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「宵藍っ、無事かっ」
 宿舎のケアルームで湖緑の処置を受けていると、アオギリが血相を変えて飛び込んできた。
「アオギリ、どうしたの?」
 呆気にとられながら訊ねると、アオギリは怒ったように訊き返してくる。
「それはこっちのセリフだ。怪我の具合はどうなんだ?」
「たいしたことないよ。ただの擦り傷だ」
 腕の大きな絆創膏を見せて、アオギリを安心させるために微笑むと、横から湖緑が口を挟んできた。
「今回はたまたま運がよかっただけです。下手したら、選手生命どころか命をも落としかねません」
「事故って、一体なにがあったんだ?」
 おそらく仲間の誰かがアオギリに知らせたのだろう。宵藍が事故に遭ったと聞いて、慌てて戻ってきたようだった。
「いや、事故っていうか……」
 宵藍が言いにくそうに口籠ると、そのあとを湖緑が引き継いだ。
「バイクのトラブルですよ。ブレーキがきかなくなったんです」
「なんだって? おまえ、走る前にちゃんと点検しなかったのか?」
「したよ。そのときは異常なかったんだ」
「点検したあと、バイクから離れませんでしたか?」
 湖緑に言われて思い出した。
「あ、そういえば牙黄に呼ばれて少しの間だけ……」
「牙黄ねぇ……」
 そう呟くと、湖緑は器用そうな指で眼鏡を押し上げた。
 牙黄は控えの選手で、宵藍とはそんなに接点がないため、あまり話すことがなかった。だから逆に記憶に残っていた。
「じゃあ、そのときでしょうね」
 宵藍には、湖緑がなにを言っているのかわからなかった。
「なにがそのときなの?」
「誰かがブレーキに細工をしたんです」
「まさかっ」
 信じられなかった。ブレーキに細工をするなんて、ロードレーサーにはあるまじき行為だ。湖緑の言うとおり、死ぬ可能性だってあるのだ。バイクに乗る人間なら、それくらいの認識は持っているはずだ。
 すなわち、犯人はそれだけ宵藍を憎んでいるということだ。
 怒りのためか、それとも恐怖のためか、今更ながら足元から震えが這い上がってくる。
「バイクを調べてみればわかることですよ。おそらくやったのはここのメンバーの中の誰かでしょう。身に覚えはありませんか? 喧嘩とか、恨みをかうようなこととか」
 宵藍には思い当たる節があった。
 アクセルロディなら、おれを憎んでいるに違いない。
 そして、すぐに思い直す。
 いや、口に出さなくとも、おれがエースを張ることに賛成していない人間がいることは空気でわかる。むしろ、おれを認めてくれている人間のほうが圧倒的に少ないに違いない。
「身に覚えがありすぎる」
 宵藍の返答に、湖緑は声をあげて笑った。
「顔に似合わず勇ましいですね」
 宵藍は苦笑いするしかなかった。
 ふと、アオギリの様子が気になった。彼は途中から押し黙ったまま一言も発していない。
「アオギリ?」
 見上げると、アオギリは幽霊でも目撃したような顔で呆然と立ち尽くしていた。
 宵藍はもう一度呼びかける。
「アオギリ、どうしたの?」
 ようやく我に返ったアオギリは、なぜか宵藍の視線をかわすように目を逸らした。
 てっきり自分を心配してくれているものと思っていた宵藍は、アオギリの反応に悲しくなった。昨夜の自分の発言が2人の関係を一層悪化させてしまったのだと思うと、あの瞬間に時間を巻き戻して、自分の口を塞いでしまいたかった。
「とりあえず、この件は僕に預からせてください。それから、ブレーキの細工のことはほかのメンバーには伏せておくように」
「でも……」
「大丈夫。尻尾はもう掴んでるんです」
 まるで犯人の目星がついているような口ぶりの湖緑に、今回は素直に従うことにした。
 宵藍はケアルームを出ると、まっすぐ部屋に向かった。そのまま夕食の時間になるまで引きこもった。誰にも会いたくなかった。
 アオギリとはケアルームの前で別れた。トレーニングに戻ったのかもしれないし、そうではないかもしれない。
 アオギリを信じるだけの気力が、宵藍にはもう残っていなかった。そしてこのとき初めて、パートナーを解消するという選択肢を本気で意識した。
 夕食のテーブルについても、目の前にいるアオギリの顔を見ることができない。
「宵藍、大丈夫なのか?」
 宵藍の腕の白い絆創膏を見て、ハイタカが心配そうに声をかけてきた。
 違う。彼は犯人じゃない。
 ハイタカだけは信用してもいい、信じたい、と思った。
「かすり傷だよ」
 すると、ほかのメンバーも次々に質問してくる。
「え、落車したのか?」
「怪我したの?」
「レースには出られるのか?」
 ひと通り質問が終わるのを待ってから、宵藍は口を開いた。
「ぼんやりしてて、石畳の溝に前輪をとられたんだ。腕と膝を少し擦り剥いただけだよ」
 自分の声が、他人の声のように遠くに聞こえる。今、自分がどんな顔をしているのか、宵藍にはわからなかった。
 それでも、ここで席を立ったら負けだと自分に言い聞かせ、宵藍は平静を装って食事を続けた。
 食べ終えてからも、みんなすぐには部屋には戻らない。広間に残って閑談したり、レースのVTRを観たりして、思い思いに寛いでいる。宵藍も残り、壁際のソファに座って雑誌を読んでいた。いや、読んでいるふりをして、周囲の様子を窺っていた。この中に、宵藍のバイクに細工した犯人がいるかもしれないのだ。
 そうしているうちに、なんの前触れもなくユルエンシスがやってきて、アオギリと浅葱を呼びつけた。そのまま2人を伴って、彼は宿舎を出ていった。
 部屋の中がざわめき立つ。
「ねえ、あの2人はどこへ連れて行かれたんだと思う?」
 ウツギが蘇芳に訊ねると、蘇芳はあまり気がなさそうに答えた。
「さあ……監督のところじゃないの?」
 彼はハイタカ絡みでないときは大抵こんな感じだ。
 蘇芳とは対照的に、なにが起こっているのか気が気でないアクセルロディは、興奮気味に部屋の中をぐるぐると歩きまわる。
「もしかしてあのコンビ復活するのか? オレのエース昇格はどうなるんだ?」
「ロディじゃなくて、宵藍がどうなるのか……」
 はっと口に手を当てて、ウツギは宵藍の様子を窺った。
「あ、いや、そうと決まったわけじゃないし」
 ウツギが慌てて取り繕う。
 気を遣われているのだと思うと、宵藍は急に情けなくなってきた。これ以上みんなの視線に晒されることに耐えられず、無言のまま広間をあとにした。
 部屋に戻ると、宵藍はベッドに潜り込んで瞼を閉じた。
 もう眠ってしまおう。眠ってしまえば、なにも考えずに済む。
 けれど、すぐに眠れるわけもなく、宵藍の意識は波のように、遠くへ近くへと漂っていた。





第10話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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