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 見慣れた黒縁の眼鏡の奥で、細い目が笑っている。
「まさかこんなに早く会いにきてくれるとは思いませんでしたよ」
 宵藍は湖緑に問いかけようとしたが、頭の中が混乱して、うまく言葉が出てこない。
「おや、ショックのあまり声が出ないようですね。大丈夫、待ちますよ」
 何度か深い呼吸を繰り返し、宵藍は乾いた唇を舌で湿らした。
「あんたは、何者なんだ」
 湖緑はいつもと変わらない口調で答えた。
「僕はここの施設長。そして、近い将来にアイオーンを継ぐ者です」
 宵藍はますます混乱した。
「湖緑がアイオーンに? そんな人間が、なんで〈プロキオン〉のチームドクターなんか……」
「あれは仮の姿です。きみがどんなロードレーサーに育っているか、自分の目で確かめたくてね。海藍はきみをレーサーにするつもりはないと言っていましたから、ずいぶん気を揉みましたよ。なんとかきみにやる気になってもらおうと、きみたち家族のフォトグラフを送り届けたりしてね。その甲斐あって、きみは僕の望んだとおりに成長してくれた」
 背筋が震える。
 あのとき宵藍が見た白尽くめの男は、ずっと同じチームに、宵藍のすぐそばにいたのだ。
「おれたち家族を引き離したのもあんたなのか?」
 湖緑は神経質そうに眉をぴくりと動かした。
「聞き捨てなりませんね。あれは偶発的に起こったことです。僕はきみと天藍を研究用のサンプルにしようとしただけで、きみが天藍や東雲と生き別れになったのは、施設を逃げ出そうとしたきみの両親の責任です。もっとも、海藍ときみを見逃したのも僕なんですけどね」
「なぜ海藍とおれだけ壁の外へ逃がしたんだ」
「さっきも言ったでしょう。研究用のサンプルにするためです。双子なんて格好の研究材料ですからね。海藍ときみの脱走はかえって都合がよかった」
 つまり、同じ遺伝子を持つ2人の赤子が、それぞれまったく環境の異なるシン・シティとNシティで育った場合、その成長過程にどのような違いが現れるか、そのデータを採取するのが湖緑の目的だったのだ。
 眼鏡の奥の瞳が不穏な光を宿す。
「もちろん、最終的にサンプルは回収します」
 そのとき、研究室のドアが開いた。
 現れたのは、なんと〈デネブ〉のメイズだった。彼は両手を頭の後ろで組み、ツアー・オブ・Nシティで負傷した脚をわずかに引き摺りながら入ってきた。
 そして、メイズの背後にもう1人。
「アオギリッ」
 宵藍は驚きの声をあげた。
 アオギリはメイズの背中に銃を突きつけている。
「バカ、なんで来たんだよ」
 アオギリは湖緑を見据えたまま宵藍に言った。
「バカはおまえだ。俺は怒っている。だが、説教はあとだ」
 アオギリが顎で宵藍を呼ぶ。
 宵藍は黙ってアオギリの隣に並んだ。
 アオギリはメイズの斜め後ろで銃を構え直し、湖緑に問いかけた。
「湖緑、こいつもあんたの手下だったんだな」
 メイズに冷ややかな視線を送ってから、湖緑は口を開いた。
「手下というのは違います。メイズは僕が作り上げた大事なレーサーですよ。彼の力を試すために、ツアー・オブ・Nシティに送り込んだのです。おかげできみたちもずいぶん楽しめたでしょう?」
 メイズを骨折するまで走らせておいて……。
 宵藍は拳を握った。
「要するに、あんたの目的は最強のレーサーを作り出すことなのか?」
 宵藍の言葉に、湖緑は然もおかしそうに笑い声をあげた。
「まさか、そんな小さなことではありませんよ。僕の研究は人類の未来をも左右します」
 それから湖緑は落ち着きを取り戻した声で言った。
「きみたち、シン・シティ市民の平均寿命が年々短くなっていることは知っていますか?」
 そういえば、今朝アビがそんな話をしていた。
「でも、そんなことはたいした問題ではない。本当に深刻なのは、アイオーンの血族が短命だということです」
 アイオーンの直系は、膨大な財産と権力を守るため、シン・シティを創造するよりずっと以前から、代々4親等以内の婚姻を繰り返してきた。その結果、血が濃くなり過ぎて、死産や奇形児の誕生が相次ぐようになった。仮に無事に生まれてきたとしても、大半は虚弱体質で短命だった。
「さて、現在のアイオーンは何代目でしょう」
 湖緑は皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「いまだ市民たちはシン・シティを創った初代が生きていると信じていますが、本当は2代目です。初代はとっくの昔に亡くなりました」
 思い出に浸るように、湖緑は左右に椅子を揺らしながら目を閉じた。
「初代は死をとても恐れていました。少しでも身体にいいと聞けばどんなものでも食べたし、どんな薬でも飲んだ。1年でも1日でも死を先送りにしたかった。そんな死に対する恐怖が、この研究施設を造らせたのです」
 いわばここは、アイオーンのために不老長寿の研究をする施設だった。
「その一方で、近親婚に限界を感じていた初代は、自分の娘である東雲に壁の外から婿をとらせました」
 それが海藍だった。初代は2人の間に生まれた子に、将来アイオーンを継がせようと考えていたのだ。
「けれど、生まれてきたのは双子でした。しかも、アイオーンの直系とNシティのトップレーサーとの混血ですよ。そのままアイオーンにしてしまうのは惜しい。初代には申し訳ありませんが、僕は僕の研究意欲を優先することにしました」
 宵藍はメイズの無表情な横顔に視線をやる。
「でも、その不老長寿の研究とロードレーサーがどう関係するんだ」
 湖緑はうれしそうに微笑んだ。
「そこですよ。僕はロードレーサーの強靭な肉体と驚異的な運動能力、疲労回復能力に着目しました。もちろんトレーニングなどの後天的な要因もありますが、彼ら身体能力の高さには、先天的な要因の占める割合が大きいのです」
 その仕組みを解明し、素因となる遺伝子もすでに特定済みなのだと湖緑は語った。
 そして、研究は生体実験の段階へ突入しているのだと。
 宵藍の脳裏を、メイズの人間離れした走りが過ぎった。
「まさか……メイズがその……」
「そうです。彼が成功例の第1号です」
 湖緑が作り出したレーサーとは、まさにそういう意味だった。
「そして、彼が第2号になる予定です」
 湖緑はコントロールパネルに手を伸ばし、モニターの画像を切り替えた。
 そこに映し出されたのは、透明なカプセルの中で眠る男の姿だった。





第28話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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