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 昨日通った南エリアの街中と違い、北エリアの道路は人通りが少ない。地図を見なくても、道路上の標識を辿っていけば病院に行き着けそうだ。
 やがて、2人の前に白く高い塀が現れた。医局の敷地に違いない。塀に沿って南下すると、南北エリアの境界線の手前に北エリア用の門があった。2人はその門を入ってすぐのところにあるパーキングにバイクを置き、病院の正面エントランスへ向かった。
 シン・シティ全体の医療を一手に引き受ける病院らしく、その建物は巨大だった。朝の診療が始まったばかりなのか、病院から出てくる人よりも、入っていく人の数のほうが圧倒的に多い。その人の流れに乗って、宵藍たちも病院の中へ足を踏み入れた。
 受付ロビーには人が溢れ、吹き抜けの天井に喧騒が反響する。各科の前に並べられた待合用の椅子は、すでに8割方が患者で埋まっていて、その合間を白いユニホームを着た職員が行き交っている。Nシティの病院とは比べものにならないくらい忙しそうだ。
「これなら案外簡単に紛れ込めるんじゃない?」
 宵藍の言葉にアオギリの表情が厳しくなる。
「油断するなよ」
「わかってるよ」
 あたりを見まわすと、ラウンジの看板が目に入った。ガラス張りの向こうでは、パジャマ姿の入院患者や見舞いに訪れたと思しき人が、お茶を飲みながら歓談している。中には順番待ちの外来患者らしき人たちもいた。
「アオギリ、あそこで情報収集しよう」
 宵藍はアオギリの袖を引っ張ってラウンジへ向かった。あたりをざっと見まわし、入院歴の長そうな患者の隣のテーブルに座った。
 狙い通り、彼は入院生活に相当退屈しているらしく、見舞いにきた友人に向かって1人でしゃべり続けている。宵藍とアオギリはさり気なく聞き耳を立てた。
 話の内容は点滴の針を刺すのが下手な看護士の文句に始まり、食事の量や同室の患者のいびきに対する不満へと移った。それからしばらくすると、彼らの話題はこの病院で働く医師たちの恋愛事情や力関係に及んだ。
 なにか有益な情報が聞けないかと期待する宵藍。
 しかし話は微妙に逸れていき、最終的には美人看護士番付の発表会となった。
 宵藍は虚しい徒労感に襲われた。向かいの席のアオギリも疲れた表情をしている。
 やっぱりだめか。
 席を立とうか迷っていると、宵藍の後ろのテーブルから気になる話が聞こえてきた。
「そのエレベーターの階数表示は地下1階までしかないのに、箱が地下1階まで下りると、その直後に表示のランプが消えるんですって。きっとその下に秘密の地下室とかがあって、そこで人体実験とかやってるのよ」
「あなた、頭も診てもらったほうがいいんじゃない?」
「冗談じゃないわ。本当に見た人がいるのよ」
 宵藍は後ろを振り返って、パジャマ姿の女性のほうに話しかけた。
「ぼくもその噂聞いたことありますよ」
 彼女は一瞬驚いたものの、すぐに話に乗ってきた。
「あら、あなたも?」
 彼女はうれしそうに「ほらね」と連れの女性を振り返った。
 宵藍は何食わぬ顔で問いかける。
「あれは中央のエレベーターでしたっけ?」
「え、違うわよ。一番北の非常用のエレベーターよ」
「ああ、そうでしたね。ところで00ナンバーで始まる病棟はどこかご存知ですか? 知人の見舞いに来たのですが、建物が大きすぎて……」
「00? 知らないわ。ここの病棟は10から始まってるはずよ」
 宵藍はアオギリに目配せしてから、独り言のように呟いた。
「おかしいな。番号を聞き間違えたのかな。ありがとうございました。お大事に」
 彼女に挨拶して、宵藍たちはラウンジをあとにした。
「おまえ、大胆なヤツだな」
 感心したような呆れたような複雑な顔でアオギリが言った。
「知らなかった?」
 澄ました顔でそう言うと、宵藍はエントランスの案内板を確認しにいく。
「うーん、どっちだろう」
 北のエレベーターは西側と東側の2つあった。
「両方行ってみるしかないな」
 2人は北に向かって通路を歩き出した。
 まず東側の北Aエレベーターを確認する。しかし、3つあるエレベーターは一般用と職員用で、非常用という文字はなかった。
 続いて2人は西側の北Bエレベーターへ向かった。すると通路の突き当たりにエレベーターが4つ並んでおり、その前には患者の身内らしき人たちが神妙な面持ちでエレベーターを待っていた。こちらの棟には手術室があるのだ。
 アオギリが宵藍の耳元で囁いた。
「これだ」
 一番左に、非常用のエレベーターはあった。
 アビやラウンジで会った女性の噂話が本当なら、このエレベーターが研究施設に繋がる通路への入り口だ。
 宵藍はにわかに緊張し出した。
「大丈夫か?」
 アオギリの青い瞳が、気遣わしげに宵藍を見つめてくる。
「うん」
 宵藍は覚悟を決めて、エレベーターのボタンを押した。
 扉はすぐに開いた。
 先に宵藍が乗り込み、アオギリがあとに続いた。扉の脇にある操作パネルの前に立ったアオギリが、〈閉〉ボタンを押した。
 扉が閉まり始めたその瞬間、宵藍はアオギリの背中を突き飛ばした。すぐさま地下1階のボタンの下にある無表示のボタンを押す。
 アオギリはバランスを崩し、向かいの壁に手をついた。
 振り返ったアオギリの呆然とした顔が、扉に遮られて見えなくなった。
「ごめん……」
 宵藍は物言わぬ扉に向かって謝った。
 けれど、これ以上無関係のアオギリを巻き込むわけにはいかなかった。
 まもなく足元から突き上げてくる感覚があり、扉が開いた。
 宵藍はキャップを取り、エレベーターの扉の間の床に置いた。閉まりかけた扉は間に挟まった障害物を感知し、再び開く。障害物を取り除かないかぎり、扉はその場で開閉を繰り返す。箱が上がらなければ、アオギリは宵藍のあとを追うことができない。
 宵藍はエレベーターに背を向け、真っ直ぐ北へ向かって延びる通路の先に目を凝らした。
「これだ」
 宵藍は大きく深呼吸をし、最初の一歩を踏み出した。
 カツン、カツン。
 歩くたびにシューズの音がひんやりとした通路内に響き渡る。シューズを脱ごうか考えたが、この狭い通路で誰かに出くわしても、身を隠す場所は一切ないのだから、足音だけを消しても意味はない。そう考えると、次第に腹が据わってきた。
 見つかったら見つかったでしょうがない。
 通路の半ばに差しかかったとき、突然、前方の自動ドアが開いた。中から白衣の男が1人出てくる。
 宵藍の心臓が跳ね上がった。
 踵を返して、走り出したい。
 しかし、宵藍は平静を装ってそのまま歩き続けた。
 白衣の男も宵藍に向かって歩いてくる。
 ドクッ、ドクッ。
 まるで喉のあたりまで心臓がせり上がってきたようだ。緊張のあまり叫び出したくなる気持ちを、宵藍は必死に抑え込む。
 両者の距離が数メートルまで近づいたとき、男が声をかけてきた。
「天藍さん、今日はなにか博士とお約束がありましたか?」
 どうやら男は宵藍を天藍だと思っているようだ。
 宵藍はなるべく言葉少なに返事をする。
「ああ」
「そうですか。博士は今、第1研究室のほうにいらっしゃいます」
 男は一礼し、そのまま宵藍の脇を通り過ぎていった。
 宵藍はほっと息を吐き出した。
 おそらくその博士が、この研究施設の指揮権を握っているのだろう。ひょっとしたら、博士は白尽くめの男と同一人物ということもあり得る。
 このまま天藍になりすまして、第1研究室まで辿り着けるだろうか。
 いや、やるしかない。
 宵藍は自分を叱咤し、先程白衣の男が出てきた自動ドアの前に立った。
 中へ入ると、青白いライトが白い通路を照らしていた。すぐ左手にエレベーターと階段があった。通路は右手に延びていて、途中で左に折れている。第1研究室はおろか、この施設が何階建てなのかもわからないまま、宵藍は勘を頼りに歩き出した。
 極秘の研究といえば地下室と相場は決まっている。
 突き当りの手前で足を止め、左に曲がったその先に人の気配がないか耳を澄ます。なにも聞こえないのを確認し、宵藍は恐る恐る壁の陰から顔を出した。
 人気のない通路は、どこまでも静謐で白かった。
 宵藍は再びゆっくりと歩き出す。途中で何本か通路が交差していたが、宵藍は真っ直ぐ進んだ。そして、突き当りの部屋に狙いを定めた。
 大きな両開きのドアが、まるで宵藍を誘うように静かに開いた。
 緊張で全身が強張る。
 レースのスタート前でも、ここまで緊張したことはない。
 ドアの向こうに、もう一つドアが見える。二重構造になっているらしい。
 あのドアの向こうに博士とやらはいるのか。
 宵藍は中へ足を踏み入れ、もう1つのドアの前に立った。背後のドアが完全に閉まってから、目の前のドアが開く。
 その瞬間、宵藍は戦慄した。
 目の前の壁の大型モニターに、宵藍の姿が映し出されていた。
 宵藍は瞬時に悟った。おそらく、地下通路に入ったところからずっと監視されていたのだろう。あるいは病院に入った時点で、宵藍はすでに向こうの手の内にいたのかもしれない。どうりで事が順調に運び過ぎているはずである。
 宵藍は2歩3歩と前に進み、モニターの前の椅子に座る男の背中を睨みつけた。その勝気そうな表情がモニターに大映しになる。
「いい目だね」
 男の声が部屋の中に反響した。
「ようこそ、天藍」
 その声には聞き覚えがあった。
「いいや、宵藍」
 椅子が回転し、男は宵藍の眼前に白尽くめの姿を晒した。
「そんな……」
 宵藍は震える声で男の名前を呼んだ。
「湖緑」





第27話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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