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創作BL小説ブログ
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 Nシティでは週末のたびにどこかでロードレースが開催される。協会が直接主催するレースばかりではなく、Nシティの実力者や有力な組織が主催するレースも多く、それぞれレースの特徴やコース、一チームの出走人数などが異なる。歴史の古い伝統的なレースもあれば、人気レーサーばかりを集めた興行的なレースもある。
 市民たちはこれらのレースに熱中する。一攫千金を夢見てその日のレースの優勝者を予想し、少ない食い代の中から車券を買う。勝てば当分の間は生活に困らない。
 レーサーも然り。プロになれば食うに困らない、と子を持つ親は口癖のように言う。プロのロードレーサーになれば、わずかだが家族への仕送りもできるし、レースで勝てば貯えもできる。だから、Nシティの子どもたちはロードレーサーに憧れ、スクラップの山で集めた部品を組み立てて作った自転車を乗りまわすのである。
「あっ、宵藍とアオギリだっ」
 塗装のばらばらな、見るからにお手製のバイクに乗った少年が、ゆっくり走る2人のあとを追って近づいてきた。
「一昨日のレースすごかったね。オレもいつかプロになって、宵藍と一緒に走りたい」
「うん、待ってるよ」
 宵藍が微笑むと、少年は顔を紅潮させて走り去っていった。
 久しぶりの調整日となった今日、宵藍はアオギリとツーリングに繰り出していた。レースではないので、2人とも藍色のチームジャージではなく、プライベート用のレーシングジャージを身に着けている。宵藍はモスグリーン、アオギリはメタリックグレーのジャージで、レーシングパンツは2人とも黒だ。
 アオギリの究極まで無駄を削ぎ落とした筋肉と褐色の肌には、鋼鉄のようなその色がよく似合う。今朝、身支度の最中に宵藍が見惚れていると、アオギリは「おまえは肌が白いからそういう色が似合うな」と言って宵藍を赤面させた。宵藍の髪の色を夜の空に喩えるならば、肌はさながら夜空に浮かぶ乳白色の月のようだった。
 今回のツーリングを提案してきたのはアオギリだった。ポジショニングを微調整したバイクの試乗を兼ねて遠乗りに出かけないかと言ってきたのだ。もともと久しぶりに実家に顔を出すつもりでいた宵藍は、途中で寄り道をしてもいいなら、と誘いに応じた。
 宵藍は自分の育った家を実家と呼んでいる。春藍とヒイラギは、宵藍を実の息子のように愛してくれた。彼らのひとり娘のイチイも、宵藍を兄のように慕ってくれている。だから、自分が春藍とヒイラギの本当の子どもではないと知ってからも、孤独を感じることはなかったし、彼らと暮らしたあの家が宵藍の帰るべき場所なのだと素直に思えた。
 春藍たちの家は、〈プロキオン〉の宿舎があるセントラル区から東北に位置するN区にある。N区は工業の町で、ヒイラギはそこでバイクの部品を製造する小さな工場を営んでいた。加えて、海藍がある程度まとまった金を残していたこともあり、ロードレースに打ち込めるだけの余裕と環境が宵藍には用意されていた。Nシティ市民の半数以上が貧困層である現実を考えれば、恵まれすぎているくらいだった。
 Nシティは5つの区からなっていて、総面積はシン・シティの10倍以上ある。セントラル区の北西に位置するシン・シティの裏側を取り囲むように、北から西にかけて険しい山々が連なり、東から南までは海に面している。つまりNシティは、山と海に挟まれた広大な土地の隅っこにシン・シティを抱いている格好になる。
 しかし、いくら広いとはいえ人が暮らせる土地は少なく、約3分の2を荒野や山岳が占めている。特に南部の砂漠化は深刻で、農業が主産業のS区では、年々拡大していく砂漠に危機感を募らせている。このままだと食料危機に陥る日も近いだろう。
 セントラル区からN区までは約1時間の道のりだった。灰色の工場が立ち並ぶ大通りには、工業用のオイルの匂いが漂っている。その匂いが懐かしくて、宵藍は大きく息を吸い込んだ。
「おまえの実家はどのあたりにあるんだ?」
 アオギリが訊ねた。
「東の外れだからもうちょっとだ。そこからさらに東に2時間くらい走れば海に出られるよ」
 けれど、今日は海岸線には出ない。まずは宵藍の実家に寄り、それからN区の北に連なる山々の、カテゴリーC級の山岳コースを軽く攻める予定だ。
 そのとき、2人の背後でけたたましいクラクションが鳴った。廃車の一歩手前といった風情のトラックが、黒煙を吐き出しながら通り過ぎていく。ガラガラと疲れたエンジン音が尾を引く。
 Nシティでは、化石燃料は限りある希少な資源だ。それを燃やして走る乗り物は、購入するのも維持するのも容易ではない。だからNシティを走る四輪自動車は、そのほとんどが輸送用の車両である。自家用車を所有しているのは、ほんの一握りの富裕層だけだ。ロードレースチームも、サポート用として自動車を持たなければならないが、スポンサーがいなければ到底無理な話だ。
 こうした事情から、物資の輸送にコストがかかる分、物価が高くなり、慎ましく暮らす市民の家計を圧迫する。Nシティとは、かように住みにくい町なのだ。
 シン・シティでは当の昔に化石燃料を使わない乗り物が開発され、一般化しているという話だが、その技術が壁の外にもたらされることは、まずありえない。Nシティはいわば進化の止まった愚鈍な巨大生物のようなものだ。残された時間をただ食い潰しているに過ぎない。進化し続けているであろうシン・シティとはまったくの別世界なのだ。共通するところといえば、ロードレースが盛んなことくらいである。
 大通りを東に折れると、道端で宵藍を呼び止める声がした。
「宵藍、帰ってきたの?」
 幼なじみのユズリハだった。宵藍はアオギリに合図してバイクを止めた。
「久しぶりだね。みんな元気?」
 宵藍が訊ねると、ユズリハは人懐こい笑みを浮かべた。
「うん。相変わらずだよ」
「ユズリハは仕事の途中?」
「うん、父さんの使いでね」
 それからユズリハは宵藍に顔を寄せた。
「ねえ、あの人ってもしかしてアオギリ選手?」
 宵藍はアオギリのほうをちらりと視線をやった。
「そうだよ」
「うわ、間近で見ちゃった」
 興奮気味のユズリハは、そわそわと落ち着きがない。
「待たせちゃまずいよ。もう行きなよ」
「う、うん。じゃあな」
 ユズリハに背中を押され、宵藍は再びペダルを踏んだ。アオギリも黙ってあとに続いた。
 通りをさらに進むと、宵藍たちは左に折れて細い道に入った。しばらく行くと、それまで連なっていた工場の高い屋根が途切れ、空が開けた。代わりに煉瓦造りの質素な家が建ち並んでいる。その一角の、鍵形に建つ平屋の前で宵藍はバイクを止めた。
「ここだよ。バイクは庭に入れて」
 宵藍はアオギリの先に立ってバイクを押していくと、「相変わらずだな」と呆れたように笑った。雑草だか花だかわからない草が伸び放題になり、庭の半分ほどを埋め尽くしていた。よく見れば、白や菫色の小さな花をたくさんつけているのがわかる。
「ただいま」
 大きな声で呼びかけると、家の中から若い女性がスカートの裾を翻して駆け出してきた。ゆるくウェーブした髪を弾ませ、勢いよく宵藍の首に飛びつく。
「おかえり、宵藍。そろそろ帰ってくる頃だと思ってたわ」
 宵藍は慣れた様子で春藍を抱きとめた。
「父さんは?」
「ヒイラギは工場、イチイは学校よ。あら、そちらの方は?」
「ああ、アオギリだよ。おれのパートナー」
 宵藍は首に巻きついた春藍の腕を解いて、呆気にとられているアオギリを振り返った。
「おれの母さんだ」
 余計な説明をせずとも、アオギリには宵藍の家の事情はすべて話してある。
 アオギリは驚いたように目を見開いた。
「若いな……」
 宵藍はいたずらそうな顔でアオギリを覗き込む。
「外見が? 中身が?」
 アオギリが生真面目に答える。
「いや……両方」
「いやん、うれしー」
 まるで少女のように喜ぶ春藍に、宵藍は苦笑した。
「これでも17歳の娘がいるんだよ」
「それから、21歳の息子もね」
 春藍はちょっぴり誇らしげに微笑んだ。





第6話につづく                                       にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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