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 レースのない日、〈プロキオン〉の朝は7時に始まる。炭水化物中心の驚くほど高カロリーな朝食を摂る。それからバイクの点検やウォーミングアップをしながら、摂取した栄養がエネルギーに変わるのを待つ。すべての準備が整ったらロードに出て、10時から午後の3時、もしくは4時までひたすらペダルを踏み続ける。昼食は走りながら補給食で摂る。
 トレーニングの内容としては、従来は筋力アップのための高負荷のトレーニングや筋収縮速度アップのための高回転トレーニング、有酸素運動能力の向上を図る長距離ランなどが主だった。HRトレーニングを導入してからは、有酸素運動から無酸素運動にシフトするATポイントでの耐久力を上げるAT・HRトレーニングや、無酸素運動能力を向上させるMAX・HRトレーニングなどを取り入れている。
 レースまでの期間や状況、目標、その日のコンディションに応じて、これらのトレーニングを組み合わせて行う。当然のことながら、メニューの内容は選手によって異なるし、ロードに出られないほどの天候であれば、室内でのトレーニングとなる。
 トレーニングを終えて宿舎に戻ると、疲労回復のマッサージを受ける。脚だけでたっぷり40分はかける。
 夕食は7時。炭水化物やたんぱく質、ビタミン、ミネラルなどをバランスよく摂取できるよう、いつもナズナが心を配ってくれる。
 夕食のあとは一日の中で唯一の自由時間だ。広間で仲間と談話したり、自室で過ごしたりしてリラックスする。そして10時にはベッドに入り、翌朝の7時まで充分に睡眠をとる。眠るのもプロの仕事のうちだ。
 Nシティには11のプロチームと、さらに多くのアマチュアチームがある。だからロードに出ると、よそのチームの選手と一緒になることも多い。レースではライバルだが日頃は気の合うバイク仲間、ということも少なくない。チーム内のようなしがらみがない分、気楽な部分もある。宵藍にとって〈アルタイル〉のバーミリオンがまさにそれだった。
 その名のとおりバーミリオンの髪は朱色で、ゆるくウェーブがかかっている。宵藍はアマチュア時代に初めて彼を見たとき、まるで炎のようだと思った。しかも、イメージどおりに勇猛果敢な走りをする。けれど普段の彼は人懐こく、人好きのするところがある。おかげで、人見知りの気がある宵藍もすぐに打ち解けた。エース同士のため、ある程度互いの気持ちを理解することもできた。
 この日、トレーニングのために山岳コースに向っていた宵藍に、バーミリオンがバイクを並べた。
「おはよう。宵藍も今日はヒルクライム?」
 宵藍は笑顔で答えた。
「なんだ、バーミリオンも? エンジュは一緒じゃないの?」
 エンジュはバーミリオンのアシストだ。
「あいつは特別強化メニュー。この間はアオギリにしてやられちゃったからね」
 先日のレースで、エンジュはアオギリと宵藍のアタックに反応しきれず、バーミリオンは単独で2人を追わなければならなくなった。結果、無念の3位だった。それでも総合ランキングでは宵藍と並んでいる。宵藍のツアー・オブ・Nシティ優勝を阻む者があるとすれば、おそらくこのバーミリオンだろう。2人はよき友であり、ライバルであった。
「そんなことより、オレちょっと気になるものを見ちゃったんだ」
 バーミリオンは周囲を見まわし、そばに誰もいないことを確認すると、宵藍に聞き取れる程度の声で言った。
「宵藍のチームの浅葱ってヤツが、うちの監督の家に入るのを見たんだ」
 宵藍は訝しげに眉根を寄せた。
「まさか。見間違いじゃないのか?」
「エンジュも一緒に見てたから間違いない」
 それが本当だとしたら、一体なんのために〈アルタイル〉の監督宅を訪ねたのだろうか。
 そのときバーミリオンが意外なことを口走った。
「オレ、あいつ嫌い。顔が笑ってても目が笑ってないんだもん」
 バーミリオンは好き嫌いがはっきりしている。本能的に自分と馬が合う相手、合わない相手を嗅ぎ分ける。
「浅葱ってアオギリがエースだったときのアシストだろ? 宵藍は彼になにもされてない?」
「どういうこと?」
「オレも宵藍と似たような立場だったから、けっこう風当たりが強かったんだ。露骨に嫌がらせしてくるヤツもいたよ。まあ、オレが力で捩じ伏せたけどね」
 バーミリオンは腕に力瘤を作って見せて笑った。
 つられて宵藍も笑う。
「バーミリオンらしいね。おれのほうは今のところなにもないよ」
「ならいいけど……」
 本気で心配してくれているバーミリオンに、宵藍は心の中で礼を言った。


 トレーニングを終えて宿舎に戻ると、庭でハイタカたちがストレッチをしていた。
「アオギリはもう戻ってる?」
 宵藍の問いに蘇芳が顔を上げた。
「ああ、さっき帰ってきたよ」
 シャワーを浴びるために、着替えとタオルをとりに部屋へ戻ると、ドアが少しだけ開いていた。中からアオギリのものではない声が洩れ聞こえてきて、宵藍はノブに伸ばした手を引っ込めた。
「……から、もう少し待っていてくれ。僕が必ずもう一度アオギリをエースにしてみせるよ。幸い、いい返事をもらえそうなところはいくつか見つけたんだ」
「浅葱、おまえがそんなことをする必要はない」
「大丈夫だよ。きっとうまくいく」
「浅葱、待てよ」
 浅葱のものらしき足音が近づいてきて、宵藍は慌てて階段の陰に身を隠した。部屋から出てきた浅葱が自室に戻るのを見届けてから、重い足取りで部屋へ向かう。
 さっきの会話はなんだったんだろう。今日、バーミリオンが言っていたことと、なにか関係があるのだろうか。
 宵藍が部屋の前で立ち尽くしていると、突然ドアが開いた。
「うわぁ」
 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「あ、悪い」
 アオギリは宵藍の声に驚いたようだった。
「おまえもこれからシャワーか?」
 宵藍はアオギリが腕に抱えているタオルと着替えに目をやった。
「あ、うん……」
 曖昧に頷きながら、宵藍は先刻の会話を思い出す。
 浅葱となんの話をしていたの?
 そう訊けるものなら訊いてしまいたかった。
 けれど、実は立ち聞きをしていました、とは言いにくいし、かつてパートナーだったアオギリと浅葱の関係を考えたら、自分が立ち入っていいようなことではないような気がした。
「先に行ってるぞ」
 そう言ってアオギリは下階へ下りていってしまった。何事もなかったかのように振舞うアオギリの態度が、まるで自分を部外者だと言っているようで、宵藍を苛立たせた。
 そっちがその気なら、絶対におれからは訊かない。なにがあってもおれには関係ない。
 強がってそう自分に言い聞かせてみても、あとに残るのは言い知れぬ不安と、一抹の寂しさだった。
「どうしたんですか? 顔色が悪いですね」
 シャワーのあとマッサージを受けるためにケアルームに顔を出すと、宵藍の顔をひと目見て湖緑は察した。
「どこか具合が悪いのですか? それとも心配事?」
 宵藍はマッサージ台に腰をかけたまま俯いた。湖緑は再び椅子に腰を下ろすと、子どもを諭すような声で言った。
「僕に相談にのれることがあれば聞きますよ。カウンセリングも仕事のうちですからね」
 しばらく逡巡した末、宵藍は湖緑に訊ねた。
「湖緑はいつからこのチームにいるの?」
「僕ですか? 僕はきみが来る少し前からですよ」
 意外だった。
「へえ、もっと長いのかと思った。じゃあ、その前はなにしてたの?」
「よそのチームにいましたよ」
 一瞬、眼鏡の奥の瞳が暗く光ったように見えた。
「アオギリがエースだった頃のことは知ってるよね?」
「まあ、少しはね。でも詳しいことまではわかりません」
「アオギリと……」
 乾いた唇を湿らせてから、宵藍は言葉を継いだ。
「浅葱は……どんなふうだった?」
「ああ」
 湖緑は宵藍の不安のありかを見つけたように、大きく頷いた。
「あの2人は確かに最強のコンビでしたよ。でもそれは、宵藍がやってくる前のことです。今は宵藍とアオギリがNシティで最強のコンビです」
 しかし、宵藍が訊きたかったことはそんなことではない。もっとメンタルな部分での2人の繋がりが知りたかった。
「アオギリは浅葱を信頼していた?」
「そりゃあね、自分のアシストですから。でも、僕の目には浅葱のほうが一方的にアオギリに気を遣っているように見えましたよ。アオギリはあのとおり愛想のない男だから、余計にそう見えたのかもしれませんけど」
「そうなの?」
 宵藍の知っているアオギリは、たしかに愛想がなくて無口だが、細やかな気遣いのできるやさしい男だ。自分に向けられるやさしさは、かつては浅葱に対して向けられていたものだと宵藍は思っていた。
「アオギリは……やさしいよ」
「ふうん。じゃあ、宵藍とは相性がよかったんですね。というより、彼はもともとアシスト向きの選手だったんじゃないでしょうか」
「え?」
「きっと収まるべきところに収まって、本領を発揮できるようになったんですよ」
 おれのために風除けになったり、ボトルや補給食を運んだりすることがか?
 湖緑の言葉はにわかには信じられなかった。エースとして何度も表彰台の中央に立ってきた彼が、実はアシスト向きだなんて。そんな都合のいい解釈をしてしまって、本当によいのだろうかと疑いたくなる。
 第一、さっき湖緑は詳しいことはわからないって言ってたじゃん。
 宵藍は心の中で突っ込みを入れた。
「そんなことより、きみはツアーで優勝しなければならないんです。今はトレーニングに集中しないと」
 そこで宵藍は違和感を覚えた。今度のツアー・オブ・Nシティでどうしても優勝しなければならないという話を、湖緑にしたことがあっただろうか、と。
 しかし、湖緑は単にエースとしての役目のことを言っているのかもしれない。
「では、そろそろ僕に仕事をさせてもらえますか?」
 そう言って湖緑が宵藍の身体を横たえ、マッサージを開始したため、その思考は宙に霧散してしまった。





第8話につづく                                       にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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