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創作BL小説ブログ
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 その朝、トキは突然やってきた。
 エントランスでトキを出迎えたアビは、うれしそうに彼の名を呼んだ。階段の上でそれを聞いていた宵藍は、アビとトキが繋がっていたことを悟った。
「黙っていてすみません」
 アビは天藍の指示で宵藍の行動を監視し、逐一トキに報告していたのだと打ち明けた。
 宵藍はショックを受けたものの、そのおかげで自分とアオギリは助かったのだと、逆にアビに礼を言った。
 そうして今、トキとアビ、宵藍とアオギリの4人は、リビングのソファで向かい合っている。
 銀色の長髪を後ろでひとつに束ね、黒い服に身を包んだトキは、鋭いナイフを思わせた。しかし、口を開けば穏やかで物静かな青年だった。
「今日は天藍の命を受けて参りました。天藍は今回の騒動の後処理に追われ、まだあなたとお会いすることができません」
 トキの話によれば、あの施設は閉鎖され、湖緑の研究も凍結されることになったという。施設内で発見された研究の犠牲者たちも、アイオーンの責任において手厚くケアされるようだ。
「浅葱さんのことも、どうか我々にお任せください」
 宵藍は隣のアオギリに目をやった。
 アオギリはしばしの沈黙のあと、「お願いします」と頭を下げた。
 浅葱のしたことは間違っていたが、宵藍には彼を憎むことができなかった。むしろ彼は、その一途さによって身を滅ぼしてしまった悲しい男なのだ。そんな彼を利用した湖緑が、宵藍には一番許せなかった。
「湖緑はどうなるんですか?」
「おそらく死ぬまで幽閉されることになるでしょう。あんな男でも天藍にとっては血の繋がった伯父ですから、処刑するのは躊躇われるようです」
 天藍の気持ちを思いやるように、トキはそっと目を伏せた。
 宵藍にとっては、言ってみれば湖緑はただのチームドクターだが、天藍と湖緑には家族として過ごした時間があったのかもしれない。
 宵藍に天藍の気持ちがわからなくとも、今、目の前で天藍のために心を痛めている男が天藍を理解し、支えてくれているならいいと、宵藍は心から願った。
「天藍は……東雲を亡くしてからはどうしていたんですか?」
「2代目のもとで育てられました。幸い2代目は天藍をとてもかわいがってくださいました。けれど、それが湖緑にはおもしろくなかったのでしょう」
 湖緑は初代の次男、白雨の弟としてなに不自由なく育てられた。初代と白雨は湖緑をかわいがり、湖緑は初代を尊敬し、白雨を慕っていた。だから湖緑は、アイオーンのために不老長寿の研究を始めた。
 しかし、天藍が誕生すると、初代と白雨の関心は天藍へと移っていった。
 初代は息を引き取る間際、白雨を2代目に指名し、天藍の将来を彼に託した。病弱な東雲に代わって、白雨は天藍を実の息子のように愛した。天藍がロードレースをやりたいと言い出したときも、白雨は反対しなかった。
 そんな白雨の溺愛ぶりを見て、湖緑は自分が疎外されていると感じ、次第に彼に対する憎しみを募らせていった。
 そしてあるとき湖緑は、自分は初代が一族以外の、給仕の女に産ませた子だという事実を知ってしまう。
 天藍にNシティのロードレーサーの血が混じっていることを知っていた湖緑は、怒りと嫉妬に狂った。
 給仕の女の血はだめで、Nシティの英雄の血ならいいのか。
 その理不尽な差別に復讐を決意した湖緑は、ますます自分の研究に没入し、人の道を踏み外していった。
「湖緑もアイオーンの犠牲者だったのです」
 トキはそう呟いた。
 
 
 
 アリーナ裏の控え室で、宵藍は静かに出走のときを待っていた。
 ウォーミングアップを済ませ、ベンチに座ってシューズのベルトを締め直していると、隣に座っていたアオギリが感慨深げに言った。
「ついにこの日が来たな」
 そう、夢にまで見たシン・シティGPだ。
 けれど、宵藍のモチベーションはなかなか上がらない。すでにシン・シティに入った目的を果たしてしまったからだろう。そして、GPを走ることにそれ以上の意味を見出せずにいる。
 アオギリはもちろん、あの日の顛末をすべて報告してあるハイタカと蘇芳も、宵藍の胸中を察してくれていた。
 蘇芳がいつもの飄々とした物言いで、宵藍に声をかける。
「22年前に海藍が走ったレースを、その双子の息子たちが戦うんだ。意味なんてそれで充分じゃない?」
 それに反論したのはハイタカだった。
「蘇芳、それは違う。俺たち4人が、GPを戦うんだ」
 ハイタカは鋭い眼光で宵藍を見つめた。
「俺たちはおまえをアシストするためにここまで来たんだ。腑抜けた走りなんかしたら、おまえをここに置いて帰るぞ」
 その台詞に蘇芳が突っ込みを入れる。
「ハイタカ、冗談はもう少し冗談っぽく言わないと通じないから」
「俺は冗談なんか言っていない。本気だ」
「あれま。宵藍、ハイタカは本気だってよ」
 宵藍は思わず笑ってしまった。
「ありがとう、2人とも。おれはもう大丈夫だよ」
 宵藍は忘れかけていたことを思い出した。
 シン・シティGPは宵藍だけのものではない。ここまで一緒に戦ってきたチームのものだ。
 アシストはエースのために、エースはアシストのために走る。それがおれのめざすロードレースなんだ。
 アオギリが壁の時計を見て立ち上がった。
「そろそろ時間だ。シン・シティに〈プロキオン〉の走りを見せつけてやろう」
「おう」
 3人の声が重なった。
 出走の時刻が迫り、出場選手がバイクに乗って、続々とサーキットのスタート地点に姿を現した。人気のレーサーが登場するたびに、アリーナから歓声が沸き上がる。
 そして、その歓声が一段と高くなったとき、宵藍は選手の群の中に天藍の姿を見つけた。
 彼は宵藍に向かってゆっくりとバイクを走らせてくる。
 青みがかった黒髪と、それよりも深い黒の瞳。乳白色の肌の下に無駄のない筋肉を纏ったしなやかな身体。それらは宵藍とまったく変わらなのに、天藍は王の風格を漂わせていた。
 天藍は宵藍の隣に並ぶと、右手を差し出してきた。宵藍はその手をとった。
「ずっと会いたかった。走っていれば、いつか会えると信じていた」
 そう言って天藍は微笑んだ。
「おれもだよ」
 言葉に言い尽くせぬ思いを、宵藍は握った手に込めた。
 2人は今、ようやく兄弟として向き合っている。
 しかし、無邪気に喜び合うには、あまりにも悲しいことが多すぎた。
 天藍は静かに語り出した。
「このままでは、近い将来シン・シティは滅びる。そうなる前に、僕はあの壁を壊したい。シン・シティとNシティが手を取り合って生きていける道を探したいんだ」
 その眼差しは、同じ21歳とは思えないほど老成して見えた。それが宵藍には少し悲しかった。
「天藍はそれで幸せなの?」
 天藍の顔に晴れやかな笑みが浮かぶ。
「宵藍に仲間がいるように、僕にも志を同じくした仲間がいる。僕はこのシン・シティで自分にできることをしたい」
 一抹の寂しさを覚えつつ、宵藍は精一杯の笑顔を返した。
「なんだか天藍のほうが兄貴みたいだ」
 そのとき、スタート信号の赤が点灯した。
 天藍はアイウェアを装着し、ハンドルをしっかりと握った。
「僕はこのレースを最後に引退するよ。これ以上、僕のわがままを通すわけにはいかないからね。でも、宵藍にはいつまでも走っていてほしい」
 信号が赤から黄色に変わった。
 宵藍もハンドルを握り、目の前に延びる1本の道を見据えた。
「おれは走り続けるよ。やっと自分のロードレースを見つけたんだ」
 青が点灯した瞬間、宵藍は力一杯ペダルを踏み込んだ。
 バイクは滑るように走り出し、徐々にスピードを上げていく。
 宵藍の前をアオギリが引く。ハイタカと蘇芳も宵藍の風除けとなって走っている。
 それが、こんなにも心強い。
 宵藍はペダルを踏む自分の脚に力が漲るのを感じた。
 レースに集中する。
 雑念が消え、頭の中がクリアーになっていく。

 ライバルたちの息遣いが聞こえる。
 シフトチェンジの音が響く。

 景色が飛ぶ。
 
 耳元で風が鳴る。





END                                             にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
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【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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