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創作BL小説ブログ
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「もう着きますよ。あそこです」
 気づくとあたりの風景は一変し、先刻までの建物が密集した人工的な景観は消えていた。代わりに緑の自然が溢れ、その中に大きな屋敷が点在している。アビが宿舎だと言った建物も、たくさんの木々に囲まれて建っていた。
「このあたりは特権階級の居住区です。ロードレーサーも多く住んでいます」
 要するに、ロードレーサーも特権階級の人間だということだ。
 自動車から降りると、宵藍は2階建ての宿舎を見上げた。それは街中にたくさんあるような無機質で四角い箱型の建物とは異なり、装飾的なデザインの瀟洒な建物だった。とてもロードレーサーの宿舎とは思えない。ただし、やはり基調となる色は白である。
「どうぞ中へ」
 アビが白い両開きの扉を開けた。
 入ってすぐのエントランスホールに、宵藍たちがNシティから送った荷物が届いていた。ホールは吹き抜けになっていて、正面に2階へ続く階段がある。このホールを中心に、左右へ廊下が伸びている。
「向かって右側にキッチン、食堂、リビング、左側にトレーニングルームやシャワールームなどがあります。突き当たりのドアは外のガレージに繋がっています。みなさんのバイクはそちらに運ばせていただきました」
 アビは手振りを交えてさらに説明を続けた。
 2階には8つのプライベートルームがあり、すべて個室だという。しかも、朝と夜は通いのコックが食事を作ってくれるらしい。もちろん、きちんとカロリー計算されたレーサー用の食事である。まさに至れり尽くせりだ。
「ぼくは常にそこの執務室におりますので、なにかございましたら遠慮なくお申しつけください」
「アビ、外出は自由?」
 宵藍が訊ねると、アビはにっこりと微笑んだ。
「もちろんです。ご自由にお出かけください。ただし、お出かけになる際はぼくに一言お知らせください。突然姿が見えなくなると心配ですので」
「わかったよ」
「それから、いつでもサーキットの試走ができるよう段取りはついておりますので、ぼくに言っていただければご案内します」
「ありがとう」
 宵藍が礼を言うと、アビはホール脇の執務室に下がった。
 執務室のドアが完全に閉まったのを確認してから、蘇芳が口を開いた。
「とりあえずここまでは何事もなかったな」
「うん。外出も自由だって」
 完全に管理された不自由な生活を強いられるだろうと予想していた宵藍は、少々拍子抜けした。
 しかし、ハイタカはもっと慎重だった。まわりに監視カメラがないかを確認している。
「自由と思わせて、実は監視されているという可能性もある。宵藍、油断するなよ」
「うん」
 ハイタカと蘇芳も宵藍の事情を知っている。シン・シティGP行きを打診したときに、宵藍の出生の秘密やシン・シティへ入る本当の目的について、すべてを打ち明けたのだ。そのうえで、彼らは宵藍に協力してくれているのである。
 宵藍がこの2人を選んだのには理由がある。
 もちろん、GPで勝つための人選ではあるのだが、いったんシン・シティに入ってしまえば、宵藍の身になにが起きてもおかしくはない。そんなとき、ハイタカの冷静な判断力と実行力は頼もしい。そして、そんなハイタカを危険に晒すより、宵藍を捨ててシン・シティを脱出する道を選べる蘇芳のハイタカ至上主義がなによりも必要だった。
「おれにもしものことがあったら、そのときはハイタカを連れてシン・シティを出てくれ」
 蘇芳が1人きりのときを見計らって、宵藍がそう切り出したのは、Nシティを出発する前日だった。
 蘇芳は少し眉を動かしただけで、とても落ち着いていた。
「おまえを捨てて逃げろということか?」
 さすがに理解するのも早かった。
「蘇芳ならハイタカの安全を一番に考えて行動するだろうから、その点では信用してるんだ」
「だから俺とハイタカを選んだのか。ハイタカにはこのことを話したのか?」
 蘇芳が試すような鋭い視線を宵藍に向けた。
「いや、彼には言ってない」
「正しい判断だ。こんなことを聞いて、ハイタカがおまえを置いて行けるわけがない」
 宵藍もそう思ったから、ハイタカには黙っているのだ。
「いいよ。俺がチームメイトを見捨てる薄情なアシストになってやる」
 さばけた口調の中にも、どこか非難めいた響きを含んでいた。蘇芳の心の中にも、まったく葛藤がないわけではないのだ。
 宵藍は心から詫びた。
「すまない、蘇芳」
 他人に頭を下げられるのが苦手らしい蘇芳は、突然話の向きを変えた。
「それよりアオギリはどうすんの? あいつはおまえを置いて逃げたりしないだろう」
「アオギリにも、いざとなったらおれを置いてシン・シティを出るように言ってある」
 当然、アオギリはこんな話を聞きたがらなかったが、それでも宵藍は真剣にアオギリを説得した。
「それでアオギリは説得されちゃったの?」
「わからない……けど、反論はしなかった」
「ふうん」
 納得していないような生返事に、宵藍の不安は募っていった。
 
 
「宵藍」
 不意にアオギリに名前を呼ばれ、宵藍は我に返った。
「え?」
「どうしたんだ? ぼんやりして」
「いや、なんでもないよ。なに?」
「使う部屋だけど、階段に近いところから左右に2部屋ずつでいいな。おまえとおれは右、ハイタカと蘇芳は左だ」
「了解」
 蘇芳が荷物を持って、階段側から2つ目の部屋へ向かった。その手前の部屋にハイタカが入っていく。
「ああ、そうか。2人部屋じゃないんだっけ」
「なんだ、1人じゃ寝られないのか?」
「ばか」
 宵藍は赤くなりながら、手前の部屋のドアを開けた。
 荷解きというほどの荷物もなく、宵藍はすぐにガレージへ向かった。そこでは4台のバイクが主人との再会を待っていた。
「お待たせ」
 宵藍は自分の愛車をひと撫でし、早速点検を始めた。
 しばらくすると、アオギリもやってきた。2人は黙ってバイクをいじっていたが、そのうち宵藍は点検を終え、ガレージの隅に腰を下ろした。
「ねえ、向こうはいつ動き出すと思う?」
 アオギリは手を止めた。
「シン・シティにとってGPは最大のイベントだ。その前に招待選手であるおまえに下手な手出しをしてくるとは考えにくい」
「ということは、GPが終わった直後?」
「その可能性が高いだろうな」
 宵藍は膝を抱えて思考を巡らせた。
 GPが終わるまで向こうから手出しができないということは、その間なら逆にこちらから乗り込んでいっても、向こうは宵藍の身柄を拘束することはできないということだ。むしろチャンスといえる。
 けれど、本当にそうだろうか。
 もしもこちらの読みが外れていたら、わざわざ自分から罠に飛び込んでいくようなものだ。
 しかし、たとえ拘束されたとしても、宵藍をGPに出さないわけにはいかないだろう。逃亡の機会は必ずあるはずだ。
 どうする? 行くか?
「なにを考えている?」
 作業する手を止めずに、アオギリが問いかけてきた。
「べつになにも」
 アオギリを誤魔化せるとも思えないが、ここはしらを切り通すしかない。医局に乗り込むのなら自分1人で、と宵藍は決めている。蘇芳が言うように、アオギリが宵藍を置いて逃げるとは思えないからだ。
 すると、アオギリが手を止めて宵藍に向き直った。すべてを見透かすような瞳が宵藍を捉える。
「1人で勝手な真似をするなよ」
 宵藍はできるかぎり自然に微笑んだ。
「わかってるよ。おれだって1人は心細い」
 それでもアオギリはなにか言いたそうに口を開きかけた。が、そのとき廊下からハイタカと蘇芳の声が聞こえてきたため、それきり口を噤んでしまった。




第25話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

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