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  鉛色の雲が空を覆い尽くしている。まるで波乱の幕開けを暗示するかのように。
 年に一度のロードレースの祭典、ツアー・オブ・Nシティは、毎回個人TT(タイムトライアル)で始まる。11チーム、総勢88人が1分おきにセントラル区の中央広場をスタートし、12キロメートルのコースを走って再び広場でゴールとなる。
 この第1ステージは、顔見せ的な意味合いが強く、どのチームもまだ様子見の段階のため、TTを得意とするスプリンタータイプの選手や、普段あまり目立たない選手が上位に顔を見せることが多い。どんな形であれ、選手たちは皆、リーダージャージに袖を通す自分の姿を夢見るのである。
 このリーダージャージは、その日、個人総合成績がトップだった者に与えられる。第2ステージからは、いくらステージ優勝を果たしても、個人総合でトップに立たなければリーダージャージを着ることはできない。そして、8日目の最終ステージが終わった時点でリーダージャージを着ている者が、ツアー・オブ・Nシティのチャンピオンとなる。


「ツアーの初っ端から厭な空だな。降られなきゃいいけど……」
 ウツギの呟きに、ローラー台でウォーミングアップをしながら出走の瞬間を待っているアクセルロディが応える。
「オレの番までもてばいいよ」
 その身勝手な言い分に蘇芳が厭味を言う。
「まるで宵藍たちが走るときには降ってくれと言わんばかりだな」
「蘇芳が走るときはまだ降らないから大丈夫だよ」
 第1ステージの個人TTは、前年の年間総合ランキングの下位の選手から順に出走する。要するに、蘇芳は自分よりも格下だとロディは言いたいのだ。
「ふん。今日くらいしかチャンスのないヤツは必死だな」
「なんだとっ」
 ハイタカが蘇芳を窘めるよりも早く、ロディがローラー台から下りて蘇芳に掴みかかろうとした。その瞬間、パンデュロの声が一喝する。
「いい加減にしろ。チーム内で争ってどうする」
「そうだな」
 年長者のパンデュロに一目置いている蘇芳は、おとなしく引き下がった。それに対してロディは、まだ不服そうな顔で蘇芳を睨みつけている。
「ロディ、俺たちはエースを勝たせるために雇われてるんだ。おまえもプロなら、自分の仕事を忘れるなよ」
 前回のレースでパンデュロに試されていた宵藍とアオギリは、とりあえず及第点をもらえたようだった。
「……わかってるよ」
 ロディも渋々納得した。
 彼らのやり取りを、宵藍は少し離れたところから眺めていた。
 自分の出走の順番を待つこの時間帯、緊張のあまり気が立ってしまうのは無理もない。宵藍も緊張していないといえば嘘になる。しかし、その緊張は外ではなく内に向かって宵藍を追い込んでいた。
 このレースでも、前回のような罠が張られているかもしれない。
 浅葱の所在が掴めない今、その不安を完全に振り払うことは難しかった。
 宵藍は喧騒を嫌って、1人チームテントの裏手にまわった。すると、すぐにアオギリがあとを追ってきた。
「大丈夫か? 顔色が悪い」
 自分を気遣ってくれているアオギリの声に、逆に宵藍の心は折れそうになる。そんな自分を隠すために、宵藍は懸命に強がって見せた。
「それ、誰に言ってるの?」
 するとアオギリは、あの銀色の光を宿した青い瞳で宵藍を見つめる。
「心配するな。もう誰にもおまえの邪魔はさせない」
 隠そうとしても、アオギリには自分の不安を見透かされている。宵藍にはそれが悔しくもあり、安心でもあった。
 そのとき、テントの陰からユルエンシスが顔を出した。
「ああ、ここにいたのか。きみたちもそろそろスタンバイしてくれ」
「了解」
 宵藍は一歩一歩地面を踏み締めるように、スタート地点のステージへと向かった。
 TT用のバイクは通常と仕様が異なる。空気抵抗を軽減すべく流線型のフレームを使用し、後輪のホイールもスポークにかかる空気抵抗を排除するためにディスク状になっている。ハンドルもペダルもヘルメットも、すべて100分の1秒でもタイムを縮めるために工夫されたものだ。
 宵藍はシューズのベルトを締め直し、スタート位置についた。
 スターターが指を折ってカウントダウンを始める。
 5、4、3、2……スタート。
 宵藍は力強くペダルを踏み込んだ。
 出足は快調だった。走り出してしまえば、頭の中の雑念はすべて吹き飛んだ。ただ走ることだけに精神が集中していく。
 平坦、短距離のTTは、クライマーの脚質の宵藍には不利だ。どうしたってパワフルライドのスプリンターには勝てない。
 けれど、この一戦でチャンピオンが決定するわけではない。8日間の過酷なレースを走り抜き、最終的にトップに立てればいいのだ。
 焦らなくていい。自分の走りをするんだ。
 宵藍は自分に言い聞かせた。
 レース前の不安が現実となることもなく、宵藍の個人TTは無事に終了した。結果は1位から6秒遅れの8位。宵藍にとっては上出来といえる成績だった。
 宵藍よりもタイムがよかったアクセルロディは、ここぞとばかりに監督にアピールしていたが、宵藍は気にならなかった。本当に警戒しなければならない相手は、チームの外にいるのだ。
 リーダージャージを最初に着たのは〈カストル〉のスプリンターだった。パンデュロは惜しくも1秒差でリーダージャージを逃した。宵藍の好敵手であるバーミリオンは5位、セージは4位だった。
 宿舎に戻ってからのミーティングで、サデが第2ステージの戦術を伝える。
「明日は比較的平坦なステージだから、ハイスピードな展開になるだろう。〈リゲル〉にはパンデュロとムクロジ、〈アルタイル〉にはハイタカと蘇芳がマークにつけ。ロディとウツギは集団に揺さぶりをかけろ。現時点で3位につけているロディが逃げれば、反応してくるチームはあるだろう。山岳ステージに入る前に、なるべく敵に脚を使わせるんだ。宵藍とアオギリは集団で待機。勝負をかけるのはまだ先だ」
 
 
 第2ステージ。昨日持ちこたえた天気が、この日になって崩れた。セントラル区をスタートしてN区を通過し、海岸線をひたすら南下する179キロメートルの平坦なコースだったが、雨のせいで予想していたほどハイペースにもならず、集団は大きな動きがないまま、E区入り口のゴール地点まで整然と移動した。
 2日目からは、選手たちは住み慣れた宿舎ではなく、町の宿を転々とすることになる。その環境でいかに心身をリラックスさせ、疲労を回復するかが、翌日のレースに大きく影響してくるのだ。ステージレースを戦うには、精神的にも肉体的にもタフでなければならない。
 
 
 天気が回復しないまま迎えた第3ステージは、序盤からアタックの潰し合いとなった。海辺のE区から内陸の丘陵地帯へ向かうコースには、カテゴリーC、D級の山々が連なっている。難易度は低いものの、細かいアップダウンが多く、距離も210キロメートルと長い。この悪天候の中、有力チームは無理に仕掛けてこないだろうと読んだ複数のチームが、峠を利用して何度もアタックを試みたが、すべて失敗に終わった。
 宵藍はゴール手前20キロメートルの地点で集団を飛び出し、それに反応した〈アルタイル〉のバーミリオンと〈リゲル〉のセージを含む小集団での逃げとなった。
 最後はゴールスプリントに縺れ込んだ。これを制したのはセージだった。リーダージャージは〈カストル〉のスプリンターからセージに渡った。宵藍はこのステージを2位でフィニッシュし、総合順位を一気に3位まで上げた。





第18話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
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一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
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