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単調な作業というのは、人から思考力を奪う。なにも考えずに、ただ同じことを繰り返していればいいのだから。
 ビリビリ。
 加えて窓から射し込む五月の終わりの暖かな陽射しが、鈍くなった頭をさらに溶かしていく。しまいにはなんでこんなことを繰り返しているのかすら忘れてしまう。
 ビリ。
「俺はダメな人間になりつつある」
 ビリビリ。
佐島、それ以上ダメになってどうするよ?」
 前の席の石川が、一威の独り言を聞きつけて振り返った。机に広げたノートの上には、小さな紙片が堆い山をなしている。彼はそれを見つめてため息をついた。(
)
「おまえは今でも充分ダメだから」
 その言葉に遠慮はない。
 石川とは中学校は別だったが、受験のために親に行かされた予備校の夏期講習で顔を合わせるうちに、なんとなく気が合って友だちになった。志望校が同じであることは知っていたが、まさか同じクラスになるとは思ってもみなかった。
「そうかもね」
 千切るものがなくなると、一威は再び机の中を掻きまわし、いらなくなったプリントを引っ張り出した。
 ビリビリ、ビリビリ。
 本日最後の授業の現国は、講師が風邪で休んでいるため自習となった。もはや生徒たちの心は下校準備を始めていて、一威でなくともやる気など起きるわけがなかった。
 しかも、自習内容は「短歌を詠むこと」。なにかにつけてすぐに短歌を詠みたがる若い女性講師の趣味丸出しの課題だ。
「なあ、短歌って五・七・五?」
「それは俳句。短歌は五・七・五・七・七だろ」
「短歌なんかジジイになってからでいいよ」
 サル並の知性しか持ち合わせない思春期の男どもに短歌を詠ませようというのは、どだい無理な話のだ。
 突然、お調子者の田村がオカマのような甲高い声を張り上げた。
「まずは羞恥心を捨てなさい。心を裸にするのよ~」
 石川は顔を歪めた。
「なにそれ」
「ユキちゃんの真似」
「ああ、そういやぁそんなこと言ってたな」
「似てるよ」
 友人におだてられて気をよくした田村が、さらに調子に乗ってくる。
「ほら、恥ずかしがることはないのよ~」
「やめろ、気色悪い」
「でも似てる」
 盛り上がるクラスメイトを横目に、石川がぼそりと呟いた。
「あの先生はただの腐れおたくだよ」
「ああ、短歌おたく?」
 一威は適当に相槌を打ちながら、プリントを細かく千切り続ける。そのうちにノートの上では手狭になり、制服のグレーのブレザーを広げてそこに紙片の山を移した。
「短歌おたくってどういうんだよ。そうじゃなくて、あの女は俺らみたいな生徒というか、男子校そのものが好きなんだよ。知ってるか? あいつの部屋にはここの制服が飾ってあるって噂」
「噂だろ?」
「でも、火のないところに煙は立たない。みんなあのかわいい顔に騙されてるけど、あの女はヤバいぞ」
 どこからそんな情報を仕入れてきたのか、石川は確信ありげに断言した。
「もしかしたら、隠し撮りとかもやってるかも」
「あ、」
「あって、もしかしておまえもう撮られたのか?」
 石川が身を乗り出してきた。ストライプの地模様の入った臙脂色のネクタイが触れて、紙片の山が少しだけ崩れる。それを直しながら一威は首を横に振った。
「そうじゃなくて、紙がなくなった」
 緊張感のない一威の返答に、石川はがくりと頭を垂れた
「……じゃあ、これやるよ」
 そう言って石川は自分の机の中から二つ折りの紙を出した。両面印刷されているそのプリントには『図書室だより』とあった。
「なにこれ」
「図書委員会が月イチで発行してる広報だよ。おまえ、図書室行ったことないのか?」
「うん」
 それどころか、入学してもうすぐ二ヶ月になろうというのに、図書室がどこにあるのかも知らなかった。
「現時点で図書室に行ったことのないヤツは、きっと卒業するまでずっと行かないな」
「そうかもね」
 たしかに自分には縁のない場所だと思いつつ、なんの気なしに『図書室だより』を開いて眺める。そこには先月の図書室利用者数や貸し出した本の冊数の学年別のデータや、人気の本や新しく入荷した本などの紹介記事があった。そして最後の囲み記事では、今月のお薦め本と称して夏目漱石の『こころ』を取り上げていた。
 それは全国のほとんどの高校生が学校の授業で習うような有名な純文学作品で、一威のクラスも本来なら今日からその単元に入るところだった。しかし、教科書には抜粋された一部分が掲載されているだけで、それを読んだだけではこの作品のおもしろみがいまひとつわからない、とユキちゃんは嘆く。全体を通して読むには、図書室なり書店なりに出向き、自分でその本を手に取らなければならないのだが、一威としてはおもしろみがわからないところで一向に困ることはない。要は試験用の模範解答だけ押さえておけばいいのだ。
 だが、世の中には本好きの人間もたくさんいる。この推薦文を書いた者も、きっと本が好きなのだろう。そういう種類の人間が、教科書で読むと眠くなるようなこの小説をどうやって他人に薦めるのか、少しだけ興味が湧いた。
「なに、千切んないの?」
 『図書室だより』を読んでいる一威に、石川は意外そうな顔をする。
「うーん」
 生返事をしながら、一威は紙面の細かい文字を目で追い続ける。
 そのとき、唐突に違和感を感じた。
「あれ? なんだ……?」
「どうした?」
 石川が『図書室だより』を覗き込む。
「いや……でも……なんだろう。この文章、なんか気持ち悪い」
「ええ?」
 一威の手から『図書室だより』を奪い取ってから、石川は「どこ?」と訊いてきた。一威が問題の『こころ』の推薦文を指差すと、彼はその文章に素早く目を通して、合点がいったように笑った。
「これ、全部五・七調で書かれてるんだ。妙にテンポがよすぎて、かえって不自然な感じがしたんだろう」
「五・七調?」
 それは今まさにクラス中のみんなが苦戦している課題だ。
「五・七・五だけで文章を書いてるの?」
「五・七・五だったり、五・七・五・七・七だったりしてるけど、とにかく全部五・七調で揃えてるね。それにしても、これを書いた人間はふざけてるのか真剣なのかわからないヤツだな」
 それは一威も思ったことだ。この小説は内容としてはかなり重いはずなのに、五・七調のリズムのせいかやけにノリが軽い。そのくせわざと古臭い言いまわしを使ったりしている。しかも、文章の端々に毒がある。
「あ、名前が書いてある。大林秀雄だって。石川、知ってる?」
「いや。でもきっとこの大林ってヤツは、相当性格が捻じ曲がってるか、文学おたくだよ」
 その言い草に一威は苦笑した。
「石川はおたくを目の敵にしてるね」
 痛いところを衝かれたのか、石川はバツが悪そうに白状する。
「前に付き合ってた彼女がアイドルおたくだったんだよ。ああいう人種とは一生わかり合える気がしない」
「あらま」
 こざっぱりとした外見に似合わず、意外と根に持つタイプらしい。
「俺のことより、おまえはどうなんだよ。この前駅で告ってきた女子校の子とはどうなっってんだ?」
「ああ、あれね。何回かデートしたけど、つまんないってフラれた」
「早っ。この二ヶ月でもう三人目だろ?」
「うん。俺はよっぽど退屈な人間らしい」
 179センチの身長に均整のとれた体型。甘すぎず男臭すぎず、ほどよい按配に整った顔は、年上年下に関わらず女の子の受けがいい。いつだって付き合ってくれと言ってくるのは女の子のほうだ。そして、別れを切り出すのも。
 退屈。
 なにを考えてるのかわからない。
 あたしのこと好きじゃないんでしょ。
 顔がよくてもね……。
 みんなそういって離れていく。そういえば「なにが楽しくて生きてるの?」なんて訊かれたこともあった。今考えるとひどい言われようだが、本当のことだから反論もできない。むしろ、彼女たちを本気で好きになれなかった自分はやはりどこかおかしいのではないか、と不安になってくる。
 無趣味、無気力、無感動。それが佐島一威という人間だ。ユキちゃんや大林秀雄とは対極の世界に住んでいる、取るに足らない人間だ。だからといって、人生を後ろ向きに歩んでいるわけではない。ないものをないと自覚したうえで、仕方なく無益な毎日を送っているのだ。石川はああ言うが、なにも持たない一威から見れば、おたくは立派に「持つ者」なのだ。
「俺は持たざる者、か」
 おもむろに一威は立ち上がった。紙片が山積みになっているブレザーの端を両手で持ち上げ、そろそろと窓辺に移動する。
「おい、なにするんだ?」
 そう訊ねながらも、石川の表情はあきらかに次に起こることを予測していた。
 呆れたふうの石川ににっこりと微笑むと、一威は窓の外に両腕を突き出してブレザーを一気に翻した。
「ほら、春の雪だよ」
 無風の中、紙吹雪ははらはらと舞い降りて、アスファルトの中庭を白く染めた。





第2話につづく


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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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