忍者ブログ
創作BL小説ブログ
ADMIN | WRITE | RESPONSE
■□ [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 依然として混乱したままの頭を抱え、宵藍は部屋のドアを開けた。アオギリは広間で足止めを食らっているのか、まだ戻っていなかった。
 宵藍はデスクの引き出しからフォトグラフを取り出すと、その幸せそうな家族の姿を見つめた。
 おれは目的のために、もっと非情にならなきゃいけないのか? レースに勝つために、どんな障害も排除しなければならないのか?
 けれど、浅葱のことを障害、邪魔者という言葉で片づけることはできない。浅葱のアオギリを思う気持ちを考えれば尚更だ。浅葱の行動はたしかに常識を逸脱していたが、エースに尽くすアシストの心理としては、あながち間違ってはいないのではないか。浅葱はただ、手段を誤ってしまっただけなのではないのか。そう考えると、宵藍は浅葱に同情すら覚えた。
「エースとアシストって、なんだか悲しい……」
 そのとき、廊下を歩く足音が近づいてきて、部屋の前で止んだ。
 宵藍はフォトグラフを引き出しにしまい、ドアが開くのを待った。
 ガチャリ。
「お疲れ」
 宵藍の声に小さく頷くと、アオギリは部屋の奥へ進み、どっかとベッドに腰を下ろした。肺の中の空気をすべて吐き出すような深いため息のあと、疲労の滲む目で宵藍を見つめた。
「おまえに謝らなければならない」
 宵藍は心臓がすくみ上がるのを感じた。それを誤魔化すように、デスクに後ろ手をついて、わざとリラックスした姿勢でアオギリと向き合った。
「なにを?」
「黙っていて悪かった。おまえを不安にさせている自覚はあった。けれど、浅葱を説得することで頭がいっぱいで、おまえのフォローまでする余裕がなかった」
 宵藍にしてみれば、おまえは二の次だ、と言われたも同然だった。腹の底に冷たいものが下りてくる。
「いいんだ。おれよりも浅葱とのほうが付き合いが長いんだし、アオギリがどんなに浅葱を大切に思っているか、理解しているつもりだから」
 本当はそこまで割り切れない。宵藍にものわかりのいいふりをさせているのは、エースとしてのプライドというより、自己防衛の本能だった。自分はわかっていた。だから傷つく必要はないのだ、と。
 アオギリは少し考え込んでから、落ち着いた声で語り始めた。
「浅葱とはアマチュア時代からの付き合いで、〈プロキオン〉に同時入団してからは、ずっと俺をアシストしてくれていた」
 アオギリのことを第一に考え、アオギリを勝たせるためならどこまでも自分を犠牲にできる、アシストの鏡のような男だった。2人は最高のコンビと謳われていた。
 ところが浅葱はレース中に落車事故に巻き込まれ、右膝を負傷してしまった。レースに復帰できたとしても、エースをアシストするのは難しい。それがチームドクターの下した診断だった。その浅葱の穴を埋めるために〈プロキオン〉は宵藍と契約した。
 しかし、宵藍の才能はおとなしくアシストの座に収まるようなものではなかった。
「プロデビュー初戦のツアーでおまえが3位入賞したとき、正直、驚いたよ。世の中にはまだこんな才能が眠っていたのかと衝撃を受けた。だから俺は、おまえのアシストに徹しようと腹を括った。けれど……浅葱にはそれが許せなかった」
 浅葱も最初のうちはただ悔しさを口にするだけだった。それが次第にエスカレートしていき、いつのまにか移籍話へと発展していた。アオギリがそれを知ったときには、すでに浅葱は裏でよそのチームの監督に働きかけていた。さすがにまずいと思ったアオギリは、浅葱に移籍の意志がないことをはっきり告げた。それからあとのことは、先程の報告会で湖緑が説明したとおりだ。
 アオギリは苦しげに呟いた。
「浅葱におまえを傷つけさせるわけにはいかなかった」
 それはおれのため? それとも浅葱のため? とは訊けなかった。
「けれど、俺が説得すればするほど、浅葱はどんどん頑なになっていった。そのうち様子がおかしくなってきて……。俺が浅葱を追い詰めてしまったんだ」
 宵藍は後ろ手をついたまま身体を浮かして、デスクの上に座った。
「それは違うよ」
 宵藍にはなんとなく浅葱の心理が理解できるような気がした。だからといって同情するつもりも、擁護するつもりもない。
「本当にアオギリのことを思っているなら、アオギリを苦しめるようなことはできないはずだ。少なくとも、おれなら絶対にしない。たしかに最初はアオギリのためだったかもしれないけど、最終的に浅葱を動かしていたものは、エゴとか自己陶酔とか、そういう身勝手なものだったんだ。だから、アオギリのせいじゃないよ」
 アオギリは悲しげに目を伏せ、首を横に振った。
「心のどこかで、おれはまだ浅葱を信じたいと思っていた。浅葱に仲間を傷つけるような真似はできないと信じたかった。ブレーキに細工がしてあったと聞いたときですら、なにかの間違いであってくれと思ったよ。けれど……」
 痛みに耐えるような表情で言葉を継いだ。
「やっぱり犯人は浅葱だった。俺は……浅葱を止めることができなかった……」
 アオギリは背中を丸めて頭を抱えた。声が掠れる。
「おまえになんと詫びればいいのか……」
 宵藍は無言でアオギリを見下ろした。かつて見たこともない彼の弱気が腹立たしかった。震える肩が悲しかった。浅葱を信じようとするアオギリの一途さが憎かった。
 そんな負の感情が、宵藍を凶暴な気持ちに駆り立てる。
「アオギリは、浅葱じゃなくておれを選んだんだ。おれのアシストでいることを選んだんだ」
 アオギリは自分を選んだわけではなく、単に〈プロキオン〉を裏切れなかっただけであろうことは、宵藍も承知していた。けれど、もう理由などどうでもよかった。アオギリを屈服させたかった。アオギリに、自分がアオギリの王であることをわからせたかった。
「だったら、ほかのことはすべて切り捨てろよ」
 アオギリが顔を上げた。
 宵藍は自分を見つめる青い瞳を捩じ伏せるように睨んだ。
「おれのことだけを考えろ」
 一瞬、青い瞳に銀色の光が過ぎった。
「……わかった」
 それからアオギリは、静かに瞼を閉じた。
「おまえは……エースはそれでいい」





 翌朝、朝食を食べに広間に下りると、いつもと変わらない朝の景色が2人を迎えた。
「あ、おはよう、宵藍、アオギリ」
 ウツギがほっとしたような笑顔を見せた。
 みんな普段どおりを装ってはいても、宵藍たちを労わるような空気はどうしたって伝わってくる。宵藍にはそれが居たたまれなかった。
 なにも言えない宵藍の代わりに、アオギリが口を開く。
「みんな、心配かけてすまなかった」
 すると蘇芳が、寝癖の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜながら、面倒そうに口を開いた。
「あー、そのことはもういいよ」
 蘇芳の場合、2人を庇ってというより、本当に興味がなさそうに見えるのだが、とりあえず彼の言葉にみんなも頷く。
 けれど、ただひとり、アクセルロディだけは意見が違うようだ。
「ちっともよくないぞっ」
 ウツギがぎょっとしてロディを振り返った。
「せっかくヤツが2人の仲を掻きまわしてくれたのに、なんで元鞘なんだ」
「おい、ロディ」
「でもまあ、もうしばらくは宵藍にエースの座を預けておいてやってもいいぜ」
 一瞬にしてその場の緊張が緩む。
「まったくロディは天の邪鬼なんだから」
 蘇芳がからかうと、ロディはむきになって言った。
「預けとくだけだって言ってんだろっ」
「ロディの言うとおりだ」
 意外なことに、ロディに賛同したのはパンデュロだった。読みかけの朝刊から顔を上げ、彼は落ち着いた眼差しで宵藍を見やる。
「エースってもんは、そのとき一番調子のいいやつがなればいいんだ。最近の宵藍は集中力を欠いていたから、仕上がり具合によってはロディにも可能性はあるってことだ。ま、監督は宵藍がきっちり立て直してくると見込んでいるんだろうがな」
 次いでアオギリに顔を向ける。
「それにアオギリ。俺はおまえさんの判断が正しかったとは思わない。おまえが浅葱にかまけている間、おまえのエースはずっと不安と戦っていたんだ。おまえは宵藍の信頼を回復しなければならない」
 年長者の貫禄がアオギリを圧倒する。
 しかしアオギリはパンデュロから目を逸らさず、力強く頷いた。
「わかっている」
 パンデュロはふっと相好を崩した。
「おまえたちがどの程度のもんか、次のレースでお手並み拝見といこう」





第12話につづく                                      にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
PR
■□ COMMENT
HN:
TITLE:
COLOR:
MAIL:
URL:  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT:
PASS:
■□ TRACKBACK
トラックバックURL:


■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

■□ COMMENTS
▼コメントありがとうございました!
[05/27 朔田]
[05/21 ままたみ]
[05/12 朔田]
[05/11 須和]
[05/11 ままたみ]
[05/10 須和]
[05/10 東風]
■□ PROFILE
管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
■□ RANKING
▼ランキングに参加しています。お気に召しましたらポチッとしていただけると大変励みになります。    ※こちらは別窓が開きます。
にほんブログ村小説ブログBL小説ランキング    カテゴリ別オンライン小説ランキング

にほんブログ村トラコミュ[メガネくん萌え]
▲管理人をしています。メガネくん好きの方はぜひご参加ください♪
■□ SEARCH
忍者ブログ [PR]