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 翌朝、宵藍は静かに部屋を出た。
 いつものひと目でロードレーサーとわかるレーシングジャージではなく、カジュアルなデザインのウェアを身につけている。これなら街中でも浮いたりはしないだろう。
 階段を下りると、折りよくアビが執務室から出てきたところだった。
「おはよう」
「あ、宵藍さん。おはようございます」
 アビが爽やかな笑顔で応えた。
「ちょっと出かけてくるよ」
「どちらへ?」
「折角だから観光でもしようかなと思って。おれの朝食は用意しなくていいから」
「お1人ですか?」
「いや、2人だ」
 その声に驚いて、宵藍はあたりを見まわした。すると階段の上に、宵藍と同じくカジュアルな装いのアオギリの姿があった。かすかに怒りの色を帯びた瞳が、宵藍を見下ろしている。
 宵藍は緊張して視線を逸らした。
 アオギリは階段を下りながら、アビに声をかけた。
「どこかお薦めのスポットはあるか?」
「街もいいですけど、ぼくのお薦めは北にある自然公園です。静かでいいところですよ。ロードバイク専用の練習コースがあるのもここです」
 シン・シティは大雑把にいうと北エリアと南エリアに分かれており、レース用のロードバイクは原則的に南エリアへの乗り入れを禁止されている。ロードバイクが走っていいのは北エリアだけで、本格的に走り込むなら自然公園内の専用コースか、サーキットへ行くしかない。
「地図はないのか?」
「ありますよ」
 アビは執務室に戻って、3つ折りになったシン・シティの案内図を持ってきた。それを広げて、黄緑色に塗り分けられた北エリアの中の濃い緑を指で示した。
「ここが自然公園です。南側半分のオレンジ色で塗られたエリアには、ロードバイクは入れませんのでご注意ください」
 ちなみに、この宿舎があるのも北エリアだ。ロードレースチームの拠点もすべて北エリアにあるので、普段の練習で不自由することはないようだ。
 アオギリが地図の真ん中を指差した。
「この中央の大きな建物は?」
「そこは市民病院です」
 その言葉にはっとなって、宵藍も地図を覗き込んだ。見ると、シンシティの中央を横切るように境界線が走り、その境界線上にアオギリの言う建物はあった。正確に言うと、太枠で囲まれたその敷地も境界線で南北に分断されていて、市民病院が建っているのは南側、北側は濃い緑色で塗られている。
「シン・シティに病院はいくつあるの?」
 宵藍の質問に、アビは少しも警戒していない様子で答えた。
「ここだけです」
 シン・シティでは、市民の健康状態はすべて医局で把握しているということだった。
 壁に囲まれ、限られた土地で生きるには、人口が増え過ぎてはならない。人口過多は市民の生活水準を低下させ、混乱を招く。そのため、常に適正値を保つよう人口の変動を監視し、出生率をコントロールすることが、医局の当初の役割だった。
 しかし、現在のシン・シティは市民の平均寿命が年々低下し、人口は減少の一途を辿っている。医局は若い世代に子どもを生み、育てることを奨励したが、思うように出生率は上がらない。
 今日は何人生まれて、何人死んだか。
 明日は何人が生まれる予定で、何人の延命装置が外されるのか。
 その正確な数を知るためにも、情報収集の拠点となる病院はひとつだけのほうが効率がいいというわけだ。
「この病院の裏も公園なの?」
 自然公園と同じ色で塗られていたので、宵藍は当然そう思った。
 しかし、アビは首を横に振った。
「そこも医局の敷地です。地図では緑色に塗られているだけですが、実際はその森の中に研究施設があるんです。一般市民は立ち入り禁止ですけど」
 いつのまにか、宵藍は手のひらに汗をかいていた。不審に思われないよう、さり気なく質問を繋ぐ。
「へえ、なんの研究?」
「さあ、そこまでは……。でも、よっぽど重要な研究なんだと思いますよ。ゲートの警備が厳重で、ぼくなんか前を通るだけで緊張してしまうくらいです。噂によると、市民病院の地下に研究施設へ続く通路があるらしいけど、あくまでも噂ですから」
 そう言ってから、アビは慌てて手で口を覆った。
「ぼく、おしゃべりが過ぎましたね。今の話はどうか忘れてください。本当は壁の外からいらした方に、こんなことを話してはいけないのです」
「わかったよ」
 宵藍はアビを安心させるように微笑んだ。
「じゃあ、公園にでも行ってみるとしよう」
 アオギリはさっさとガレージへ向かってしまう。宵藍が慌てて追いかけようとすると、アビに呼び止められた。
「ちょっと待ってください」
「なに?」
 宵藍が足を止めると、アビは再び執務室からなにかを取ってきた。
「これをかぶってください」
 アビが手にしていたものはキャップだった。
「その……宵藍さんはシン・シティの有名なレーサーとよく似ていらっしゃるので、人目につくと騒ぎになるかもしれないので……」
 どうやら天藍に双子の兄弟がいるということは、市民たちには知らされていないらしい。アビも宵藍と天藍が双子だと気づいていないようだ。
 アビが恐縮したように宵藍の顔色を伺う。
「あの……」
 宵藍はアビの手からキャップを受け取った。
「わかったよ。ありがとう」
 キャップを目深にかぶり、すでに姿の見えないアオギリを追った。
 やっぱりアオギリは怒ってるのかも。
 ガレージからバイクを押して外へ出ると、アオギリが腕組みをして待っていた。
「……ごめん」
 宵藍が謝ると、アオギリは珍しく不機嫌をあらわにして言った。
「それはなにに対する侘びだ?」
 宵藍は親に叱られる子どものように、小さな声で答える。
「1人で出かけようとしたこと……」
「わかっているならいい」
 アオギリは物覚えの悪い子どもに呆れるように、ため息混じりに微笑んだ。
 宵藍は堪らなくなった。
「アオギリ、本当にいいの? なにがあるかわからないんだよ?」
 アオギリは落ち着いた声できっぱりと告げた。
「だからこそ俺も行くんだ」
 宵藍はそれ以上なにも言えなくなってしまった。
 アオギリがバイクに跨ると、宵藍もそれに続いた。そして2人は、シン・シティで唯一の病院へ向かってペダルを踏み込んだ。





第26話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

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