忍者ブログ
創作BL小説ブログ
ADMIN | WRITE | RESPONSE
■□ [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 弘は男のわりに肌が白く、身体の線も細い。けれど、決して女性的というわけではなかった。少し長めの前髪から覗く芯の強そうな黒い瞳が、健全な少年らしさと、どこか庇護欲をそそる危なっかしさを漂わせている。
 達観したような大人びたセリフを、その幼さの残る容姿が裏切っていて、夏人は興味を惹かれた。
 夏人が弘に気をとられていると、いつからか、澤が意味ありげな視線を夏人に送っていた。
「なんだよ」
「この無鉄砲な感じが、昔のナツと似てるなぁと思って」
「俺はこんなに生意気じゃなかった」
「そう? いい勝負だと思うけど……。でも、弘くんの言ってることは理解できるでしょう?」
 澤が自分からどんな言葉を引き出そうとしているのか、夏人にはわかっていた。
 昔、夏人は澤を拝み倒して、熱帯魚を飼育していた彼の祖父との間をとりなしてもらい、ディスカスの稚魚を十匹ほど分けてもらったことがあった。ところが、夏人は自分の不注意でその稚魚を全滅させてしまったのだ。脛に傷を持つ身としては、あまり邪険な態度はとれない。
「まあな、俺も他人に偉そうなことは言えないし」
「だよね」
 夏人はぐうの音も出ない。
「でも、弘くんにはアピストマニアのナツが指南してあげれば、ナツのような失敗はしないと思うんだ」
「マニアとか言うな。なんで俺がこいつの世話を焼かなきゃならないんだ。お前の親戚か何かなのか?」
「違うよ。僕のお気に入りってとこかな。本当は僕が手取り足取り教えてあげたいところだけど」
 手取り足取りってなんだよ、と夏人は心の中で突っ込みを入れる。
「店と自宅の温室で手一杯なんだよね。だから、僕が一番信頼しているナツに、弘くんのことを頼みたいんだ。それに、弘くんはいい子だよ」
「ガキに付き合うのは仕事だけで充分だ」
「あ、そんなこと言っていいのかな。さっき問屋の入荷状況を調べたら、ナツが探してたカイビィーラ川のメンデジィがリストに入ってたよ。明日一番で行かないと、きっとよそのショップに持っていかれちゃうなぁ」
 夏人は一番弱いところを突かれて、喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。
「隣町の〈アマゾニア〉さんも、小型シクリッドには力を入れてるからなぁ」
 澤がもう一押しする。
「そういえば、あそこもお客さんに頼まれて探してるって言ってたような……」
「……わかったよ。俺がこいつの面倒を見ればいいんだろ。その代わり、明日絶対にそいつを確保してこいよ」
「さすがは先生。頼りになるー」
 例の笑顔で、澤は夏人の腕に抱きついた。
「懐くな、鬱陶しい」
 夏人が澤の頭をぽかっと叩くと、澤は「暴力教師」とぼやきつつも腕を解いた。
「ナツさんって学校の先生なの?」
 二人のやり取りを黙って聞いていた弘は、心底意外だという顔で夏人を見上げていた。
「失礼なガキだな」
「あれ、ナツの紹介はまだだっけ? この人は僕の中学時代からの友人で、名前は柏木夏人。生物の先生なんだよ。口は悪いけど、本当はいいやつだから安心して」
 それ以上のことをしゃべらせまいと、夏人は澤の語尾にかぶるように口を開いた。 
「ところで、どのアピストにするか決まってるのか? ひとくちにアピストと言っても種類はいろいろだからな」
 弘が指差した水槽を覗くと、そこに泳いでいたのは、アピストグラマ・エリザベサエのワイルド物だった。
 エリザベサエとは、その美しい色彩とフォルムから、アピストの中でも非常に人気の高い種類である。
 雄の尾鰭は、成長とともにラウンドテールからライアーテール、スペードテールへと変化していく。大きく伸張した各鰭との絶妙なバランスで作り出されるそのフォルムは、完璧なまでに美しい。
 さらに、鱗の一枚一枚が持つメタリックブルーの輝きと、頬から腹にかけての鮮やかなオレンジ色との対比はまさに感動的で、飼い主に飼育する喜びを与えてくれる。
 ここにいる固体はまだ若いものの、大切に飼い込めば、輝くような体色を見せてくれるはずだ。
「なかなかお目が高いね。初心者とは思えないよ」
 感心する澤には同調せず、夏人は弘の懐具合を心配した。
「いい趣味だけど、お前、金はあるのか?」
「持ってるよ。今月分の小遣い、一円も使わずにとっておいたんだ。これ税込みの値段でしょ?」
 水槽の下に貼ってある値札を見て、弘は上機嫌に言った。
 夏人と澤は思わず顔を見合わせた。
「ねえ、ゼロをひとつ見落としてない?」
 思いもよらない澤の指摘を受け、弘はもう一度、値札の数字を確認した。
「え、ええーっ、二万八千円? こんな小さいのが?」
 開いた口が塞がらない弘に、夏人は追い討ちをかける。
「大きさは関係ない。その様子じゃ水槽も買えないな」
 すっかり意気消沈してしまった弘が、ぼそぼそと事情を説明し始めた。
 どうやら水槽やフィルターなどの設備のほうは、父親が進学祝いにお金を出してくれるようだった。しかし、中に泳がせる魚は、弘が自分の小遣いで買う約束になっている。
「アピストってこんなに高いの?」
 今にも泣き出しそうな情けない声に、諦めムードが漂う。
 肩を落とした弘の華奢な背中がなんだか哀れで、夏人はどうにかしてやりたくなった。魔がさした、と言ってもいい。
「しょうがねえな。俺んとこのアピストを譲ってやってもいいぞ」
 弘がぱっと顔を上げ、すがるように夏人を見つめる。
「そのかわり春休みの間、うちの水槽の水換えを手伝えよ」
 それは暗に、自分の部屋への出入りを許す、延いては熱帯魚の飼い方を教えてやるぞ、という夏人の意思表示でもあった。
 こうなることを望んでいた澤は、もちろん「営業妨害だ」なんてことを言い出したりはしない。満足げに微笑んでいるだけである。
「ありがとう」
 弘の人懐っこそうな笑顔と、ストレートな感謝の言葉に、夏人は柄にもなく照れた。
「お前にかまっていられるのは春休みの間だけだからな。アピスト飼育のノウハウをびしびし叩き込んでやる」





第1話へ第3話へ


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
     
ランキングに参加しています。
お気に召しましたらポチッとお願いします。
1日1回のみカウントされます。
PR
■□ COMMENT
HN:
TITLE:
COLOR:
MAIL:
URL:  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT:
PASS:
読んでまーす。
生物の先生になるぐらい、お魚が好きな夏人と初心者の弘クン、カ~ワイイさかなくん達。
これからどうなるの~。
煽ってますよ~。
adocyan 2009/01/01 16:04 *edit
■□ TRACKBACK
トラックバックURL:


■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

■□ COMMENTS
▼コメントありがとうございました!
[05/27 朔田]
[05/21 ままたみ]
[05/12 朔田]
[05/11 須和]
[05/11 ままたみ]
[05/10 須和]
[05/10 東風]
■□ PROFILE
管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
■□ RANKING
▼ランキングに参加しています。お気に召しましたらポチッとしていただけると大変励みになります。    ※こちらは別窓が開きます。
にほんブログ村小説ブログBL小説ランキング    カテゴリ別オンライン小説ランキング

にほんブログ村トラコミュ[メガネくん萌え]
▲管理人をしています。メガネくん好きの方はぜひご参加ください♪
■□ SEARCH
忍者ブログ [PR]