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 山岳の登坂に差しかかっても、集団の勢いは衰えなかった。サドルに腰を落としたまま、力強くペダルを踏む。
 しかし、カテゴリーC級の峠を越えてB級の登坂に入ると、ついに遅れる者が現れ始めた。1人、また1人と千切れていく。そうして先頭グループが9人まで絞られた頃から、セージの目線が落ち着かなくなってきた。ただ1人、チームメイトのクライマーに引いてもらっているバーミリオンの動きを、注意深く窺っている。アタックのタイミングを計っているのだ。
 そのとき、セージが後を振り返った。その顔に驚きと焦りの色が浮かぶ。
 思わず宵藍も振り返った。
 後方100メートルほどの所に、ハイタカと蘇芳の姿があった。
 2人は第2集団から抜け出し、宵藍たちを追ってきたのだ。
「さすがクライマーだな」
 アオギリも感心したように呟いた。
 すると、ハイタカたちに完全に追いつかれる前に、セージがアシストとともに飛び出した。
「させるかっ」
 反射的にアクセルロディとウツギが追う。
「あーあ、おたくのルーラーは単純だね」
 ロディの背中を見送りながら、バーミリオンを引いているサシバが笑った。
 しかし、ロディが考えもなしに飛び出したとは、宵藍には思えなかった。表面的にはセージを追撃する形をとりつつ、実際は自分たちがエスケープするつもりかもしれない。
 バーミリオンも同じことを考えていた。
「これならエースを放り出しても言い訳できるね」
 辛辣な物言いにエンジュが慌てる。
「おい、滅多なことを言うなよ。それに本当に彼が逃げるつもりなら、俺たちだってすぐに追わないと」
 心配性のエンジュをサシバが笑い飛ばす。
「大丈夫だよ。まだカテゴリーAの峠越えが残ってるんだ。それに……」
 サシバはいつのまにか追いついているハイタカを振り返った。
「ようやく役者が揃ったところだ。おもしろくなるのはこれからさ」
 ハイタカがアオギリに並んだ。
「第2集団で大規模な落車があった。俺たちは前のほうにいたから難を逃れたが、ムクロジが巻き込まれたかもしれない」
「そうか……」
 ムクロジがリタイアすることになると、チームカーから新しいタイヤを手に入れたとしても、パンデュロが追い上げてくる可能性はほとんどない。
「パンデュロは大丈夫かな」
 宵藍の呟きにハイタカが答える。
「彼は第2集団で仕事をすると言っていた」
 〈アルタイル〉や〈リゲル〉の選手と手を組んで第2集団をコントロールすれば、先頭グループの逃げは確実なものとなる。
 集団の顔ぶれを見て、蘇芳が疑問を口にした。
「ロディたちの姿が見えないけど」
「飛び出したセージを追ってる」
 ロディの行動に蘇芳は呆れた。
「こんなところで足を使って、あいつ本当にバカだな」
 突然、バーミリオンが陽気な声をあげた。
「あっ、今オレの名前があった。ねえ、見た?」
 山岳コースの道路には、白い塗料で選手の名前が記されていることがよくある。苦しい登り坂で贔屓の選手を応援するために、観客が書いているのだ。山頂が近づくにつれ、路面に書かれた名前も沿道の観客も増えていく。
「がんばれ、がんばれ」
 バイクに接触しそうなくらい近づいてくる熱狂的なファンに冷や冷やしながらペダルを踏んでいると、峠の頂上が見えてきた。
 山岳ポイントの旗の下を通過する。
 下りに入ると、ここでもサシバが無駄のない完璧なコース取りで集団を引いていく。クライマーは登った坂の数と同じだけ下りも経験している。そのためダウンヒルを得意とする選手も多いのだ。
 坂を下りきると、少しの間だけ平坦な道が続く。盆地になっているためか、少し気温が高い。宵藍は涼をとるためにチームジャージの胸元を開いた。ほかの選手たちもリラックスし、一時休戦となる。そして、全員このタイミングで糖分の固まりのような補給食を胃に流し込み、次のカテゴリーA級の峠越えに備えるのだ。
 ハイタカが先頭のサシバに近づき、声をかける。
「ここからは交代で先頭を引いていこう」
 サシバが頷く。
「よし、一気に先頭に追いつくぞ」
 追撃体制をとって速度を上げていくグループに、〈プロキオン〉と〈アルタイル〉のチームカーが追いついたのは、峠に入る直前だった。ハンドルを握っているサデは巧みに車体を操り、ぴたりと宵藍の隣につけた。助手席にはメカニックのサカキが乗っている。
「遅くなってすまない」
 宵藍は空になった水分補給用のボトルを後部座席の窓から車内へ放り込み、サデから新しいボトルを受け取った。
「だいぶ気温が上がってきている。しっかり水分を摂れよ」
 宵藍は頷いた。
「ロディとウツギは?」
 2人の姿を探すサデに、宵藍は簡潔に状況を説明する。
「逃げたセージを追って飛び出した」
 一瞬、難しい表情を見せたあと、サデはアオギリに指示を出す。
「とにかく宵藍を引いて先頭を追え」
 それだけ言うと、チームカーは先を急いで走り去っていった。
 飛び出したチームメイトの走りがよく、そのまま逃げ切れそうな場面では、監督の采配で急遽エースが入れ替わることがある。その時々で一番優勝を狙えそうな選手を勝たせようというのだ。要はチームが勝てればいいのだ。
 しかし、カテゴリーAの峠越えが待っている今の状況で、アクセルロディがエースになるとは考えにくい。ロディたちがセージに追いついたとしたら、おそらく口のうまいセージはロディの勝気な性格を手玉にとり、彼らと共同戦線を張ってエスケープを企てるだろう。けれど、ロディもセージも山岳のスペシャリストではない。クライマーのハイタカとサシバが引いている宵藍たちのグループが、彼らに追いつけないということはまずありえない。登坂の途中で宵藍たちに吸収されるのがおちだ。
 案の定、山岳の中腹を過ぎたあたりで、宵藍たちは逃げる4人の背中を捕らえた。
「畜生っ」
 ロディが苦しい呼吸の下で叫んだ。
 完全に集団に呑み込まれ、彼らのエスケープは終わった。
 脚を使い過ぎたロディは、最後尾について走るのがやっとだった。それでもハイタカとサシバはスピードを落とさずに、ぐいぐいと集団を引いていく。
 山頂の10キロメートル手前、それまで辛うじて食らいついていたロディとウツギが、とうとう集団から千切れてしまった。宵藍とバーミリオンにとっては、セージが振り落とされてくれれば好都合だったのだが、〈リゲル〉のエースとしてのプライドがセージを支えていた。
 山岳ポイントまで残り3キロメートルを示す旗を通過した瞬間、ハイタカとサシバは同時にアタックを開始した。クライマーの意地とプライドを賭けて、山岳ポイントの奪取に全力を振り絞る。
 2人のアタックに反応する者は1人としていなかった。ハイタカのアシストの蘇芳も集団に残った。とはいえ、あまり離されてしまうと精神的にきつくなってくるため、宵藍たちも少しずつ速度を上げていく。山頂に近づくとさらに勾配がきつくなり、集団は次第にばらけて間隔が開いていった。
 全身から汗が吹き出る。選手たちは、失った水分を携帯している給水ボトルでこまめに補給する。喉が渇いた、と自覚したときには、すでに水分不足に陥っている状態なのだ。体内の水分が少なくなると、血液の濃度が上がって循環が悪くなる。そうなると酸素や栄養が身体の各部位に行き届かなくなり、パフォーマンスが低下する。ハンガーノック同様、脱水状態も絶対に回避しなければならない。
 暑さも手伝ってか、宵藍のボトルの中身の減り具合は、いつもよりも幾分早かった。
 どこから湧いてくるのか、沿道では先程の峠よりもさらに多くの観衆が、今や遅しと選手たちを待ち構えていた。選手の名前を呼ぶ者、バイクを追いかける者、ボトルを手渡す者、応援のスタイルはさまざまだ。苦痛に喘ぐ選手のバイクを手で押してやる者もいる。本来は反則行為だが、わずかな間ならばお目こぼしもある。
「宵藍、水、水」
 人垣から少年が飛び出してきて、宵藍を追い駆けながらボトルを差し出してきた。
「ありがとう」
 宵藍は感謝してボトルを受け取り、喉を潤した。アオギリやバーミリオンにもまわそうと前後を見渡したが、押し寄せる観衆が壁になって、ほかの選手の姿がよく見えない。ふと、人垣の中に気になる男の顔を見たような気がしたが、宵藍はすぐに意識をレースに戻した。結局、残りの水は頭からかぶり、ボトルは道の端に放った。
 山岳ポイントの旗を通過。下りに入ると観客は姿を消した。バイクのスピードが増し、選手たちは一瞬で目の前を通り過ぎてしまうからだ。
 ようやく周囲が落ち着くと、バラバラになっていた集団は再びひと塊になった。
 宵藍はジャージのジッパーを上げながら、アオギリに視線をやる。
「アオギリ、下りで先頭との距離を詰めるぞ」
 宵藍はアイウェアを装着し、バーミリオンに手を振った。
「おまえらだけ行かせるかっ」
 バーミリオンも宵藍のあとに続く。
 下り坂で果敢にペダルを踏む命知らずたちは、あっという間に山を下りきった。
 山岳を北上してきたコースは、麓に広がるW区の町を横断して、ゴール地点のセントラル区に向かう。宵藍たちはW区の町に入る前にハイタカとサシバを吸収した。
「結局、山岳ポイントはどっちが獲ったんだ?」
 バーミリオンが2人に問いかけると、サシバが親指でハイタカを示した。けれど、彼の表情は意外にも晴れやかだった。ハイタカも充実した笑顔で応じる。2人の間には、クライマー同士にしかわからないなにかが通い合っているのかもしれない。
 道が完全に平坦になると、山岳のスペシャリストたちは自分たちの出番は終わったとばかりに勢いを失った。その後、一度だけバーミリオンとエンジュが仕掛けたが、即座に反応したアオギリと宵藍が彼らのアタックを潰した。そのうちにセージのアシストが千切れ、続いてセージの姿も後方に消えていった。残ったのは宵藍とアオギリ、バーミリオンとエンジュの2組だった。
 しかし、まもなく後続集団まで下がっていたチームカーが上がってきて、集団から飛び出したグループが宵藍たちに迫ってきていることを告げた。2組は一時休戦し、ローテーションを組んで逃げることにした。おそらく勝負はゴール前のスプリントに縺れ込むだろうと誰もが予想した。
 4人揃ってセントラル区に入った。沿道の観客が再び増え始め、賑やかな歓声に包まれる。
 ゴール手前3キロメートルの地点で、姿はまだ見えないものの、背中に追撃集団の気配を感じた。宵藍たちはギアを重くして速度を上げた。





第14話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

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