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創作BL小説ブログ
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 あれからアオギリと浅葱の動きが気になって、宵藍の集中力は低下気味だった。トレーニングルームや広間や廊下で2人の姿を見かける度に、動悸が激しくなる。過酷なレースやトレーニングに耐えるだけの心肺機能をもってしても、精神的な不安からくる動悸をコントロールすることは難しかった。
 だが、今はこんなことで悩んでいる場合ではない。次のレースが近づいてきているし、そのあとにはツアー・オブ・Nシティが待っているのだ。
  宵藍は雑念を振り払うように、がむしゃらにトレーニングに打ち込んだ。
  その日もロードに出ていた宵藍は、昼過ぎから雨に降られた。少しぐらいの雨ならそのままトレーニングを続行するが、雨脚は次第に強まり、視界もおぼつかなくなってくると、やむなく宿舎に戻ることにした。
 工房のサカキにバイクを預けて、脇の通用口から宿舎に入る。宵藍が歩いたあとに、小さな水溜りが点々と続く。
 トレーニングルームの前に差しかかると、開けっ放しのドアの中から数人の会話が聞こえてきた。
「まだ戻ってないやつがいるのか?」
 パンデュロの声だ。年長者らしく仲間の心配をしているようだ。
「さっきハイタカが帰ってきたから、あとは宵藍だけだと思います」
「えっ、この土砂降りの中まだ走ってんの?」
「彼、最近ちょっとおかしくない? 無理してるというか」
「ウツギもそう思うか? 昨日ハイタカも言ってたよ」
「べつにいいじゃん。自滅でもなんでも勝手にしてくれ。そしたらオレがエースだ」
「ロディ、またそんなことを……」
 パートナーを窘めながら、ウツギが戸口のほうを振り返った。
「あっ」
 ウツギの声に、その場の全員が宵藍を振り返る。その中にアクセルロディの顔を見つけ、宵藍は冷ややかに言い放った。
「俺が自滅しても、アオギリがエースに戻るだけだと思うけどね」
 水を打ったように静まり返ったトレーニングルームに背を向け、宵藍は階段へと歩き出した。
 言いたいヤツには言わせておけばいい。
 もしもアオギリがそばにいたら、そう言っただろう。しかし、近頃では食事の時間ぐらいしか顔を合わせることがない。夜もアオギリは就寝時刻ぎりぎりになるまで部屋に戻らないことが多い。
 わずかに緊張しながら部屋のドアを開けると、やはりそこにアオギリの姿はなかった。寂しいようなほっとしたような複雑な感情は、すぐにある疑念によって掻き消えた。
 また浅葱と一緒なのだろうか。
 湖緑はあんなことを言っていたが、あれは自分を安心させてエースとしての仕事に集中させるための方便だと、宵藍は解釈している。もしも湖緑の見解が正しいのならば、アオギリはエースである宵藍を放っておくことはしないだろう。けれど、彼は彼で浅葱のことに気をとられているらしく、宵藍を気遣う様子はない。
 きっと浅葱のことで手一杯なんだ。
 ぞくり。
 背筋を悪寒が走った。
「やばい、冷えた」
 宵藍は着替えとタオルを持ってシャワールームへ急いだ。
 トレーニングの上がり時間には利用者が集中し、順番待ちをしなければならないが、今日みたいな日はみんなばらばらに戻ってくるので、待たずにシャワーを使うことができる。とはいえ、エースである宵藍が待たされることはないのだが。
 脱衣所で濡れたレーシングジャージを脱いでいると、奥で水音が聞こえた。誰かがシャワーを使っているのだ。一瞬、入るのを躊躇ったが、これ以上身体を冷やしては明日のトレーニングに差し支える。宵藍は腹を据えた。
 それは壁に5つ並んだシャワーを間仕切りで仕切っただけの簡素な造りで、目隠しの扉もない。だから、奥から2番目のシャワーを使っているのがアオギリでないことがすぐにわかり、宵藍はほっとした。
「今まで走ってたのか?」
 ハイタカが宵藍に気づいて声をかけてきた。宵藍はその場の流れで彼の隣に入った。
「うん。視界がやばくなってきたから中断した」
 肩に届く灰色がかった黒髪を、ハイタカはいつもきっちり一本に結っている。髪を下ろしているところを見られるのはシャワーのときだけなので、宵藍はいまだに見慣れない。そのためついつい目がいってしまう。
 クライマーのハイタカはチーム内で一番小柄な選手だが、その名のとおり猛禽を思わせる鋭い目つきと、隙のない身のこなしが、彼に独特の存在感を与えていた。
 宵藍の視線に気づいているのかいないのか、ハイタカは普段と変わらない淡々とした口調で話しかけてくる。
「ついさっきまで走ってた俺が言うのもなんだが、もう少し早めに切り上げろよ。こんな天候でもしつまらない事故なんか起こしたら、チームに迷惑がかかる」
 宵藍は目を瞬いた。
「もしかして……心配してくれてるの?」
 それには答えず、ハイタカは続けた。
「それから、なにを悩んでいるかは知らないが、それをトレーニングやレースに持ち込むな。命取りになるぞ」
 宵藍より2つ年上なだけのハイタカは、ずいぶんと高圧的な口をきく。それは誰に対しても変わらない。だからこそ、ハイタカの言葉は信用できる気がした。
「……うん」
 素直に頷くと、ハイタカはシャワーを止めて脱衣所へ歩き出した。その背中を慌てて呼び止める。
「ハイタカ」
 ハイタカが無言で振り返った。
「その……ありがとう」
 照れ隠しなのか、ハイタカは髪を掻きあげながら行ってしまった。
 ハイタカのわかりにくいやさしさすら、今の宵藍の心には深く沁みる。
 そうだ。しっかりしなくちゃ。エースであるおれが揺らいでいたら、チーム全体に迷惑がかかる。
 宵藍は迷いを洗い流すため、熱いシャワーを頭から浴びた。
 シャワーのあと、湖緑のマッサージを受けてから部屋に戻ると、宵藍はベッドに仰向けになった。ハイタカとシャワーと湖緑のマッサージのおかげで、ここ数日間混乱し続けていた頭の中が、幾分すっきりと片づいた気がした。
 自分のやるべきことはわかっている。エースとしての責務をまっとうすること。そして、シン・シティに入ること。
 アオギリがなにを考えていようと、今は宵藍のアシストなのだ。彼を信じて走るしかない。
 それでも、浅葱のことは気になった。バーミリオンが言うように、よそのチームの監督と接触しているとなると穏やかではない。監督かマネージャーに報告するべきかもしれない。
 しかし、もしもそれにアオギリも関わっているとしたら、と考えると、なかなか踏ん切りがつかなかった。
 そのとき、ドアが開いてアオギリが入ってきた。
 宵藍は平常心を保とうと努力した。
「おかえり」
 聞こえていないはずはないのに、アオギリは返事もせずにベッドへ倒れ込んだ。そのままぴくりともしない。ここまで疲れきった様子の彼は珍しい。
 宵藍はおずおずと声をかけた。
「疲れてるみたいね。……なにかあった?」
 浅葱と、とは訊けなかった。
「なぜそう思う」
 反対に問われて宵藍は慌てた。
「え、いや……最近なんだか様子がおかしいみたいだから……」
 アオギリは宵藍の顔を見ずに、低く言い放った。
「おまえには関係ない」
 避けられていると薄々は感じていたが、はっきり言葉にして言われると、かなりショックだった。悲しみにも似た怒りが沸々と湧いてくる。
「関係ないって……それじゃおれはアオギリのなんなの? おれと組みたくないなら、監督にそう言えばいいじゃないか」
 言うなり宵藍は部屋を飛び出した。
 アオギリを信じようと、ついさっき心に決めたばかりだったのに、自分の感情をうまくコントロールできない。
 アオギリに誘われて遠乗りに出かけたあの日、たしかにアオギリとの間に特別な空気を感じた。けれど、すべては遠い過去の記憶のように色褪せていく。
 
 
 その晩、宵藍は夜中に目を覚ました。隣のベッドに視線をやると、そこにアオギリの姿はなかった。ひどく胸騒ぎがして、宵藍はアオギリを探しに部屋を出た。
 暗い廊下に、一筋の細い明かりが伸びていた。浅葱の部屋からだ。
 足音を忍ばせて、静かに浅葱の部屋に近づいた。予想していたことではあったが、中からアオギリの声が聞こえてくると、宵藍は胸が苦しくなった。
 けれど、どうも様子がおかしい。2人はなにやら言い争っているようだった。アオギリの押し殺した声が宵藍の耳に届く。
「――には手を出すな」
「そんなに大事? 自分がエースになることよりも?」
「……ああ」
「じゃあ、僕はどうなるんだ。僕はこれまできみのためにすべてを投げ打ってきたのに」
「浅葱には感謝している。俺には最高のアシストだった」
「だったらもう一度……」
 いやだ。聞きたくない。
 宵藍はそろそろと後退ると、身体を反転させた。部屋に戻ってベッドに飛び込む。耳に残った2人の声を振り払うように、宵藍は頭からブランケットをかぶって身体を丸めた。





第9話につづく                                       にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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