忍者ブログ
創作BL小説ブログ
ADMIN | WRITE | RESPONSE
■□ [PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「先生、柏木先生」
 空の彼方にあった意識が、突然、現実に引き戻された。
「今日、仕事が上がったらみんなで飲みに行こうって話してるんですけど、柏木先生も一緒に行きませんかぁ?」
 昼食を済ませ、他の若い教師陣とおしゃべりに興じていた国語担当の杉浦が、媚びを含んだ笑顔で夏人に近寄ってきた。
 そういえば、今日は金曜日だった。
 こんな日に暇そうな顔をして職員室にいると、嬉しくもない誘いを受ける。
 いちいち断るのが面倒なので、いつもは理科準備室や近所の蕎麦屋を避難場所にしていたのだが、ここ数日間、夏人は昼休みを職員室で過ごすことが多い。
 もう弘と二人きりになるのはやめよう。
 夏人はそう心に決めていた。どうしても準備室に用事があるときは、なるべく授業の空き時間に済ませるように心掛けている。
 そんなことをしなくても、弘はもう準備室には来ないだろう。
 しかし、自分の甘さが事態をここまで悪化させてしまったのだと反省し、念には念を入れることにしたのだ。
 だからといって、毎日のように蕎麦屋で昼食をとっていては、ひと月分の食費などすぐに底をついてしまうので、こうして職員室でコンビニ弁当を食べ、自分で淹れた食後のお茶をすすっている次第である。
「いいですね、と言いたいところですが、今日はちょっと用事があるんですよ。すいませんね」
「そんなこと言って、いっつも断ってるじゃないですかぁー。たまには参加してくださいよぉー」
 鼻にかかった甘ったるい声が、夏人の神経を逆撫でする。内心うんざりしつつ、夏人は愛想笑いをつくった。
「じゃあ、考えておきます」
 
 
 部活動を終えた生徒たちが下校し、校舎の中は波が引いていくように静けさを取り戻していく。
 理科室の戸締りをしてから職員室に戻ると、杉浦の姿はまだ見えず、これ幸いとばかりに、夏人は手早く帰り支度を始めた。
 鞄を持って席を立ったとき、職員室のドアが開いて生徒が入ってきた。
 弘だった。
「先生、もう帰るところだった?」
「まだ残っていたのか」
「ちょっと話があるんだけど……」
「なんだ?」
「ここじゃなくて、どこか別の所で話せない?」
 弘はまわりの教師たちを気にしている様子で、自然と小声になっている。
「悪いが、今日は時間がないんだ」
「じゃあ、先生の用事が終わるまで待ってるよ。そのあとなら……」
「野中くん、柏木先生を困らせてはだめよ。私たち、このあと約束があるんだから」
 突然、杉浦が二人の間に割って入ってきた。
 なんだ、まだいたのか。
 夏人は小さく舌打ちした。しかし、すぐに考え直して、この場は彼女を利用させてもらうことにした。
「野中、そういうことだから、すまない。話はまた今度にしてくれ」
 弘はじろりと杉浦を睨むと、それ以上は何も言わず、職員室を出ていった。
 
 
 成り行き上、杉浦の誘いを断れなくなってしまった夏人は、同年代の教師たちに混ざって、駅前の居酒屋まで歩いた。
 旨くもない酒を飲み、同僚の話に上の空で相槌を打つ。その間も夏人の頭の中を占めているのは弘のことだった。
 もしかしたら、何か別の用件があったのかもしれない。
 そう思うと、夏人は後悔の念に囚われた。
 なにも好き好んでで弘に冷たく当たっているわけではない。夏人だって、本当はやさしくしてやりたいのだ。でも、それをしてしまっては、弘も夏人も後戻りできなくなってしまう。
 夏人は賑やかな酒の席いることがますます苦痛になってきて、適当に理由をつけて店を抜け出した。今日もいつものように車で出勤していたのだが、仕方なく学校に車を置いたまま、バスで帰ることにした。
 駅前のバス乗り場に並んでいると、駅から出てきた見知った顔に、夏人の視線は釘づけとなった。
 相手もすぐに夏人に気づいた。
「やあ、久しぶりだね」
 その、なんのわだかまりも感じさせない態度に、夏人は面食らった。
「……どうして、ここへ?」
「久々にこっちの仲間と飲む約束をしてるんだ」
 小田切は嬉しそうに微笑んだ。
「あんな別れ方をしたから、もう口をきいてくれないんじゃないかと思ってた」
 夏人もそのつもりだったが、あまりにも唐突な再会と小田切の屈託のなさに、毒気が抜かれてしまった。
「別に、子供じゃあるまいし」
 そう言った次の瞬間、夏人は澤の言葉を思い出した。
「そういえば、子供が生まれるんだって?」
「えっ……、ああ、澤くんから聞いたのか」
 戸惑いながらも、小田切は照れくさそうに頷いた。
「不思議だな。まさかこの僕が子供を持つなんて……」
「まあ、それもいいんじゃないの。おめでとう」
 すんなり祝福の言葉が出てきたことに、夏人自身驚いた。この前までの彼に対する憎しみは、すっかり影を潜めている。
 と言うより、今は弘のことで頭が一杯で、小田切に対する恨み言を思い出す余裕がなかった。
「ありがとう。夏人にそう言ってもらえただけで、あの子は幸せになれるような気がするよ。で、夏人は? 今、幸せ?」
 夏人の脳裏に、弘の悲しげな顔が浮かぶ。
「どうかな。好きなやつを幸せにしてやることもできない人間が、幸せになれるとは思えない」
 小田切に対しては、もう意地やプライドなど必要ないように思えた。むしろ、聞いてほしいとさえ思っている。今の夏人には、弘とのことを相談できる人間は彼しかいなかった。
 弱気になってるな、と夏人は自嘲した。
「なんだ、恋人と喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩以前の問題さ」
「うーん、夏人は先のことを悪いほうへ悪いほうへ考える癖があるからね。でも、そんなのつまらないよ。もうそろそろ、自分の気持ちに素直になってもいいんじゃない?」
 次の瞬間、小田切はすまなそうに笑った。
「僕が言えることじゃないか。……でも、僕はもっと早く夏人の弱音を聞きたかったよ」
 夏人は、はっとした。
 それまで、自分のほうが一方的に小田切に裏切られたのだ、と夏人は思い込んでいた。しかし、彼には彼なりの苦悩があったのかもしれない。そしてその原因は、自分が作り出していたのかもしれない。
 そんなふうに考え方を変えると、今まで見えなかったことが見えてくる。ようやく、少しだけ視界が開けてきたような気がした。
 小田切に心の中で感謝しつつ、夏人はやってきたバスに乗り込んだ。窓の外で小田切が手を振っている。
 いつのまにか、小田切に対するわだかまりはすっかり消えていた。





第11話へ最終話へ
最初から読む


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
     
ランキングに参加しています。
お気に召しましたらポチッとお願いします。
1日1回のみカウントされます。
 
PR
■□ COMMENT
HN:
TITLE:
COLOR:
MAIL:
URL:  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT:
PASS:
■□ TRACKBACK
トラックバックURL:


■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

■□ COMMENTS
▼コメントありがとうございました!
[05/27 朔田]
[05/21 ままたみ]
[05/12 朔田]
[05/11 須和]
[05/11 ままたみ]
[05/10 須和]
[05/10 東風]
■□ PROFILE
管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
■□ RANKING
▼ランキングに参加しています。お気に召しましたらポチッとしていただけると大変励みになります。    ※こちらは別窓が開きます。
にほんブログ村小説ブログBL小説ランキング    カテゴリ別オンライン小説ランキング

にほんブログ村トラコミュ[メガネくん萌え]
▲管理人をしています。メガネくん好きの方はぜひご参加ください♪
■□ SEARCH
忍者ブログ [PR]