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 帰りのショート・ホームルームが終わると、箒を持った石川が、頭を抱えて机に伏せている一威に声をかけてきた。
「今日は図書室に行かないのか?」
「うーん……。なあ、帰りにカラオケでも行かね?」
「俺、掃除当番だから、手伝ってくれるんならいいぜ」
「掃除……掃除かぁ……」
 深いため息をつく。
 あの日、紙吹雪の掃除をしているときに見た中也の冷ややかな瞳を思い出して、一威の気持ちはさらにへこんだ。
「おまえ、今日は朝から元気ないな。どうしたんだ?」
 一威が無言でいると、石川はさらに言葉を続けた。
「もしかして、例の先輩となにかあったのか? バカなこと言って怒らせたとか」
 相変わらず察しがいい。
「なんで石川にはわかっちゃうんだろう」
「おまえの性格をよく知ってるからな。っていうか、顔に書いてあるし。けど、珍しいな。おまえが誰かともめるなんて」
 そうなのだ。争いが嫌いな一威は、誰かとぶつかりそうになると、いつも寸前でうまく身をかわしてきたのだ。それなのに今回は、そんな余裕など欠片もなかった。
「……なんか、我慢できなかったんだ」
「やっぱ無理があるんだよ。ああいう人種に普通のおまえが付き合いきれるわけがない」
「ああいう人種って?」
「だから、おたくだよ。自分の世界の中だけで生きて、人を人とも思わない人間に、他人の気持ちがわかるはずがない。疲れて傷つくのはいつもこっちなんだ。理解してやろうだなんて思わないほうがいい」
 石川が誰のことをいっているのか、一威にはわかってしまった。おそらく彼はアイドルおたくだという彼女のことが、本気で好きだったのだろう。
 けれど「理解してやろう」と思った時点で、その気持ちが間違っていることに彼は気づいていない。「理解してやろう」ではなく、「理解したい」と願う気持ちがなければ、どんな相手とだってうまくいくわけがないのだ。
 そして一威は、中也のことをもっとよく知りたかった。
「サンキュ。俺、やっぱ行ってくるわ」
 一威はようやく重い腰を上げ、中也のいる図書室へと歩き出した。昨日の今日で、中也が図書室に来るかどうか確信は持てなかったが、とにかく行くしかない。
 薄暗い廊下でひとつ深呼吸をしてから、一威は意を決して重い扉に手をかけた。
 カウンターには顔見知りの図書委員が座っていた。部屋の中に素早く視線を走らせたが、中也の姿は見当たらない。念のため図書委員に中也が来ているか訊ねると、彼は二階の書架を指差した。
 一威はなるべく足音を立てずに階段を上り、一番手前から順に書架の間を覗いていく。そして、一番奥の書架の間に彼の姿を見つけた。
 中也のほうでも、まさか今日、一威が顔を出すわけがないと踏んでいたのか、驚きのあまり手に持っていた本を落としそうになる。しかし彼はすぐに平静を取り戻し、本を書架に戻すと一威の脇をすり抜けようとした。
 一威は咄嗟に中也の行く手を身体で塞いだ。 自分よりも幾分身長の低い中也を見下ろす。
「待ってよ。話があるんだ」
 逃げるのを諦めたのか、中也は一歩下がって書架に背を預けた。無言で足元に視線を落としている。
 一威は乾いた唇を舐めてから、昨日の行き過ぎた言動を詫びた。
「ごめん。昨日は言い過ぎた」
 当然、怒っているであろう中也は、しかしあっさりと一威の詫びを受け流した。
「気にしてない」
 それはそれで寂しい。
 こちらを見ようともしない中也の横顔に問いかける。
「気にしてないってどういうこと?」
「おまえの言う通りだということだ。おれは無神経で傲慢で変人で……普通じゃない」
 口調は淡々としていたが、その分、中也の心の痛みがせつないほど伝わってきた。
「ああ、それともひとでなしだったかな」
 そう付け加えて、口の端に自虐的な笑みを浮かべた。その表情は、まったく中也らしくなかった。
 自分が彼にそんな顔をさせている。そう思うと、居た堪れない気持ちになった。自分が怒りに任せて口にした言葉がどんなに残酷なものだったかを痛感する。
「だからあれは言い過ぎだったよ。本当にすまなかった。あんたはただ他の人よりも好きなものとか興味のあることがはっきりしているだけなんだ。好きすぎて、他のことが少し疎かになってるだけで……」
 一威の言葉を遮るように、中也が口を開いた。
「フォローしてくれなくていいよ。おれは変だ。おまえだって、本当のおれを知ったら幻滅する」
「幻滅なんてしないよ」
「いや、する」
 わかろうとしない中也が悲しかった。
「あのさ、俺が幻滅しないって言ってるんだ。そんなに信用できない?」
 抑えていた声がつい大きくなってしまい、一威は慌てて口を噤んだ。
 けれど、時はすでに遅かった。
「おーい、そこのふたり、他の生徒の邪魔だぞ。下りてこい」
 下から中原の声が呼んでいる。
 仕方なく一威と中也は中原の言葉に従った。
「すいません」
 一威が謝ると、中原は欠伸を噛み殺しながらふたりを司書室の隣の部屋に案内した。
「話し声がうるさいから、込み入った話ならここでやれ。少しの間だけ貸してやる」
 そう言うと、一威たちを書庫に放り込んでドアを閉めた。
 そこは書庫というよりも納戸だった。スチール棚に並べられた本のほかにも、雑誌のバックナンバーやコンピューターシステムが導入される以前に使用されていたと思しき貸し出しカードの束などが無造作に積み上げられている。そこまでならいいのだが、中には将棋盤や懐かしのレコード、アフリカ土産的な気味の悪いお面など、なぜここにあるのかわからない代物まで転がっている。
 中也は部屋の片隅で埃を被っている年代物の映写機に興味を惹かれている様子だ。その横顔は、森の中で珍しい昆虫を見つけた子どものようだ。
 一威の顔に自然と笑みが浮かぶ。
「あんたみたいな人、俺は好きだよ」
 その言葉に、中也はびくりと肩を揺らした。
 それでも一威を見ようとしない中也の心に届くように、一威は素直な気持ちをぶつける。
「俺みたいに無趣味で空っぽの人間からしたら、夢中になれるものがあって、自分に正直に好きなものを好きと言える生き方はすごいと思う。俺もあんたみたいに夢中になれるものを見つけたいよ」
 一威の率直な言葉に、中也は戸惑いの表情を浮かべる。神経質なしぐさで眼鏡の位置を直してから、彼はためらいがちに重い口を開いた。
「……違うんだ。空っぽなのはおれのほうだ。空っぽで自分がないから、その空虚を埋めるためにたくさん本を読むんだ」
 中也は胸のつかえを吐き出すように続ける。
「だけど……そうするとますます自分がなくなっていく。それが怖くてさらに本を読む……悪循環だ。そんなおれを神谷は活字依存症だって言ってた。どこかで断ち切らないといけないって……」
 一威は唐突に理解した。
 神谷は中也のことを本当によくわかっている。わかったうえで、中也の意識を少しでも外に向けさせようと、さり気なく一威を後押ししてくれているのだ。
「神谷さんはあんたに本を読むなって言ってるわけじゃないよ。ほんの少しでいいから、図書室の外の世界にも目を向けてみろと言ってるんだ」
 そして、中也を外の世界に連れ出す人間は自分でありたいと、このとき一威は強く思った。そんな強い気持ちを誰かに対して抱いたのは初めてだ。まるで今まで血が通ってなかった部分に、熱い血が流れ込んでいくように、一威の中でなにかが目覚めていく。
「自分の部屋と学校の図書室、それがおれの世界だ。たまに外に出て行ったとしても、せいぜい神保町ぐらいだ。おれは外の世界の歩き方を知らない。どんなにたくさん本を読んだって、所詮おれは世間知らずのおたくだ」
 常に肩肘を張って強がっていた中也が、自嘲気味に呟いた。その頼りなげな肩が痛々しくてせつなかった。そして、自分の前で初めて弱みを見せた中也を愛しいと思った。
「俺がいるじゃん」
「え?」
 中也が今日初めて一威の顔を振り返った。眦の切れ上がった奥二重の目が、レンズ越しに一威を見上げる。
 このちょっと冷たくて気の強そうな目が好きだ。
 一威はあらためてそう感じた。
「俺があんたのそばにいるよ。あんたにないものを俺が持っていて、俺にないものをあんたが持ってる。ちょうどいいじゃん。これってちょっと運命っぽくない?」
 自分らしくない真剣さが気恥ずかしくなって、一威は途中からわざとおどけて見せた。
 中也も緊張を解いて答える。
「おれは運命とかは信じない。でも、おまえがどうしてもって言うなら、考えてやらないこともない」
 先程までの態度とは打って変わって、憎らしいほどいつもどおりの中也だった。
「おまえ、物好きだな」
「よく言われる」
 一威はにっと笑った。





第7話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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