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「海藍……海藍、いないの?」
 1人で父親の家を訪れた宵藍は、玄関ドアの隙間から中を覗き込み、遠慮がちに呼びかけた。けれど返事がない。
 宵藍は離れの小屋がバイクの工房になっていることを思い出し、母屋の裏手にまわった。すると小屋の中から海藍の声と、もう1人知らない男の声が洩れ聞こえてきた。無意識のうちに足音を潜め、宵藍はそっと小屋に近づいた。
「……をバイク乗りにするつもりはない」
 宵藍は背伸びをして、窓の隙間から中の様子を窺った。そこには見慣れない男の背中が2つあった。1つは白尽くめで、もう1つは黒尽くめだった。
 白尽くめの男が肩を竦めた。
「ならば、力尽くであちら側に連れていくまでです」
 声は若かった。
「連れていってどうするんだっ」
 白尽くめの背中越しに、怒りと怯えがない交ぜになった海藍の表情が見えた。
「そんなこと、あなたが知る必要はない」
 白尽くめの男が冷ややかに言った。黒尽くめの男は一言も発せず、ただ傍らに控えている。
「あいつは絶対におまえらには渡さない」
「だったら、こちらの要求を呑んでくださいよ。そうすれば、今後あなたがたに手出しはしないと約束します。あなたは彼を、あなたと同じロードレーサーに育てるだけでいいのです」
「くっ……」
 海藍の顔が歪んだ。レースの最中ですら、こんなに苦しげな表情の海藍を見たことはなかった。
 宵藍は見てはいけないものを見てしまった気がして、途端に怖くなった。気づかれないように足音を殺して、その場から逃げ出した。
 あの白尽くめの男は誰なんだ? あいつは一体なにを言っていたんだ?
 わけがわからない。
 ただ、あの男は危険だと本能的に感じた。
 宵藍は家に向かって走った。無我夢中で走った。一度でも後ろを振り返ったら、得体の知れない恐怖に捕まってしまいそうで、息も絶え絶えになりながら走り続けた。
 途中、誰かが遠くから宵藍を呼び止める。
「おい」
 追っ手かもしれない。もっと速く走らなければ。けれど、これ以上脚が上がらない。
「おい」
 今度はさっきよりも間近に聞こえた。
 もうだめだ。捕まる。
「おい、起きろ」
 強く肩を揺さぶられ、宵藍は夢から覚めた。
「あ……アオギリ……」
 目の前にあるアオギリの顔をぼんやりと見つめた。男らしく整った顔が、心配そうに覗き込んでくる。
「うなされていたぞ」
「夢を……見ていたんだ。小さい頃の……」
 夢なのか現実なのか曖昧なほど、すっかり忘れていた遠い記憶。
「そうか。それより、下にバーミリオンが来ている。おまえに話があるらしい」
「えっ?」
 宵藍は勢いよく起き上がった。まさかライバルチームの選手が、堂々と敵陣に乗り込んでくるとは誰も思わない。
 よっぽど大事な話なのかな。
 そう考えたとき、宵藍は自分の置かれている立場を思い出した。
「みんなは?」
「とっくに戻ってきている。夕食も食べてないのはお前だけだ」
 壁の時計を見ると、午後9時をまわっていた。胃は空腹を忘れてしまったようだ。
 とにかく、バーミリオンと会おう。
 ベッドから立ち上がった瞬間、足元がもつれた。
「あっ」
 ぐらりと傾いた宵藍の身体を、アオギリが抱きとめた。
「脚にきているな」
「あ、ありがとう」
 礼を言って身体を離そうとする宵藍を、アオギリの腕が引き止める。
「おまえ……汗臭いぞ」
 宿舎に帰ってきてから、シャワーも浴びずにジャージのまま眠ってしまったのだから当然だ。
「バーミリオンには俺からもう少し待ってもらえるように言っておくから、おまえはさっさとシャワーを浴びて、着替えてからこい」
「う、うん」
 アオギリに言われるままに、宵藍はタオルと着替えを持ってシャワールームに駆け込んだ。脱いだジャージを併設のランドリーに放り込んでから、熱い湯を頭から浴びる。すると、ようやく頭の芯がはっきりしてきた。
 ふと、先程の夢を思い出す。
 夢に見るまですっかり忘れてしまっていたが、あれは実際にあったことだった。幼かった宵藍には、あの会話の意味がわからなかったが、今ならわかる。海藍は何者かに脅されていた。おそらくは海藍と宵藍の事情を知る人間に。白尽くめの男が言った「あちら側」というのは、シン・シティに違いない。
「あいつ、何者だったんだろう……」
 声の感じからすると、海藍よりも幾分若そうだった。その若者の望みどおり、宵藍は現在ロードレーサーになっている。海藍が望まなかった海藍と同じ道を、宵藍も歩いている。
 もっとも、その道もここで途絶えようとしているのだが……。
 宵藍は蛇口を捻ってシャワーを止めると、急いで身体を拭いた。Tシャツとハーフパンツを身に着けて、バーミリオンが待つエントランスへ向かった。濡れているせいで漆黒に見える髪から水滴が滴り落ち、首にかけたタオルに染みていく。
「ごめん、遅くな……」
 エントランスには誰もいなかった。広間も覗いてみたが、すでに照明は落とされていた。
「バーミリオン、アオギリ」
 名前を呼ぶと、ケアルームからアオギリが顔を出した。
「こっちだ」
 宵藍は小走りで駆け寄った。
 ケアルームにはバーミリオンとアオギリ、それから湖緑がいた。
「待たせてごめん」
 バーミリオンに詫びると、彼は沈痛な面持ちで宵藍を見つめた。
「宵藍……大丈夫か?」
 彼がどれだけ宵藍を心配してくれていたかを知り、宵藍は胸が熱くなった。
「うん、心配かけてごめん。ドーピングで失格だなんてみっともないよな」
 軽く笑い飛ばそうとしたが、情けない顔になってしまっているのが自分でもわかった。
「オレは信じてる。宵藍はドーピングなんかするヤツじゃないって」
「ありがとう。でも、検査で陽性が出てしまった以上、もうどうすることもできない」
「宵藍は嵌められたんだよ」
 バーミリオンがそう断言することに、宵藍は少し驚いた。
「今、その話をしていたんです」
 窓に凭れて腕組みしていた湖緑が口を開いた。
「彼はあの峠できみのすぐ後を走っていたんです。きみが観客からボトルを受け取ったところも目撃しています。しかも、彼が見たのはそれだけじゃありません」
 湖緑の視線を受けて、バーミリオンが言葉を継ぐ。
「観客の中にあいつが……浅葱がいたんだ」
 一瞬、宵藍は息を呑んだ。それから確信を得た宵藍ははっきりと告げた。
「おれも見たよ」
 湖緑が驚きの声をあげた。
「なに? 宵藍も見たんですか?」
「うん。一瞬だったから、おれの見間違いかと思ったんだけど、バーミリオンも見たなら間違いないと思う」
「くそっ、またあいつか」
 湖緑は珍しく語気を荒げ、髪をぐしゃぐしゃと掻き毟った。
「これが本当なら、協会に宵藍の処分を撤回させることができるかもしれません」
 言うなり湖緑はケアルームを飛び出していった。
 呆気にとられていると、それまでの重たい空気を振り払うように、バーミリオンが明るい声で言った。
「よかったな、宵藍。なんとかなるかもしれないぞ」
 宵藍はようやく笑顔を見せた。
「ああ」
「繰り上げで優勝なんてカッコつかないし、第一、宵藍がいないレースなんかつまんないよ」
 照れ臭そうに鼻の頭を掻くバーミリオンに、アオギリも頭を下げる。
「俺からも礼を言う。ありがとう」
 すると、バーミリオンの顔からすっと笑顔が消えた。真剣な眼差しでアオギリを見上げる。
「あんたさ、宵藍のアシストだろ? もっとしっかりしろよ。浅葱の件はあんたにも責任があるんじゃないのか?」
「バーミリオン、アオギリは……」
 反論しようとする宵藍を、アオギリが制した。
「そのとおりだ。浅葱とのけじめはきちんとつける」
 しばし睨み合ったあと、不意にバーミリオンが相好を崩した。
「……だってよ、宵藍」
 バーミリオンは宵藍にウインクした。
「それじゃあ、用も済んだことだし、敵将は去ろうかな」
 ケアルームを出てエントランスへ向かうバーミリオンのあとを宵藍は追った。2人は並んで廊下を歩いた。
「いい結果が出るといいな」
「うん」
 エントランスを抜けると、前カゴのついた街乗り用の一般的なバイクが庭で主を待っていた。
「バーミリオン、これで来たの?」
「そうだよ。寮母のおばちゃんの買い物用バイクを拝借してきたんだ。オレ様くらいになると、どんなバイクでも似合っちゃうんだな、これが」
 そう言ってバーミリオンは颯爽とバイクに跨った。
「うん、かっこいいよ」
 自分のためにバーミリオンがおばちゃんバイクを飛ばしてきてくれたのだと思うと、うれしいようなおかしいような複雑な気分で、ちょっぴり涙が出た。でも、宿舎の窓からこぼれる灯りが逆光となって、バーミリオンにはわからないはずだ。
「宵藍、ツアー・オブ・Nシティで決着をつけよう」
 バーミリオンが突き出した拳に、宵藍も拳をぶつける。
「ああ」
 バーミリオンは力強くペダルを踏み、街灯に照らされた石畳の上を滑るように走っていった。
 いくらアマチュア時代からの付き合いだといっても、プロになればみんなシビアになっていく。そんな中、今でも変わらずに友情を示してくれるバーミリオンの存在は、宵藍にとってかけがえのないものだった。もしも彼の身になにかが起こったとき、自分だけは最後まで彼の味方でいようと、宵藍はあらためて心に誓った。
 協会から出場停止処分撤回の連絡を受けたのは、それから5日後のことだった。自分の意思ではなかったものの、レース中に薬物を使用してしまったことは事実なので、失格処分までは取り下げてもらえず、バーミリオンの優勝が確定した。けれど、宵藍にはそれで充分だった。





第16話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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