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 食事を終えて部屋に戻ってきた宵藍は、2つ並んだベッドのうち、シーツが乱れたままのほうに仰向けに寝転んだ。きちんと整えられているほうはアオギリのベッドだ。身のまわりのことには無頓着そうに見えて、意外と几帳面な性格のようだ。
 じっと天井を見つめ、宵藍は湖緑の言葉を思い出す。
 天藍がシン・シティGPで3位。
 やはり天藍はシン・シティで走っていたのだ。宵藍と同じように。
 なんとしてもあの壁を越えて、天藍に会いたい。
 そのためにはツアー・オブ・Nシティで優勝し、年間個人総合ランキング一位を不動のものにしなければならない。
 毎年、総合ランキング1位の選手と、その選手が選んだ3人のアシスト――大抵は同じチームの選手――で構成する選抜チームが、シン・シティGPに招待される。そればかりでなく、このGPで上位入賞すれば、シン・シティのチームへの移籍が許され、シン・シティの永住権が与えられる。すなわち、裕福な暮らしが保障されるということだ。大抵の選手はシン・シティに憧れ、貧困から脱出するためにシン・シティGP出場をめざす。
 幸い〈プロキオン〉には大口のスポンサーがついていて、資金繰りに困ることはないが、Nシティの多くのチームは、バイクの部品1つ買うにも困っているのが現状だ。当然、勝負の世界ではなにが起こるかわからないものだが、どうしたって金のあるチームが強いチームということになってくる。
 突然、ドアが開いた。アオギリだ。
 宵藍は身体を起こした。
「おかえり。疲れはとれた?」
「ああ。おまえは?」
 アオギリは自分のベッドではなく、宵藍のベッドの前に立った。大きな手で宵藍の肩に触れてくる。湖緑のマッサージでは解れない心の緊張が、肩の筋肉を介してアオギリに伝わる。
「やっぱり、まだ緊張が残っている」
 宵藍は大袈裟にため息をついて見せた。
「そりゃあね。湖緑は終始レースや身体の話をしながらマッサージをするから、筋肉は解れても、気持ちまではリラックスできないよ」
 まだレースの興奮を引きずっているせいもあるが、宵藍が緊張している原因はほかにあった。湖緑から聞いたシン・シティの話だ。それをアオギリに伝えようかどうか宵藍は迷っていた。
「いつものやつ、やってやる。横になれ」
 言われるままにTシャツを脱いでベッドにうつ伏せると、アオギリは宵藍の身体を跨ぎ、白く滑らかな背中に両手を置いた。それからゆっくりと力を込めてツボを指圧していく。湖緑のマッサージとはだいぶ違う。
 アオギリは、このマッサージ法を浅葱から教わったと言っていた。浅葱の一族の間では、古くから受け継がれている技能の一種らしい。
 ただし、もともとロードレース選手の身体のために開発されたものではなく、浅葱が独自に研究しながら改良を加えている段階なので、アオギリがレースの直前にこの方法で宵藍の筋肉に触ることはない。いつもレース後の、湖緑のマッサージを受けたあとだ。筋肉疲労を回復するためではなく、宵藍の精神を解きほぐすために行う儀式のようなものである。
 初めてアオギリが宵藍の身体に触れたのは、宵藍のプロデビュー戦となった昨年のツアー・オブ・Nシティのあとだった。初レースで神経が昂ぶっていた宵藍は、アオギリに対する気まずさもあり、夜になってもなかなか寝つけなかった。こっそりと部屋を抜け出し、1人トレーニングルームで汗を流していると、突然アオギリが現れた。
「眠れないのか? 明日に疲れを残すのはよくないぞ」
 そう言って、アオギリは宵藍を部屋に連れ戻した。レースのことでなにか言われるのだと構えていた宵藍は、「そこにうつ伏せになれ」とベッドを指し示されてうろたえた。
「バカ、マッサージするだけだ」
 アオギリは笑いを堪えながら、宵藍の身体を自分のベッドに横たえた。
 それからあとのことはよく憶えていない。そのままアオギリのベッドを占領して、朝まで熟睡してしまったのだから、よっぽど気持ちがよく、安心していたのだろう。
 現に今も夢見心地だ。宵藍の身体を知り尽くしたアオギリの指は、確実に宵藍のツボを捉えてくる。その心地よさに、宵藍は小さく吐息を漏らした。
 アオギリがなぜここまでしてくれるのかはわからない。宵藍がアオギリのエースだから、と言ってしまえばそれまでだ。しかし、アオギリにしてみたら、宵藍はライバルであり、エースの座を奪った憎い男に違いない。そんな私情を殺してまで、エースを勝たせるために己を犠牲にしなければならないのならば、アシストとはなんと残酷な仕事だろう。自分には絶対に無理だ、と宵藍は思う。
 それとも、アオギリは本当になにもこだわっていないのだろうか。
 ふと、勝利インタビューの中でのアオギリの言葉を思い出す。
「彼の実力は本物です」
 アオギリは事あるごとにそう言って、メディアの攻撃から宵藍を庇ってくれる。俺がおまえをエースと認めたんだ、と背中を押してくれる。だから宵藍もチームの中では強気を装っているが、すべてのチームメイトが自分を認めてくれているわけではないことは承知していた。表面上はうまくやっていても、内心では快く思っていない者もいるはずである。アクセルロディのように露骨に敵意を向けてくる人間のほうが、まだわかりやすくて対処のしようがある。
 いずれにしろ、もっとタフにならなければプロではやっていけない。アオギリだって、いつライバルチームに引き抜かれてしまうかわからないのだから。
 そんな宵藍の胸中も知らず、アオギリは相変わらず熱心にマッサージを続けている。宵藍はなんとなく後ろめたい気持ちになり、ベッドに顔を埋めた。





第4話につづく                                       にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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