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「昨日の順位表(リザルト)を見たか? 〈デネブ〉のメイズがじわじわ追い上げてきてる」
 宵藍の隣にリーダージャージのバーミリオンが並んできて、小声でそう言った。
 すぐ後ろを走るメイズを、宵藍はちらりと振り返った。
「ヤツは上りに強いようだ」
「今日、単独で逃げられて、ぶっちぎりでステージ優勝でもされたら、おれたちの足元も危ういな。まあ、そんなことはさせないけどね」
 口調はふざけているが、バーミリオンの目は真剣だった。彼もまた、メイズの持つ異様な雰囲気に気づいているのかもしれない。
 ツアーは第7ステージを迎え、ついに最大の山場である山岳に突入した。
 Nシティの西側に〝Nシティの天井〟と呼ばれる山脈が南北に走っている。今日はそこを北上する。起伏に富んだ険しいコースで、その中にはカテゴリーA級の山岳が3つとS級が1つ組み込まれている。その最後のS級の山岳で山頂ゴールとなる。
 目前に最初の峠の入り口が見えてきた。
「いよいよだな」
 宵藍が不適に微笑むと、バーミリオンは「グッドラック」と親指を立てて、仲間のもとへ戻っていった。宵藍は気持ちを引き締め、壁のごとく行く手を阻む山を、挑むように睨んだ。
 どちらかといえば山岳が得意な宵藍にとって、中級の峠越えはさほど苦しくなかった。アオギリの献身的なアシストのおかげもあるが、細身の体躯と強い心肺機能が宵藍を有利にしていた。
 しかし、A級ともなるとそう簡単にはいかない。山岳のスペシャリストであるハイタカのアシストがなければ、ライバルを引き離すのは困難だ。
「宵藍、ついてこい」
 力強くそう言って、ハイタカは宵藍の前に出た。
 登坂では速度が落ちるため風の抵抗は少ないものの、まったくのゼロではないし、クライマーにペースを作ってもらったほうが走りやすい。そのうえ、ライバルへのプレッシャーにもなる。体力的な厳しさはあまり変わらなくとも、前を引いてもらえるだけで精神的にはずいぶん楽になるものだ。
 このときばかりは、宵藍より幾分小さなハイタカの背中も大きく見える。
 ハイタカの宿敵である〈アルタイル〉のサシバも、リーダージャージを守るため懸命にバーミリオンを引いている。
「まあまあ引き離したな」
 サシバが後ろを振り返った。後続集団の影は見えない。
 中盤を過ぎたあたりから、先頭を行く第1集団と、そのあとを追う第2集団との差が如実に開き始めた。〈プロキオン〉、〈アルタイル〉、〈リゲル〉は当然としても、〈カストル〉と〈デネブ〉までもが第1集団にエースを送り込むことに成功している。
「やっぱりヤツはついてきたか」
 バーミリオンがひとりごつ。メイズのことに違いない。
 すでに遅れ始めている〈カストル〉の選手は、このまま放っておいても千切れるのは時間の問題だ。しかし、メイズは違った。第4ステージで見せたあの目で、ぴったりと宵藍たちの後ろについている。まるでヤツの前を引かされているような、厭な気分になってくる。
 宵藍の気持ちを察したのか、アオギリが宵藍にバイクを寄せてきた。
「宵藍、揺さぶりをかけてみよう」
 おそらくアオギリが1人で飛び出しても、メイズは追ってこないだろう。ならば、集団自体のペースを上げるしかない。
 アオギリはハイタカに呼びかけ、手でペースアップの合図を送った。
 ハイタカは頷くと、リアギアを1枚重くして、じわりと集団の前へ進み出た。
 宵藍とアオギリもそれに続く。
 〈プロキオン〉の動きを察知したサシバとバーミリオン、エンジュはすぐに反応したが、セージと彼のアシストはわずかに出遅れた。〈カストル〉は完全に千切れる。
 肝心のメイズは、やはり難なくついてきていた。
「こりゃあ、本格的に仕掛けるしかないな」
 サシバがぼやいた。
 宵藍も同じ考えだった。
 そして、本気のアタックをかけるなら、山頂ゴールに向かう最後の上りしかない。
 集団の走りは落ち着きを取り戻し、息を潜めて勝負のときを待った。
 中級の峠を越え、最後のS級の上りに突入すると、チームカーのサデから無線が入った。
「第2集団が差を詰めてきている。このままだと捕まるぞ」
「くそっ」
 まだ登坂は始まったばかりだ。今アタックをかけても、完全に逃げ切れる可能性は低い。リスクが大きすぎる。
 どうするか……。
 宵藍が迷っていると、ハイタカが下がってきて宵藍に並んだ。
「仕掛けるぞ。いけるか?」
 一瞬戸惑ったものの、宵藍はすぐに頷いた。
 次の瞬間、ハイタカは一気に加速した。
 宵藍とアオギリも同時に飛び出す。
 しばらく走ってから、宵藍は後ろを振り返った。すぐ後ろをサシバとバーミリオンが追ってきている。エンジュは遅れたようだ。それから、セージと彼のアシストも反応できなかったらしい。
 しかし、アシストを連れていないメイズは、余裕の表情でついてきていた。
「くそっ、もう一度だ。宵藍、しっかりついてこいよ」
 再びハイタカがアタックをかけた。宵藍はダンシングで食らいつく。今度は後ろを振り返る余裕もなかった。少しでも気を抜けば、ハイタカに遅れをとってしまう。それだけは、エースとしてのプライドが許さなかった。
 どのくらい上がってきただろうか。ハイタカのペースに慣れてきた宵藍が後ろを振り返ると、そこにはライバルどころかアオギリの姿もなかった。ハイタカと宵藍は2人きりで逃げていたのだ。
 坂は九十九折になっていて、数十メートル離れると相手の姿は見えなくなる。ライバルたちが現在どのあたりを走っているのかわからない。
 ある意味においてはそれもプレッシャーとなるのだが、ハイタカの走りは冷静だった。コーナーのライン取りも的確で無駄がない。ダンシングとシッティングを効率よく使い分け、筋肉の疲労を極力抑えながら滑るように上っていく。その姿は、重力から逃れて飛びたがっている鳥のようにも見える。
 これが本物のクライマーなのか。
 宵藍は見えない力に引き寄せられるように、ハイタカの背中を追った。
 ふと気づくと、沿道の観客の数が増えてきている。いけ、がんばれ、と声援を送るだけでなく、中には背中を押してくれる者もある。
 頂上が近づいてくると、さらに多くの観客が沿道に押し寄せる。少しでも選手を間近に見ようと、みんなが道の中央にまで寄ってくる。けれど、人垣で道幅が狭くなれば、事故が起こる可能性も出てくるため、選手にとってはありがた迷惑といったところだった。
「危ないっ、どけろっ」
 ハイタカが神経質な叫び声をあげながら上っていく。その後ろについている宵藍は、まだ気分的に楽だった。
 そのとき1人の少年が駆け寄り、ボトルを差し出してきた。
「宵藍、水」
 唐突に、あのときの記憶がフラッシュバックする。
「やめろっ」
 宵藍は思わず少年の手を払い除けていた。そして、すぐに後悔した。
 あの少年は好意でボトルを渡そうとしてくれただけかもしれない。むしろ、薬物が混入している可能性のほうが低いだろう。それなのに、自分は少年の好意を冷たく跳ね除けてしまった。
 そう思うと、どうしよもない罪悪感と自己嫌悪が宵藍を襲ってきた。少年の顔を振り返ることもできなかった。
「宵藍、どうしたんだ」
 名前を呼ばれて顔を上げると、ハイタカとの間に距離ができていた。宵藍は自分がペースダウンしていることに気づく。
「なんでもない」
 宵藍は再び速度を上げようとするが、一度集中力が切れてしまったせいか、なかなかペースが掴めない。あのとき味わった絶望感が甦ってくる。
 あの男は、浅葱はもういない。
 そう思おうとしても、つい人垣の中に彼の姿を探してしまう。観客が怖い。
「しっかりしろ」
 ハイタカが下がってきた。宵藍のペースに合わせて前を引く。
「すまない」
 宵藍が詫びると、ハイタカはもうそれ以上なにも言わず、黙って宵藍を引き続けた。
 エースである自分が、これ以上仲間の足を引っ張ってはいけない。
 宵藍は少しでもバイクを軽くして負担を減らそうと、残り少なくなったボトルの水を頭からかぶった。空になったボトルを、2本とも道路脇へ投げ捨てた。
 濡れた身体から湯気が上がる。
 気化熱が火照った身体を冷まし、少しだけ身体が軽くなった。
 けれど、それが乾いた頃には、すぐ下で大きな歓声があがっていた。
 その歓声は次第に近くなってくる。
 ハイタカが振り返った。
「くそっ、もう追いついてきたか」
「誰?」
「まだ見えない」
 2人は観客の声に耳を澄ませた。ところが、なぜだか選手の名前が出てこない。
 もしかしたら……。
 宵藍がそう思ったとき、すぐ後ろで観客が叫んだ。
「すごいぞっ、がんばれっ」
 その声に振り返ったハイタカの顔が、驚愕の表情に変わる。
「まさか」
 宵藍も振り返った。
 そこにいたのは、サシバでもバーミリオンでもアオギリでもなく、〈デネブ〉のメイズだった。





第20話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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