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「え、もう帰っちゃうの?」
 放課後、いつものように図書室で中也を待っていると、彼は姿を現すなり一威に一冊の本を手渡して、「今日は神保町に寄るから」とそのまま踵を返した。一威は反射的に中也を呼び止めた。
「俺も行きたい」
 中也は足を止め、驚いているのか怒っているのかわからない表情で振り向いた。
「神保町っていうのは古本屋街だぞ」
「うん。街の名前は聞いたことあるけど、行ったことは一度もないんだ。だから一緒に連れて行ってよ」
「本屋は複数で行っても意味がないぞ」
 その声は、困惑しているというよりあきらかに迷惑そうだ。
 斜向かいの席で『切腹―悲愴美の世界』を読んでいた神谷が顔を上げた。
「いいじゃん、連れてってやれば。一回行けば次からはひとりでも行けるようになるし」
「神谷さん、ナイスフォロー」
 神谷の助け舟のおかげで、一威は中也に同行することを許された。
 神保町は学校の最寄の駅から都営地下鉄に乗って五つ目だ。中也は通学にこの路線を使っているらしく、定期券で改札を通過した。一威は慌てて乗車券を買って、彼のあとを追い駆けた。
 ホームに下りると、タイミングよく電車が到着した。それに乗り込むと、なんと中也はおもむろに鞄から文庫本を取り出し、微塵の迷いもなく読書を始めた。
 それは一種のカルチャーショックだった。一威にとっては考えられない行為だ。目の前に連れがいるのに、まるでひとりで電車に乗っているかのように、ごく自然に本を読み始めたのだ、この男は。もしも一威だったら、携帯電話のメールチェックぐらいはしたとしても、間をもたせるために相手に話しかけるくらいの気遣いはするだろう。図書室でしか中也と話をする機会のなかった一威としては、せっかくふたりで電車に乗っているのだから、本以外の会話のひとつもしてみたかった。
 おそらく俺のことは車内吊りの広告程度にも認識していないに違いない。
 そう思うと、腹が立つよりも悲しくなってくる。地下鉄の轟音の中、一威はひとり痛い沈黙に耐えた。
 驚いたことに、あれだけ読書に集中していた中也は、電車が神保町の駅に滑り込むと、乗り過ごすことなく文庫本を閉じて電車を下りた。車内アナウンスはちゃんと聞こえていたらしい。
 中也のあとについて改札を抜けると、A7の階段を上った。地上に出て少し歩けば、そこは靖国通と白山通が交わる大きな交差点だった。
 中也は靖国通の南側の歩道を指差した。
「これをまっすぐ行ったところに三省堂や書泉といった大型書店がある。そのあたりからずっときて白山通の向こうまでが古本屋街のメインストリートだ。一本裏のすずらん通とかさくら通とか、その間の路地にも古本屋がたくさんあるから、目当ての店は自分の足で探せ」
 早口で驚くほど大雑把に説明を終えると、中也は「じゃ」と片手を挙げ、さっさと歩いて行ってしまった。
 一威はひとり、人ごみの中に取り残された。
 今、自分の置かれている状況をなんとか呑み込んでから、一威は心の中で叫んだ。
 なんだそりゃ。
 
 
 
 
 
「へえ、昨日は放置プレイで楽しんだのか」
 心の底から愉快そうに笑う神谷を、一威は恨めしげに睨みつけてから、大机に突っ伏した。
「笑いごとかよ。あの人、変人でしょ。じゃなきゃよっぽどのひとでなしだ」
 もちろん一威としても、中也と仲よくお手手を繋いで古本屋街を歩きたかったわけではない。けれど、楽しくおしゃべりをしながら中也の行きつけの本屋を案内してもらったり、歩き疲れたらどこかでお茶でもしたり、そんな当たり前なことを期待してなにが悪いのだ、とは思う。それを、あろうことかでっかい交差点の前で放り出されたのだ。あのあと一威はどっちに歩き出したらいいのかわからず、結局一軒も本屋を覗かずに駅に戻ったのだ。
「だから言ったじゃん。あいつは活字依存症だって。本以外のことには気がまわらないし、本屋を前にするとほかのことは見えなっちゃうんだ」
「要するに、病気だと思って諦めろっていうこと?」
「聞こえているぞ」
 一威が神谷に愚痴をこぼしている席のすぐ後ろのカウンターから、病気でひとでなしの中也が牽制球を投げてきた。それを神谷が打ち返す。
「わざとおまえに聞かせてるんだよ」
 中也はため息をついた。
「神谷、用がないなら帰れよ。今日は当番じゃないだろ」
「ふん。オレだっておまえらにかまっていられるほどヒマじゃないんだよ」
 神谷は『残酷物語』を鞄にしまい、あっさり図書室を出ていった。それを見届けてから、中也は小さな声で一威の背中に語りかけてきた。
「おれは普通じゃない。それは自覚している」
 一威は緊張した。
「でもおまえは普通だ。おれと神保町を歩くより、女の子と渋谷を歩くほうが似合ってる」
 普通だとか、普通じゃないとか、一威はそんな話がしたいわけじゃない。けれど、どう話したらいいのかわからなくて、机に顔を伏せたまま黙っていた。
「おまえはおれを差別の目で見ないし、おれの薦める本を素直に読んでくれるから、もしかしたら友だちになれるかもと思って浮かれてたんだ」
 その言葉に一威は驚いた。いつの中也もとても浮かれているようには見えなかった。それどころか、一威に対して親しげな態度をとったことなど一度としてなかった。そこからどうやって中也の好意を汲み取れというのだ。
「でも、おれはこんなだし……おまえを不快にさせるだけだ。最初から無理だったんだよ。だから、もうここに来なくていいよ。おれはもともとひとりだし」
 その最後の一言に、一威は傷ついた。
 自分をひとりぼっちだという中也の無神経さが、腹立たしくて、悲しかった。
 それから、神谷の言葉を思い出した。以前、一威が神谷と中也の仲のよさを指摘したとき、神谷は少し寂しげに「そう見えるならおまえの目は節穴だな」と笑った。あの言葉の意味がようやく理解できた。
 一威は立ち上がり、カウンターを挟んで中也に詰め寄った。
「あんた、なんにもわかってないんだな」
 神谷のことなのに、なぜだか自分のことのようにむきになってしまう。
「あんたのことが好きで、あんたのことを心配している人間が、いつもそばにいるだろう。それがわからないあんたは、平気で自分をひとりぼっちみたいに言う。そんなの、無神経を通り越して傲慢なだけだ。自分から他人に関わろうとしないで、なにが付き合ってくれなくていいよ、だよ」
 図星を衝かれたせいか、中也の顔がわずかに紅潮する。
「おまえになにがわかるっ」
「うるせぇ。漱石でマスでもかいてろ」
 怒りに任せて、一威はどすどすと床を踏み鳴らしながら図書室をあとにした。
 そして、下駄箱の前で革靴に履き替えるころには、すでに後悔し始めていた。





第6話につづく


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誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
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慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
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一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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