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 ツアー・オブ・Nシティで総合優勝してから1週間が経過し、宵藍の身辺はようやく普段の落ち着きを取り戻しつつあった。
 宵藍が工房のサカキからバイクを受け取って庭に出ると、アクセルロディ、ウツギ、パンデュロ、ムクロジの4人が一緒にストレッチをしていた。
「今日は4人でロード練習?」
 宵藍が話しかけると、パンデュロが顔を上げた。
「ああ、次のレースのための調整だ」
 ツアー・オブ・Nシティが終わると、あとはとくに大きなレースはない。ほとんどが4人1チームで競うワンデイレースばかりだ。次のレースは平坦コースで、宵藍やハイタカ向きではないため、この4人がエントリーすることになったのだ。
「ハイタカと蘇芳は?」
「あいつらなら、もうとっくにロードに出てるよ」
「宵藍さんは今日はオフなんですか?」
 ムクロジがにこやかに訊ねてくる。
「ああ」
 少し考えてから、宵藍は再び口を開いた。
「なあ、ムクロジ。その宵藍さんっていうのはやめにしないか?」
「え?」
「宵藍でいいよ。一緒に走ってるんだから」
 一瞬、ムクロジは驚いたような顔をしたが、すぐにうれしそうに微笑んだ。
「はい」
 そのとき、いつものメタリックグレーのレーシングジャージに身を包んだアオギリが、バイクを引いてやってきた。
「宵藍、俺も一緒に行く」
「えっ、でも……」
「監督に言って俺もオフをもらった」
 それを聞いたロディが2人をからかった。
「オフまで一緒におでかけか。どんだけ仲よしなんだよ」
「妬くな、ロディ」
 大真面目な顔で言うパンデュロに、ロディはむきになって抗議する。
「妬いてねえよっ。なんでオレが妬かなきゃなんねえんだよっ」
 慌ててウツギがロディを宥めにかかる。
「ロディ、落ち着いて」
 パンデュロがにやりと笑った。
 ようやく自分がからかわれていたことに気づいたロディは途端に大人しくなり、仏頂面でストレッチを再開した。
 宵藍は笑いを堪えながらバイクに跨った。
「じゃ、いってくるね」
「おう。もう帰ってこなくていいぞ」
 宵藍に背中を向けたまま、ロディがひらひらと手を振った。
 相変わらず口も態度も悪いのだが、宵藍は以前ほどロディの言動に腹を立てなくなっていた。彼の性格を把握できるようになったからだ。本当はわかりやすいほど真っ直ぐで、純粋な男なのだ。 
 ツアー・オブ・Nシティを終え、〈プロキオン〉の空気は確実に変わっていた。腹の探り合いのような、駆け引きめいたやり取りがなくなり、チームに連帯感が生まれてきている。
 それをよろこべる自分がいることに戸惑いつつも、自然と笑みが零れてしまう宵藍だった。
「なんだかうれしそうだな」
 前を走っていたアオギリが、振り向きながら隣に下がってきた。
「まあね」
 2人はN区を目指していた。優勝の報告と、シン・シティへ向けて出発するための早めの挨拶を兼ねて、宵藍の実家に顔を出す予定である。
 セントラル区を出ると、アオギリが問いかけてきた。
「宵藍、あと2人は決まったのか?」
 アオギリは一緒にシン・シティGPを戦うメンバーのことを言っているのだ。
 シン・シティGPは1チーム4人で戦う。ほかの3人の選考は、シン・シティの協会から招待選手に選ばれた宵藍に一任されている。通常は一緒に戦い慣れたチームメイトから選ばれることが多い。
 当然のことながら、最も信頼し、宵藍の事情を知るアオギリにはすでに頼んであり、アオギリも快諾してくれた。しかし、あとの2人がなかなか決まらない。
「もう少し考えたい」
 宵藍が悩んでいるのには理由があった。宵藍はGPに出場するためだけにシン・シティに入るわけではない。真の目的はほかにある。
 生まれて間もなく生き別れた母親と双子の弟に会いたい。そして、自分たちの身になにが起こったのかを知りたい。
 そのために宵藍はNシティ最強のロードレーサーになったのだ。
 しかし、宵藍たちを離別に追い込んだ原因にアイオーンが関わっているとすると、事は容易ではない。宵藍がGPの招待選手に選ばれたことは、当然アイオーンも知っているだろうから、壁の中では自由に動けない可能性もある。それどころか、無事にNシティに帰ってこられるかもわからないのだ。そんなことに無関係の人間を巻き込みたくはない。
 本当はアオギリも連れていきたくはないのだ。
「おまえがなにを心配しているのかはわかっている」
 アオギリが言った。
「だが、俺に関して言えば心配は無用だ。俺がおまえと一緒にいくことを選んだんだ」
「うん……ありがとう」
 
 
 アオギリと一緒に帰省するのはこれで2度目だ。玄関で出迎えた春藍は、彼の姿を見てとてもうれしそうに微笑んだ。
「いつも宵藍の面倒を見てくれてありがとう」
 その言いぐさに宵藍はひっかかった。
「それじゃあ、おれがいつまでも子どもみたいじゃないか」
「あら、私にしてみたらあなたはいつまでも子どもだわ」
 宵藍は肩でため息をついた。
「もういいよ。それより早く中に通してよ」
「あっ、ごめんなさい」
 客間などという贅沢な部屋はないため、3人は前回と同じようにダイニングのテーブルで向かい合った。
 まずは宵藍がツアーの優勝を報告した。春藍は「おめでとう」と言ってはくれたが、その表情は言葉とは裏腹に沈んでいた。
「これでシン・シティ行きは決まってしまったのね」
「うん。それが目的だったからね」
「心配だわ。なんだかよくないことが起こりそうな気がする」
 不安げに眉根を寄せる春藍を安心させるために、宵藍は自信たっぷりの明るい声で言った。
「大丈夫だよ。GPの正式な招待選手として入るんだから」
 春藍はなおも心配そうな顔をしていたが、結局、宵藍の言葉に頷いた。
「……そうよね。大丈夫よね」
「それより、ひとつ訊きたいことがあるんだけど」
 宵藍は前もって用意していた質問を口にする。
「母さんは海藍のところに白尽くめの男が出入りしているのを見たことはない?」
「白尽くめ?」
「うん。黒尽くめの男と一緒なんだけど、白尽くめの男のほうが若くて、立場が上だ」
「白と黒?」
 春藍は少し考えてから首を左右に振った。
「見たことないわ。その人たちがどうかしたの?」
「いや、たいしたことじゃないんだ」
 宵藍は話題を変え、ツアーの土産話をたっぷり聞かせて春藍に笑顔が戻ってから席を立った。
「そろそろ宿舎に戻るよ」
 春藍は玄関の外まで見送りに出てきた。思いつめた表情で宵藍を呼び止める。
「宵藍……帰ってくる?」
「え?」
 一瞬、なにを訊かれたのか宵藍にはわからなかった。
 すると春藍は震える声で繰り返した。
「Nシティに、帰ってくるわよね?」
 シン・シティで本当の母親と双子の弟に会ってしまったら、ひょっとしたら宵藍はNシティに帰ってこないのではないか。
 春藍はそう心配しているのだ。
 宵藍は母親を労わるように微笑んだ。
「帰ってくるよ。当たり前だろ? シン・シティから戻ったら、また顔を出すから」
 宵藍は後ろ髪を引かれる思いでペダルを踏み込んだ。
「じゃ、いってくるよ」
「いってらっしゃい」
 春藍の声が、いつまでも耳について離れなかった。
 
 
 シャワーを浴びて部屋に戻ると、宵藍は大きなため息とともにベッドへ倒れ込んだ。
 上半身裸のまま首にタオルをかけたアオギリは、隣の自分のベッドに腰を下ろす。
「どうした?」
 宵藍はベッドに顔を埋め、くぐもった声で曖昧に返事をする。
「うーん、なんかね……」
 メンバー選出のこと、春藍たちのこと、天藍と東雲のこと、夢に見た白尽くめの男のこと――いろんな不安や心配事が宵藍の胸を塞いでいた。
 すると、部屋の空気が動く気配がして、宵藍の背中に大きな手が触れた。
「アオギリ?」
「そのまま楽にしていろ」
 そう言うと、アオギリは宵藍が寝ている脇に膝をつき、マッサージを始めた。
 宵藍は言われたとおり全身の力を抜いた。目を閉じて、アオギリの指の動きを追う。宵藍よりも宵藍の身体を知り尽くしている指は、身体だけでなく心までも解きほぐしていく。
 その気持ちよさにうっとりしていると、アオギリが口を開いた。
「そういえば、白尽くめの男っていうのはなんなんだ?」
 昼間、春藍に訊ねたことを、どうやらアオギリも気にしていたらしい。
「ああ、あれか。いつだったか小さい頃の夢を見たって話したでしょ? あれに出てきたんだよ」
「夢の中の人物なのか?」
「いや、実際に見たんだ。海藍のところで」
 宵藍はそのときの出来事を事細かに説明した。白尽くめの男が誰かをレーサーに育てろと要求し、海藍がそれを拒絶していたことも。
「その彼というのはおまえのことだろうな」
「やっぱり、そうだよね」
 宵藍もそうだろうとは思っていた。わからないのは海藍の反応のほうだった。
「海藍はなんでおれをレーサーにしたくなかったんだろう」
 宵藍が独り言のように呟くと、アオギリははっきりとした口調で言った。
「おそらく海藍は、おまえが本格的にロードレースを始めれば、将来シン・シティGPの招待選手になるだろうと予測していたんだ」
 それはただの親ばかじゃない? と思っても、軽口が叩ける状況ではない。
「でも海藍は、おまえがシン・シティに行くことを望んでいなかった」
「なんで?」
「シン・シティの医局が、おまえたちをなにかの研究材料にしようとしていたなら、考えるまでもない。おまえを危険から遠ざけようとしたんだろう」
 宵藍は勢いよく起き上がって、アオギリと向き合った。
「じゃあ、白尽くめの男はシン・シティの医局の人間だということ?」
「その可能性が高いな」
「でも、結局おれの前にあの男は現れなかったし、シン・シティに連れて行かれたりもしなかったよ。おれはもう用なしになったのかな」
「いや、おまえがロードレースの道に進んだから、経過を見守っているだけかもしれない」
 宵藍の顔から血の気が引いていく。
「……ずっと監視されてるってこと?」
 詰まるところ、宵藍は向こうの望むとおりの道を歩んできてしまったということになる。
「でも、なんでこんなまだるっこいことするんだよ。おれがGPの招待選手になるのを待ってないで、拉致して連れ帰ればいいことじゃん」
 アオギリは腕組みをして考え込む。
「なにか理由があるのかもしれない」
「理由?」
「いずれにしろ、シン・シティGPに参戦するところまで向こうの筋書き通りだとしたら、滞在期間中に向こうから接触してくるはずだ」
 宵藍はごくりと生唾を呑み込み、挑発的な笑みを浮かべた。
「望むところだ。こっちから探す手間が省ける」
 白尽くめの男が首謀者ならば、直接会って訊きたいことは山ほどあった。
「洗いざらい吐かせてやる」
 しかし、アオギリは勢いづく宵藍を諫めるように言った。
「用心したほうがいい。白尽くめの男がアイオーンと繋がっていることは疑いようがない」
 アイオーンはシン・シティ、及びシン・シティのロードレース界の支配者であり、宵藍と天藍の母親である東雲の実父なのだ。医局の人間である白尽くめの男が、当時宵藍と天藍を両親の手から取り上げようとし、現在もなお天藍を研究に利用しているとすれば、当然それはアイオーンの許可、あるいは指示のもとに行われているはずである。
 アオギリは一段と低いトーンで付け加えた。
「もしかしたら、二度と壁の外に出られなくなるかもしれない」
 その可能性は宵藍も考えている。春藍には必ず帰ると約束したが、守れる確信はなかった。
 宵藍はアオギリの青い瞳を見つめた。
「そのときは……おれを置いてシン・シティを出てくれ」





第23話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

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