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 四時間目の授業が終了して廊下に出ると、夏人はすぐに隣の教室から出てきた生徒たちに捕まった。
「先生、お昼一緒に食べようよ」
 夏人が顧問を勤める天文部の生徒だ。
「いつもどこで食べてるの? 職員室を覗いても、先生いっつもいないじゃん」
「内緒。俺の分も弁当を作ってきてくれたら考えてやるよ」
 まんざら冗談でもなさそうな口ぶりでそう言い残すと、夏人は職員室に向かった。
 自分の机に教材を置き、パンと缶コーヒーの入ったコンビニ袋をさげて、特別教室しかない四階の一番北側、理科準備室を目指す。
 誰もいない準備室。
 朝、出掛けに部屋の隅に積み上げてある本や雑誌の山から、一冊だけ引き抜いてきたアクアリウムの専門雑誌をおもむろに開く。愛読誌の最新号を読みながらとる昼食は、何よりも夏人の心を落ち着かせた。
 騒がしい生徒をやり過ごしたり、年配の教師に話を合わせたりすることは造作もないが、この大勢の人間が集まる学校の中で、誰にも邪魔されず独りきりで過ごす時間を持つことは、夏人にとって密かな喜びであり、大事な息抜きであった。
 彼に見つかるまでは……。
 突然、隣の理科室に通じるドアが開いた。
 準備室の廊下に面したドアは施錠してあるため、鍵が開いている理科室を経由するしか、ここに入る方法はない。それを承知している人間は、夏人と、あと一人だけである。
「あー、また煙草吸ってるし」
 準備室に入るなり、弘は窓を全開にした。
 今朝の雨に空気が洗い流され、気持ちよく澄んだ風が弘の前髪を揺らす。
 入学式の翌日から、弘は以前とまったく変わらない態度で夏人に接してくる。ただひとつ、あのキスの記憶だけが欠落してしまったかのように、それは不自然なくらい自然だった。違和感を覚えないこともないが、今は弘の望むようにさせてやろうと、夏人は腹を決めている。
 慌てるでもなく、夏人はのんびりと煙草を燻らせた。
「うるさい教頭にバレなきゃいいさ」
 それにしてもどういうわけか、弘には早々にここを嗅ぎつけられてしまった。うっかり鍵をかけ忘れたのがいけなかった。
 そのうえ弘に喫煙を目撃され、教頭にバラされたくなければ自分も仲間に入れろ、という取り引きに応じないわけにはいかなくなってしまったのだ。
 新しくできた友達のこと、ようやく手に入れた携帯電話のこと、以前〈アクア・キューブ〉の前で会った皆川哲太という親友のこと、そして、夏人からもらったアピストグラマ・エリザベサエのこと――いつも弘が一方的にしゃべっているのだが、それでも意外なことにうるさいとは思わない。
 かつてのような静かな時間は失われたけど、弘と二人で過ごす時間にも、案外リラックス効果があるものだと、夏人は感じ始めていた。
 しかし、それは夏人にとって歓迎すべきことではない。
「ねえ、おれにも一本ちょうだいよ」
 机の上に置かれた煙草に、弘が手を伸ばそうとした。
「お前はやめとけ。成長が止まるぞ」
「うっ……そりゃあ、先生よりは小さいけど、これでも平均だよ」
 弘は「イーッ」と鼻にしわを寄せた。そんな子供じみたしぐさに、夏人の表情がほころんだ。
 正直、かわいいと思う。
 弘の容姿は、取り立てて人目を惹くわけでもなく、ましてや美少年というのとはだいぶ違う。顔だけで言えば、弘よりも整っている生徒は、女子に限らず男子にもそこそこいる。
 顔の作りとしては、かわいい系と言えないこともないが、弘の場合、顔がどうというよりも、ちょっとしたしぐさや表情に雰囲気があるのだ。
 今までそういう目で生徒たちを区別したことのない夏人は、冷静にそんな分析をしている自分に戸惑った。
 夏人が何を考えているかなんて、一向に気にかける様子もない弘の陽気な声が、夏人を現実に引き戻す。
「そういえばこの前の土曜日、澤さんの温室に遊びに行ったんだ。すごい水槽の数だよね。あのままショップが開けるんじゃないかな」
「あの温室は秀太朗のじいさんが道楽で作ったんだ。じいさんが生きていた頃は、俺もよく遊びに行ったよ」
 夏人には、澤が自分以外の他人を温室に呼んだことが意外だった。しかし、すぐに弘が澤のお気に入りであることを思い出した。
「澤さんみたいな兄貴がいたらよかったのになぁ。ねえ、先生は兄弟はいるの?」
「ああ、弟が一人」
「なんだ、一人っ子はおれだけか」
 澤には歳の離れた姉がいるが、姉というよりも保護者みたいだ、とよくぼやいていた。きっと、弘を弟のようにかわいがっているのだろう。
「そういえば、エリザベサエの様子はどうだ? 喧嘩は収まったか?」
 弘は腕組みして考え込む。
「うーん……どうだろう」
「一旦、セパレーターで分けてやったほうがいいかもな」
「セパレーターって?」
「水槽の中を仕切る板だよ」
「そんなので二匹を離しちゃったら、子供が産まれなくなっちゃうじゃん」
「大丈夫だよ。雌の身体が黄色くなってきたら、産卵が近いという兆しだから、そしたらセパレーターを外して、二匹を一緒にしてやればいい」
 眉間のしわが消え、弘に明るい表情が戻った。
「よかった。ショップで見たアピストは稚魚をいっぱい引き連れてて、大家族って感じだったじゃん。おれもあんなふうにしたいんだよね。雌と雄も分けたりしないでさ。家族が離れ離れなのって、やっぱり寂しいしね」
 弘の家庭環境を知る身としては、胸が締めつけられる思いだった。
 弘は一人っ子で、しかも両親は離婚し、今は忙しく働く母親と二人きりの生活である。寂しくないはずがない。
「今日、帰りに〈アクア・キューブ〉に寄るから、ついでにセパレーターも買ってきてやろうか?」
「なら、おれも一緒に行く。先生の車に乗せてよ。澤さんにこの間のお礼も言いたいし」
「お前、自転車はどうするんだよ」
「今朝は雨が降ってたから、バスで来たんだ。雨の日は怖くて自転車に乗れないんだよね、おれ」
 かわい子ぶっている弘に、夏人は「情けねえな」と苦笑した。弘もまるで他人事のように笑いながら、雨の日に自転車に乗れない理由を明かした。
 小学生のとき、大雨の中を自転車で走っていたら、突然ブレーキがきかなくなり、そのまま道路に飛び出して、車に跳ねられたのだという。自転車は大破したが、弘は奇跡的に軽傷で済んだらしい。
 弘の向こう見ずな行動と強運に呆れつつ、夏人は素朴な疑問をそのまま口にした。
「なんで雨の中、自転車に乗ったんだ?」
「親が喧嘩してたんだよ。いい加減、嫌気がさして、家出するつもりで飛び出したんだけど、途中で雨が降ってきちゃってさ。まいったよ」
「…………」
 夏人は言葉に詰まってしまった。弘が明るく振舞えば振舞うほど、痛々しくて見ていられなくなる。
 こうしてこの少年はいろんなことに耐えてきたのだろう。
「それより帰りのこと」
「ああ、今日は部活があるから、ちょっと遅くなるぞ」
「大丈夫だよ。待ってる。ついでに夕飯もおごってよ。さっぱりしたものがいいな」
「……本当の目的はそれか」
 柄にもなく絆されてしまった夏人は、早くも後悔し始めていた。





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朝から涙
この回、さりげなく涙腺を刺激します・・・
弘クン・・・泣かせキャラ
顔立ちとかもこの回ではっきりわかりました、美形と言うより表情・・・深い!!余計に泣かせる・・
adocyan 2009/01/03 06:50 *edit
朝早くから
ありがとうございます。

>顔立ちとかもこの回ではっきりわかりました、美形と言うより表情・・・深い!!余計に泣かせる・・
↑私はあんまり美形って書かないんですよ。ぱっと思い出せるだけでも
はっきり美形なのって顕良くらいしかいないんじゃないかなぁ。
私はわかりやすい美形よりも雰囲気のある子のほうが好みなので。
そういう子がきちんと書けるようになりたいです。
朔田圭子 2009/01/03 22:04
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現在、潜伏中です。

【5/7】
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慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
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【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
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【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
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【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
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【1/15】
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