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 雨が上がった。第4ステージはツアー最初の勝負どころにして、前半戦の見せ場となる山岳ステージだ。コースとしてはE区の外れからS区までの山越えで、終盤に標高168〇メートル、カテゴリーS級の山岳が待ち受けている。
 ここでは山岳を得意とする選手を多く有する〈プロキオン〉と〈アルタイル〉、そして前回のワンデイレースには出場していなかった〈デネブ〉が優位にレースを進めた。いつものように山頂付近ではハイタカとサシバの一騎打ちとなり、今回はサシバが山岳ポイントを獲った。総合1位のセージが宵藍とバーミリオンよりも後方の集団にいたため、宵藍たちは、ハイタカとサシバを逃がした。
「いけっ。今日はおまえらの日だ」
 バーミリオンはうれしそうに檄を飛ばした。
 この日のステージを制したのはサシバだったが、総合順位はバーミリオンがセージのタイムを抜いて1位に立った。宵藍も数秒遅れで2位につけている。
 それにしても、〈デネブ〉の台頭は誰も予想していなかった。
「あいつら、不気味だな」
 宿での夕食の席で、蘇芳が呟いた。
 それにはウツギも同感のようだった。
「今まで目立った成績は上げてないチームだよな。なんであんなに強いんだ?」
 ハイタカがフォークを置いて答える。
「メンバーが入れ替わっている。クライマーのメイズという男は見たことがない」
「ああ、あのトウモロコシみたいな髪の男?」
 アクセルロディが口から汁を飛ばしながらしゃべると、向かいの席のパンデュロが顔を顰めた。
「ロディ、食べるかしゃべるかどちらかにしろ」
 ロディは口の中のものを飲み込んでから、再び口を開いた。
「あんなのまぐれだろ。じゃなきゃドーピングでもしてるんだ」
 たしかに宵藍も、あのメイズという男の目をなんとなく異様に感じた。勾配のきつい登坂を攻めているのに、彼の瞳にはまったく覇気が感じられなかった。まるで、今日のレースはおまえたちに譲ってやる、とでも言いたげな、暗く鈍い色をしていた。
 ふと、浅葱に陥れられ、図らずもドーピングしてしまったあの山岳での自分を思い出す。
 あのとき、おれはどんな目をしていただろうか。メイズと同じ目をしていなかっただろうか。
 宵藍は席を立った。
「ごちそうさま。早くマッサージを受けたいから、先に部屋に戻るよ」
 食堂を出る直前、誰かの「まだ気にしてるんじゃないか」という声が聞こえたが、宵藍はそのまま自分にあてがわれた部屋へ向かった。
 湖緑はすぐにやって来た。いつものようにTシャツとハーフパンツを脱いでベッドに横たわると、湖緑は手のひらにマッサージオイルをたっぷりとった。宵藍の片方の足首を肩に担いで、足首から脹脛へ撫で下ろすようにマッサージする。
 宵藍は天井を見つめながら口を開いた。
「湖緑、ドーピングしている人間はどんな目をしている?」
 少し間があってから、湖緑はいつもの口調で答えた。
「目が爛々と光って、充血しているでしょうね。それがどうかしましたか?」
「いや……」
「〈デネブ〉のメイズを疑っているのですか?」
 宵藍が返事をしないでいると、湖緑は構わず続けた。
「あれはドーピングではないでしょう。おそらくこのツアー中のどこかで抜き打ちの検査があるだろうから、そのときにはっきりしますよ」
 やけにきっぱりと断言する。まるでメイズを庇うような口振りに違和感を抱いたが、ライバルチームの選手のことで言い争うつもりもなかったので、宵藍は口を噤んだ。
 
 
 ツアーの後半戦に突入する第5ステージは、64キロメートルの平坦コースをチームで走って所要時間を競うチームTTだ。チーム成績の下位から順に5分おきに出走し、8人中5番目にゴールした選手のタイムがそのチームの成績となる。
 スタート地点はS区の田園地帯の中にぽつんと建つ古い遺跡。遠い昔に滅びた文明の残骸が眠る石造りの古城の広場を出発し、砂漠化が進んで荒涼とした原野の中を延びる古い街道を行く。平坦とはいえ終盤にはアップダウンもあり、意外とタイムに差がつくステージとなっている。
 チーム走行には、個人走行とは違った走りが求められる。チームに早い選手がいれば勝てるという単純なものではない。肝心なのはチームワークだ。
 平坦でも時速60キロメートル以上のスピードで走ることのあるロードレースでは、空気抵抗も凄まじい。1人で走っていてはすぐに体力を消耗してしまう。そこでローテーションを組んで風除けとなる先頭を交代しながら、効率よく走るのだ。
 チームTTに限らず、普段のレースでも集団はチームの枠を超えてローテーションを組んで走るものだが、8人という少人数でタイムを競うチームTTでは、より精度の高い走りが必要となる。その精度を高めるものがチームワークだ。いくら熟練した技術を持っていても、仲間同士の息が合わなければチームTTは戦えない。
 そういった意味では、優勝争いに絡んでこないようなチームにもステージ優勝のチャンスがある。逆に〈プロキオン〉のように一人一人の能力は高いが、個性がぶつかり合っているようなチームには不利なステージといえる。
 しかし、ここで順位を下げたくない。宵藍は息が上がるのを感じながら、単独で逃げているかのように必死でペダルを踏んだ。
「宵藍、引きすぎだ。後ろに下がれ」
 アオギリが背後から叫んだ。
 我に返った宵藍は、左にずれて脚を緩める。列の一番後ろにつくと、前を走るアクセルロディが吐き捨てるように言った。
「おまえ1人が熱くなったってしょーがねえんだよ。勝ちたいのはみんな同じなんだ」
 仲間を信じろ。
 どうやらロディはそう言いたいらしい。
 いつも自分本位で、チームの中で一番協調性がなさそうに見えるロディでも、チームを思う気持ちは持ち合わせているらしいことがわかって、宵藍は率直に驚いた。
 前に目をやると、後ろに下がる途中の蘇芳が、ロディに自分のボトルを手渡していた。ロディのボトルの水が残りわずかなことに気づいていたらしい。ロディのすぐ後ろを走っている自分が気づかなかったのに。
 宵藍は急に恥ずかしくなった。
 おれはなにも見えていなかったのかもしれない。
 そして、このチームならもしかしたらチームTTも充分に戦えるのではないか、と思えてくるのだった。
 しかし、現実はそれほど甘くはなかった。健闘空しく〈プロキオン〉は4位に終わった。宵藍は総合順位を1つ下げてしまった。けれど、不思議と気持ちは晴れていた。
 ステージ2位だった〈アルタイル〉のバーミリオンは、前日のステージでセージから奪ったリーダージャージを守った。
 
 
 第6ステージは我慢のステージだった。
 前日のチームTTで成績がふるわなかった分、宵藍たちの気合の入り方は違っていた。しかし、まだ勝負をかけるときではない。翌日から2日間続く山岳ステージのために、脚をためておかなければならないのだ。攻めるなら超級の山岳。それがサデの作戦だった。
 あたりは乾燥して白茶けた大地。ところどころに生えている小さなブッシュは、一体どこから水を得ているのだろうか。
 雲ひとつない空は、果てしなく遠い。
 宵藍はホルダーからボトルを抜いて、乾いた喉を潤した。口の端を滴り落ちる水を手の甲で拭い、前方を見据える。
「それにしたって、いきたいのにいけないのは辛すぎる」
 集団の先頭から少し下がった位置に待機している宵藍は、前を塞ぐジャージの群を恨めしそうに睨んだ。そのさらに先には、Nシティの西側に聳える山脈が霞んで見える。もちろん、今日はまだ上らない。手前の小さな山をいくつか越えたところでゴールとなる。集団がばらけるとしたら、その登坂に入ってからだろう。
 鬱陶しい集団から抜け出したい宵藍は、はやる気持ちをぐっと呑み込んだ。
 そのとき、耳に嵌めたイヤホンから、サデとアクセルロディのやり取りが聞こえてきた。回線は常にオープンにしてある。
「ロディ、ウツギ、そろそろ〈リゲル〉が動き出すはずだ。警戒しろ」
「了解」
「パンデュロたちはそのまま先頭で集団をコントロールしてくれ」
 セージはヒルクライムが得意ではない。だからコースが平坦な今のうちに逃げて、少しでもアドバンテージを稼いでおきたいはずだ。
 それは、上位争いに食い込めるほどのクライマーを有していないチームにとっても同じことで、集団はにわかに緊迫し始めた。
 最初に飛び出したのは、初日の個人TTでステージ優勝した男のチームだった。それにもう1つのチームが反応した。彼らは小集団を形成して必死に逃げようとするが、残りのチームはどこも追わない。
 隣に並んでいるアオギリが、宵藍に届く程度の声で言った。
「逃げたのは〈カストル〉と〈アルデバラン〉だ。あれくらいなら、山に入るまえに吸収できるだろう」
 その言葉どおり、集団は間もなく逃げグループの背中を捉えた。
 そして集団が彼らを呑み込もうとしたとき、その隙を突いて、今度はセージがアシストを連れてアタックした。
 すかさずロディとウツギがあとを追う。総合2位のセージを逃がすわけにはいかない。現在リーダージャージを保有する〈アルタイル〉のエンジュもそれに続いた。
 前回のワンデイレースで、ロディが宵藍を捨て、セージのアタックに便乗して逃げようとしていたことは、宵藍も薄々わかっていた。そのことでロディに対して不信感を抱いた宵藍だったが、今は、あれは出来心だったと思いたかった。
「ロディを信じていいよね」
「ああ、大丈夫だ」
 アオギリの自信に満ちた言葉と、その深みのある声が、宵藍の心に安定をもたらす。
 浅葱の件で一時はぎくしゃくしてしまった2人の仲だったが、今はすっかり落ち着いている。表面上は。
 俺はおまえのためだけに走る。
 あのときアオギリはそう誓った。心の中はどうであれ、彼がそう口にしたからには絶対に裏切ることはないだろう。その点については、宵藍の中に疑いの気持ちはない。ただ、あの言葉が償いではなく、アオギリの本心であってほしいと願うだけだ。
 1つめの峠を越え、次の上りに入ったところで、集団は逃げグループを吸収し、宵藍の心配は杞憂に終わった。
「よくやった」
 役目を果たして疲れきったロディが宵藍たちの位置まで下がってくると、アオギリはロディの背中を叩いて彼の働きを労った。宵藍もそれに習う。
「ご苦労さま、ロディ」
 ロディはふん、と鼻を鳴らした。
「監督命令だからな。これで優勝できなかったら許さねえ」
 ハンドルに項垂れたまま、ロディはさらに後方へ下がっていった。
「あいつは本当に天の邪鬼だな」
 そう言って呆れながらも、心なしかアオギリの表情はうれしそうだった。
 宵藍も、ようやくロディが自分の仲間であることを実感できて、思わず胸が熱くなった。
 明日からの山岳で必ず逆転してやる。
 宵藍は気合を入れ直した。
 その後も何度かアタックする者は現れたが、いずれも決まらなかった。宵藍とバーミリオンは互いに牽制し合い、そのままゴールスプリントで勝敗を決することになった。
 ゴール手前の駆け引きは5分と5分。2人はほぼ同時にフィニッシュラインを通過した。
 結局バーミリオンの1位は変わらなかったが、宵藍は再び2位に順位を上げた。





第19話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

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