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時速50キロメートルを超えると、筋肉の中に処理しきれなくなった乳酸が溜まり始める。それでも全力でペダルを踏んで、さらにスピードを増していく。
 残り1キロメートルを切ったところで、バーミリオンが単独アタックをかけた。すかさずアオギリが反応し、彼を風除けにして宵藍も追う。
 ゴール地点の中央広場が近づいてくる。次のカーブを過ぎれば、あとは直線コースだ。石畳にハンドルを取られないよう、慎重にバイクを操る。
 3人はほぼ同時にカーブを抜けた。最後の直線に入ると、宵藍はもう1段ギアを重くした。シフトチェンジの音を聞いたアオギリが進路を空けると同時に、宵藍が飛び出す。
 バーミリオンも加速し、1対1のゴールスプリントに突入する。
レースを見守る市民の歓声が、一段と高くなった。
 宵藍はバイクを左右に揺らしながら、渾身の力を込めてペダルを踏んだ。思っていたほどの疲れはなく、脚もよく回転している。
 これならいける。
 宵藍の確信は徐々に形を表していく。見れば、じわじわとバーミリオンを引き離しつつあった。
 苦しげな表情で追い縋ろうともがくバーミリオンを2度3度と振り返りながら、宵藍はさらにリードを広げてフィニッシュラインに飛び込んだ。
 バーミリオンは1秒遅れでフィニッシュ。
 大きな歓声とどよめきが広場に充満した。
 ユルエンシスが宵藍を出迎える。
「宵藍、よくやった」
 息を切らせながら、宵藍は肩を叩くユルエンシスに目だけで応えた。そしてすぐに後を振り返った。バーミリオンがチームのスタッフに支えられ、宵藍に歩み寄ってくる。
 どちらからともなく手を差し出し、2人は硬い握手を交わした。
「また、やられちまった」
 息を乱しながら、たいして悔しくもなさそうにバーミリオンが言った。
 けれど、彼が休養日をとらずに明日からトレーニングを開始するであろうことを、宵藍は知っていた。
 宵藍とアオギリは、本部でドーピング検査を受けてからチームのテントへ戻った。
「宵藍、クールダウンのストレッチを忘れずにしてくださいよ」
 湖緑に促され、宵藍はテントの前でストレッチを始めた。筋肉中に蓄積した疲労物質を流すため、地面に座って股関節を広げたり大腿部の筋肉を伸ばしたりして血の流れをよくする。
 そうしているうちにユルエンシスが戻ってきた。なぜか、その端正な顔は青ざめていた。冷たいレンズが、彼の足元でストレッチをしている宵藍を見下ろす。
「宵藍、きみは失格になった」
「え?」
 彼の言葉の意味が、宵藍にはわからなかった。
「どういうことだっ」
 隣で聞いていたアオギリが、ユルエンシスに詰め寄った。
 それを呆然と眺めながら、宵藍は身体を起こした。立ち上がろうとしたが、脚に力が入らない。
 ユルエンシスがわずかに眉根を寄せた。
「ドーピング検査で陽性反応がでたんだ」
 絶句するアオギリの後で、アクセルロディが吠えた。
「宵藍、おまえ本当に薬やったのか? そんなことして恥ずかしくねえのかよっ」
「ロディ、待って」
 ウツギが慌てて遮った。
 その場にいたほかのメンバーは、誰一人として口を開かない。軽々しく口を挟める問題ではなかった。
「もちろん、うちとしてはその検査結果を鵜呑みにするつもりはない。今、サデが主催側に再検査を要求しているところだ」
 仲間の視線が宵藍に集中する。アオギリも無言で宵藍を見下ろすだけだ。
 宵藍は眩暈を覚えた。違反薬物の使用が認めたれた場合、1年間レースへの出場が禁止される。つまり、ツアー・オブ・Nシティに出られないということだ。それどころか〈プロキオン〉が契約を打ち切ってくる可能性が高い。
 宵藍はゆるゆると首を横に振りながら、震える唇を開いた。
「そんなはずはない。おれは薬物なんか使ってない」
 ユルエンシスの瞳が眼鏡の奥で鋭く光る。
「本当なんだな?」
「本当だよ。おれはドーピングなんかしない。なにに誓えばいい?」
 なんの信仰も持たない宵藍には、こんなときに誓う神がいない。
 すると、アオギリが宵藍の傍らに膝をついた。銀色を帯びた青い瞳が宵藍を捉える。
「俺に誓え」
 宵藍はアオギリの瞳を正面から見つめ返し、惹き込まれるように頷いた。
「アオギリに誓うよ。おれは絶対にドーピングなんかしていない」
 宵藍の曇りのない澄んだ瞳を見つめ、アオギリは厳かに審判を下す。
「ならば信じよう」
 ユルエンシスがため息をついた。
「それでも検査結果は陽性だったんだ。この事実をどうやってひっくり返すんだ」
 それまで黙っていた湖緑が、ある可能性を指摘した。
「自分で摂取した覚えがないということは、知らないうちに摂取していたということでしょう? しかも、現在は血液検査をしても発覚しにくい高性能な薬が出まわっているにもかかわらず、あえて簡単な尿検査で一発陽性が出るような古典的な薬を使ってるんです。何者かに陥れられたと考えるのが妥当です」
 まさか、宵藍が気づかないうちに、食事や飲み物に違反薬物を混入した者がいるということか。
「宵藍、今日一日、普段と違うものを口にした覚えはありませんか?」
 湖緑に訊かれて、宵藍は朝からの自分の行動を振り返ってみる。朝食はいつものようにナズナが用意してくれたものを食べた。レース会場の待機スペースでドリンクを飲んだが、アオギリやほかのチームメイトも同じものを口にしている。レース中はチームカーから手渡された補給食とドリンクだけで……。
「あっ」
 そのとき、峠でボトルを差し出してきた少年を思い出した。
「峠の山頂付近を登ってるとき、観客の少年がくれたボトルを飲んだ」
 そのボトルなら、飲んだのは宵藍だけだ。
「そのボトルはどうしました?」
「途中で道端に投げたよ」
 湖緑が唸った。
「その少年が犯人とは考えにくい。背後に何者かがいるはずです。少年を探し出すのは不可能でしょうから、せめてボトルだけでも回収したいところですが……」
 最初から宵藍を陥れるつもりなら、犯人が証拠となるボトルを残すとも思えないが、ほかに手がかりはない。
「でも、一体誰がそんなことを……」
 ユルエンシスの呟きに、湖緑が応える。
「今日、どうしても勝ちたかった者か、宵藍に恨みを抱いてる人間でしょうね」
 湖緑が誰を疑っているのか気づき、宵藍は慌てて口を挟んだ。
「彼は、バーミリオンはそんなことをするヤツじゃない」
「だったら、誰だと思いますか?」
 それきり宵藍は黙り込んでしまった。
 たとえチーム内に宵藍を恨んでいる人間がいるとしても、観客を利用して宵藍に薬物を飲ませることなど考えられない。ドーピングが発覚すればチーム全体の責任となり、次のレースでペナルティを科せられることになるのだ。いくら宵藍を出場停止に追い込んでも、自らが被るリスクが大きすぎる。
 そのとき、アナウンスが鳴り渡った。広場のステージでは、宵藍を取り残したまま表彰式が始まっていた。観客の歓声と拍手の中、司会者が澱みなく式を進行する。
「まずはスプリント賞から」
 その声を聞いたユルエンシスの眉間に、深い皺が刻まれる。
「やはり無理だったか……。ハイタカ、おまえは山岳賞だ。ステージへ急げ。それとアオギリもだ」
 ゴール前で仕事を終えたアオギリは、後方から追い上げてきたセージにゴール直前で抜かれて4位でフィニッシュしたのだが、宵藍の失格により繰り上げで3位入賞となる。
「ああ……」
 気乗りしない様子のアオギリは、ハイタカに促されてステージに向かった。
「それから宵藍、おまえは先に宿舎に戻っていろ。表彰式が終わったらメディアが押し寄せてくるぞ」
「わかりました」
 宵藍はテントを出ると、サカキから自分のバイクを受け取って、なるべく人目に触れないようにして会場をあとにした。ひどく惨めな気分だった。
 宿舎は中央広場から南西に4キロメートルほど離れたところにある。工房にバイクを置くと、宵藍は留守を預かっているナズナに挨拶もせず、部屋に直行した。チームジャージのままベッドに倒れ込む。
「畜生っ」
 拳をベッドに叩きつけた。
 誰に向けたらいいのかわからない怒りを、ひたすらベッドにぶつけた。
 次第に気持ちが落ち着いてきて、宵藍はようやく握った拳を開いた。その掌を見つめて、小さく呟く。
「どうしてこんなことに……」
 結局、主催側はサデの要求を呑まずに、宵藍を失格とした。ということは、宵藍は今年のツアー・オブ・Nシティに出場できないということになる。選手生命すらどうなるかわからない。
 過去にも選手のドーピングが発覚したことは何度もあった。当時は罰則が甘く、1ヶ月の出場停止処分で済んだうえに、なるべくスター選手を集めてレースを盛り上げたい主催側の思惑で、ドーピング検査は次第に形骸化していった。しまいには、観客が喜ぶレースを見せるため、検査を一切行わずにドーピングを容認する主催団体まで現れた。
 しかし、レースファンは黙っていなかった。ロードレース界の腐敗を嘆く熱狂的な支持者たちが、ドーピング狩りと称して違反薬物を使用した選手たちを路上で襲う事件が相次いだ。それを受けて、協会はドーピングを一掃するため検査を義務化し、罰則を強化して出場停止期間を1年に延ばしたのだ。
 1年もレースに出られない選手を〈プロキオン〉が抱えておくとは思えない。ドーピングでお払い箱になった選手を受け入れようというチームが、はたしてあるだろうか。
 このままではシン・シティに入る手段を失ってしまう。天藍と東雲にも会えなくなる。
「どうしたらいいんだ……」
 宵藍は天井を仰いだ。





第15話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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