています。お気に召しましたらポチッとしていただけると大変励みになります。    ※こちらは別窓が開きます。
にほんブログ村小説ブログBL小説ランキング    カテゴリ別オンライン小説ランキング

にほんブログ村トラコミュ[メガネくん萌え]
▲管理人をしています。メガネくん好きの方はぜひご参加ください♪
■□ SEARCH
忍者ブログ [PR]